妖アパ 千晶x夕士 『想』
宿屋に戻った夕士達は、コクマーが話した内容について話あっていた
「こりゃ久々の大当たりかもな」
「『魔道書』ってことッスよね?」
途中売店で購入した「ロンドン・プライド」ビールを飲みながら話し合っていた
「彼女たちが所有していた『絵本』には『羽』が生えていたと仮定する」
「はい」
「彼女たちは川や森でよく遊んでいたらしい」
「『妖精』が好む場所ッスよね」
「種族によって異なるが、床下や廃墟になった民家、寺院、水中、森の中に住むという」
「そして"出合った"と?」
うーん、と古本屋は顎を擦りながら「遊んでるうちに異空間にでも迷い込んだ?」と
ポツリともらした
「一般的に妖精の住む『妖精界』は時間の進みが遅いって言うッスね」
「だよな。迷い込んでたら浦島太郎状態になるな」
結論のでない議論を繰り返していた夕士達は、ビールを飲み干し早めに就寝となった
*
大学での講義予定日までの三日間、夕士は古本屋とは別行動で観光をしていた
もともと取材旅行で渡英しているのだから、成果を持って帰る必要がある
国際メディア博物館「National Media Museum」
ブラッドフォードから北に位置する「Saltaire Village」名所旧跡を巡り
「Lister Park」をのんびりと散歩する
点在する彫刻を眺め、写真を撮りまくる
公園内には親子連れがいて、広場でボール遊びをしている
中にはマットを敷いて横になっているカップル
木陰で本を読む男性
ゆったりとした中、時間が過ぎていく
出発前のモヤモヤした気持ちが、今ではすっかり晴れているように感じる
夕士はベンチに腰掛けミネラルウォーターを口に含むと乾いた喉を一気に潤す
はぁーーと息を吐き高い空を見上げる
--- 千晶今頃なにしてるかな?
メシちゃんと食ってるかな、正宗さんや薫さんに我儘言ってなければいいけど ---
イギリスに来ても千晶のことを考えている自分が少し照れくさくなった
--- ホント、世話の焼けるお坊ちゃまだ
「おや?夕士くんじゃないか?」
「へ?」
俺は声が聞こえた方を向くと、英国紳士が束になっても敵わない程のカッコいい男性が
近寄ってくる
千晶とウリふたつ、千晶家長男の ---
「恵さん?」
「久しぶりだね。元気そうでなによりだ」
ニコリと笑う恵さんを見て、「あーやっぱり千晶そっくり」と思ってしまう。
丁度千晶のことを考えていたので、余計にバツが悪い
少し頬を染めながら、立ち上がる
「旅行ッスか?」
「そ。ちょっとリーズの知人に呼ばれてね。今日は一人で散策ってところだ」
そよそよと気持ちい風が、恵の前髪を揺らす
「めずらしいッスね。恵さんはヘリで空中散歩でもしてそうですけど」
「あはは。それは昨日済ませたよ」
--- 流石というかなんというか…
遠く離れた場所で、知り合いに逢えるとは思ってなかった夕士のテンションは急上昇した
「時間は早いけど、ディナーを一緒にどうだい?」
「え?!いいッスか?あ!!でも古本屋さんと一緒なんスよ」
「彼も一緒に来てるのか。それなら三人でどうだ?」
夕士は「ウス!連絡してみます!」と言って古本屋の携帯(空港で借りた)に連絡する
「……はい。りょーかいッス。じゃ」と切って、恵に向かい合う
「すいません。古本屋さん今日は用事が入ってて無理っぽいです」
俺と二人でもいいですか?と尋ねると「もちろん」と極上の笑顔で返事が返ってきた
作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico