妖アパ 千晶x夕士 『想』
恵に連れられ入ったお店は「Krave Delicatessen」アメリカ料理だ
「何か変な感じッス。恵さんと一緒にジャンクっぽいの食べるって」
「あはは。俺だっていつもコース料理を食べてるわけじゃないよ?」
オーダーは恵に適当に任せ、夕士は大人しく向い側に座っていた
姿、形、声、話し方、仕草、
すべてが千晶とダブり、心の中がほんわりと暖かくなる感じを受けていた
--- 俺は六年後の千晶に逢ってる気がする
夕士は優雅にオーダーする恵の姿をぼーっと見つめていた
テーブルに飲み物が運ばれ、ビールで再開を祝し乾杯する
頼んだ食事がテーブルを徐々に埋め尽くす
白いプレートを覆い尽くすほどのポテトや超キングサイズのバーガー
トロピカル風巻きずし、山盛りのカットフルーツなど
恵は上品にビールを呑みながら「うまい!」と食べる夕士の姿を見て微笑む
腹八分目で落ち着いたところで、恵があまり食べていないことに気が付いた
「すいません、俺ばっかり食べてて…」
「いや、気にしないでいい。夕士くんを見てる方が楽しいからね」
ニコニコと笑いながら「ほら、もっと食べて」とプレートを前に勧める
黙々と食べていると「ところで夕士くん」と話しかけられた
「最近、ナオミの様子はどうだい?」
夕士は頬張っていたフライドポテトをゴクリと呑みこんでしまい
咳き込んでしまった
ビールで喉の痞えを流し込み、ナプキンで口を拭く
落ち着いたところで恵の質問に答える
「なんか最近は積極的に歌ってるようです。体調については崩してないっぽいッス」
「そうか。元気なのかな?」
「ええ。それは」
そうか、と恵は確認するように頷く
「夕士くんは一段と男前がアップしたな。彼女が心配するだろう」
「彼女なんていないッス」
「ほーそれは驚いた。夕士くん程の男性なら女性が放っておかないだろう」
「俺の周りにいる女性達は一般枠に収まらないッス」
「それとも夕士くんは『女無用』なのかな?」
クスクスと「ごめん、ごめん」と笑う
懐かしいな、『女無用』ってセリフ---
夕士は学生時代を思い出しながら、恵に話し出した
「学生の頃、仲の良かった女友達に同じこと言われたッス」
「興味深いね。なぜ彼女はそういったのかな?」
「俺、浮いた話はないし、二年の後半からは千晶が赴任してきて、結構一緒にいたんで」
「なるほど、それで『女無用』ってことかい?」
「はい。彼女たちは俺と千晶を見て『萌えーー』て悶えてました」
--- 懐かしい思い出
あれから10年以上も経っているのに、俺の記憶は鮮明に覚えている
千晶が赴任してから、ドラマのような事件が起きたのも原因のひとつかもしれない
きっと千晶自身がトラブル体質に違いない ---
「夕士くんはナオミのことをどう思ってるんだ?」
「は?」
夕士はハトが豆鉄砲をくらったような間抜け顔で恵を凝視した
「ナオミとキミを傍から見ていると、『普通』とは思えなくてね」
うーーん、と夕士は腕を組み首を傾げる
「別に偏見があるわけじゃないよ。誤解しないでくれ」
「ええ、そんなことは思っていません」
それじゃ、と恵さんはフライドポテトをフォークで刺しながら
「例えば、ナオミが見合いをして結婚するって言ったら、夕士くんはどうする?」
「え?千晶見合いするんですか?」
「いや、例えばの話だよ。キミは祝福してくれるかい?」
「…もちろんです」
「本当?」
顔を覗き込むように見られ、夕士はつい顔を背けてしまった
「多分ね、ナオミは夕士くんを他の人に取られたくないって思ってるよ」
「…そうですか?」
「うん、ナオミを見てれば分かるよ。兄弟だからね」
と言って、恵さんは軽くウィンクをする
「実は…」と、この間千晶に言われたことをポツリポツリと恵に話し始めた
恵は驚いた顔をしたが、次第に眉間に皺がより
「そうか、ナオミがね」と苦しそうな表情になった
話し終ると、「甘え上手が仇になったのかな」と呟いた
「器用に立ち回るクセに、夕士くんに対しては不器用なんだな」
「?」
「で、それを聞いた夕士くんはナオミとの関係を"どうしたい"の?」
ビクッと身体が固まった気がした
「俺は…」と言って、俯いてしまった
--- 千晶の傍にいたい
千晶の心を捕まえて、俺だけに甘えさせて、俺だけを…見てほしい ---
恵の一言で夕士は気付いてしまった
--- こんな感情は初めてだ
これを『恋』というのなら、俺は千晶のことが『好き』なんだと思う ---
そう思った瞬間、顔が赤くなり茹でたこのようになってしまった
「うん、それが夕士くんの答えかな」
「…ウッス////」
「近々日本へ帰るよ。その時には最初に連絡すよ」
「ウッス」
恵さんは伝票を手に「さて、そろそろ帰ろうか」と立ち上がった
作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico