真夜中のスーパー・フリーク
「…真面目に銃撃戦やんのが馬鹿馬鹿しくなってきますねー…」
「まーそう言うなって!良い腕してんじゃねーか、少尉」
突如広場のど真ん中に打ち込まれた焔が消えた先には、5、6人の男達が転がっていた。予想外の反撃に浮き足立った残りの連中を無力化するのは非常に簡単だった。
しみじみ呟きながら、ちょっと焦げの目立つ残りの一人を後ろ手にふん縛るとハボックはさて、と振り返ろうとして、動きを止めた。
「…? どうかしたか?」
って、おや。
「・・・まだ残ってたのか」
屋敷からよろよろと出てきた男は、小柄なフードの人にナイフを突きつけたまま、盾にするように抱え込んでいる。
「あ・・・!」
フードから覗いた顔に、ヒューズは、ち、と忌々しげに舌打ちした。
「どうりで小さいのが混じってると思ったら人質連れてきてやがったのかよ…!」
「・・・宿の娘か?」
ナイフを喉元に突きつけられ、女は脅えきった顔で震えるている。ナイフを持った男は既に半分正気ではないんだろう。血走った目で武器を捨てろと叫き散らした。
2人同時にロイを振り返る。眉を潜めたまま、答えずに彼は銃をその場に投げ出した。
それに倣い、2人も次々に銃を手放す。
その場を動くな、と言い捨ててじりじりと男は後退する。屋敷の中に何処かへの抜け穴でもあるのかもしれない。
だがもしこの場で逃がせば、逃亡の邪魔になる彼女は必ず何処かで殺される。
じりじりと焼け付くような焦燥感に堅く手を握りしめた。
「大佐・・・!」
「・・・何故一人で来たのかと聞いたな」
「…え?」
視線を男から逸らさぬままに、彼は小さく呟いた。
別に一人ではない、と。
つ、と。
彼の唇が緩やかに弧を描いた。
「私には――――私たちには鷹の目がついている」
その意味を問い返すよりも速く、彼の指が摺り合わされた。
威嚇のように男の目前で焔が膨れ上がり、辺りを明るく照らし出す。
ヤバい。
焔に逆上した男が反射的にナイフを振り上げるのが判る。反射的に彼女の方へ駈けだした瞬間。
男が大きな衝撃を受けたように、もんどり打ってその場に倒れた。
「な…!」
彼女の身柄を引き寄せて確保した後、目を凝らして良く見れば、泡を吹いて倒れた男の手の甲の真ん中に、風穴が開いていた。
まさか、と振り返ると、こちらに背を向けた上司は何処かへ合図を送るように手を上げている。
「相変わらず容赦ねぇなぁ、中尉」
その方向へ同じように盛大に手を振りながら、傍らでヒューズが呟く。
・・・ああそうか。この庭が見渡せる高さの場所。
きっとそこには彼の副官がいるんだろう。
その頃になってようやく遠くから車や何やらの音が近付いてくるのに気がついた。
深夜の残務処理にわらわらと現れた軍人達の中には見知った顔も混じっていた。
「よう、お疲れさん」
「・・・何だよ今頃。楽しやがって」
うら、と突き出た腹を叩いてやると、逆にへっと鼻で笑われた。
「オレだって夜勤明けを無理矢理叩き起こされたんだ」
いーじゃねぇか役得野郎。
茶化すように小声で言って、じゃな、と乱暴に肩を叩かれた。
多少の労りが籠められているんだろうそれで、漸く終わったんだな、と実感がわいてくる。
ああ、何か、怒濤だった。
「邸内に抜け道があるかもしれん。隅々まで捜索しろ」
良く通る声が指示を出すのを少しばかり遠くに聞きながら、自分に縋り付いたまま泣く女の背を宥めるように撫でて。
・・・温かくて良かったな、と。
ようやく息をついて、肩の力を抜いた。
作品名:真夜中のスーパー・フリーク 作家名:みとなんこ@紺