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妖アパ 千晶x夕士 『想』

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メインキャンパス内に入っての夕士の印象は、イギリス人が少ない!という感想だった
留学生が非常に多いのだろうが、パキスタン系の生徒を多く見かけた

「留学生多いッスね」
「イギリスは移民を多く受け入れてるからな。物価や土地も安いし隣のリーズなんかは
 パキスタン系の移民が多く住んでる」

物知りだなぁーと少し関心しながら大学内を見て回る

小高い丘の上に立つキャンパスはゆるやかな坂道が多い
奥へ奥へと進んでいくと、学生を見かけなくなった

「ご機嫌うるわしゅう、ご主人様」
ポンと肩にフールが現れ、仰々しい挨拶をする

「珍しいな、最近は呼ばなければ『本』から出てこないのに」
「ほほほほ。何やら古本屋殿に一杯喰わされたご様子。
 我ら一同、ご主人様のお役にたてればと、参上致しました」

その言葉を聞いた古本屋は「俺悪くないもん」と明後日の方向を向いていた

「とは言ってもなぁー」
夕士はフールを見つめながら「お前たちの出番はないのでは?」と首を傾げると
「ノルンは如何でしょうか?」
「え?あの仲の悪い三姉妹か?」

学生の時、三浦事件でノルン三姉妹を呼び出したが「ドロドロとした…」しか言わず
理解に苦しんだことを思い出した

苦虫を噛み砕いたような表情をすると、「では、ホルスの眼で偵察などは如何ですかな?」
と必至に『プチ』勧めてくる

「あのな。いくら縮小できると言っても空中に黒いピンポン玉が浮かんでたら一大事だろ」

フールを掴み目の前まで運ぶと、ショボンと肩を落し「ですが…」と何か言いたげだ

なんだよ、と睨みつけると
「我々一同は、ご主人様のお役に立ちたいのです!!」とプルプルしながら叫ぶ

最近、突拍子もない事件には巻き込まれない為『プチ』の使用頻度は極めて低い
そもそも『妖魔』や『妖精』に助けを求める事態を夕士は望んでいない

うーむ、と考えていると、古本屋が肩をチョイチョイと突くので「はい?」と振り返る
「コクマー呼び出せないか?」

夕士は眉間に皺を寄せ、
「…知ってるハズっすよね?ご隠居は耄碌してるッスよ?」
「『プリンセス・メアリーのギフトブック』のこと、知ってる可能性がある」

自信満々な古本屋の意見に、フールは目を輝かせ、夕士はため息を吐いた
「…期待しないでくださいよ」

辺りを見回し周囲に夕士たち以外の気配がないことを確認する

「『隠者』!コクマー!」
「コクマー!ミネルヴァ女神に仕える梟の眷属です!」とフールが続く

現れたコクマーはヨボヨボの梟
目は開いているのかどうかさえ分からない

「コクマー、『プリンセス・メアリーのギフトブック』について話してくれ」

「うーむ。1922年に行われたイギリス王ジョージ5世の王女メアリーの結婚式のために…」
「ご隠居、それはプリンセス・メアリーというジンベースのカクテルですよ」

「1542年12月8日、リンリスゴー城でジェームズ5世の第3子として生まれた…」
「ご隠居、それはメアリー・ステュアート、スコットランド女王です」

相変わらずな回答に、夕士は肩をすくめながら
「だから言ったでしょ」と隣にいる古本屋をチラリと見た
しかし、古本屋は気にした様子はなく「次は?」とコクマーから情報を得ようとしていた

「1915年発行、踊る妖精の絵が描かれた絵本でな…」
「ビンゴーーー!!」

古本屋の雄叫びに一瞬驚いたコクマーだが、コッホンと咳払いをして話を続ける

「実際の絵本自体には妖精は描かれておっても『羽』は生えていなかった」
「じゃ、『羽』は少女たちが書き足したと?」

「うむ。少女らが所有していた『絵本』には『羽』が生えておったのだろう」
「つまり、一般に売られた『絵本』とは異なっていたってことか?」

コクマーはコックリと船を漕ぎだし、「ご隠居、起きてください!」とフールが身体を揺らす

ここからが本題だ!というところで、肩すかしをくらう夕士と古本屋
「…時間切れです。戻れ!コクマー!」
夕士はコクマーを『プチ』に戻した

作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico