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妖アパ 千晶x夕士 『想』

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今後の対策を練るにあたり、まずは千晶の傍に『彼女』達の存在が確認できるかを
調べる必要があった

仮に『彼女』達が近くにいた場合、『絵本』に戻るよう三枝が説得する方向でまとまった
(説得できなかった場合、次の手段を講じる必要があるが、今は可能性にかける)

古本屋と別れた夕士たちは、千晶の住むビル付近を歩いていた
一番良いのは直接千晶と接触することなのだが、今の夕士は躊躇っていた

「遠くからチラッと見ただけでもわかるか?」
未だに腕にしがみ付く三枝に尋ねると、「たぶん?」と首を傾げて答える

「おいおい、頼みのキミがそんな弱気じゃ困るんだけど?」
「実体化していれば、稲葉さんも気付かれると思いますよ?」
「姿消してたら俺にはわからない」
「大丈夫ですよぉー」

ニコニコと答える三枝を引き連れ、もう少し近づく
すると、タイミング良く千晶がエントランスから出てきた

「ナイスタイミング!千晶!」
グッと握りこぶしを作り喜ぶと、後ろからスラリとした美しい女性が続いて現れた

その女性は千晶の肩に触れ、まるで恋人同士のような雰囲気で微笑み合っている
スルッと千晶と腕を組み歩く後姿は美男美女のカップル

影から見ていた夕士は、無意識に胸を掴み鼓動が早くなる

ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ …

「『精霊』でございますな、ご主人様」
フールの声で我に返り、ふと隣を見る

三枝もコクリと頷き「どうしますか?」と視線で問いかける

「後をつけるしかないだろう…」
気は進まないが仕方がない

千晶達に見つからない距離で後をつけた

歩いて数分の所にお洒落なカフェがあり、千晶たちは中に入っていった
日差しが強くなる中、気を張りながら尾行を続けていた夕士たちも
涼しい店内で休憩したいところだ

「この際、偶然を装って入りませんか?」
大胆な賭けに出た三枝を見て、「大丈夫か?」とも考えたが、流石に喉が渇いた

「よしっ、行くか!」と気合を入れ、三枝と共に店内へ入った



店内は程よく涼しく、火照った身体をじわじわと冷ましてくれる
店員に案内されて座った席は、千晶たちの後ろだった
席はボックス風タイプになっており、また千晶が後ろ向きだったので気付かれていない

ホッと安心し、小声でアイスコーヒーをオーダーする

夕士たちはコソコソと話しながら、『彼女』が一人になるチャンスを伺う

暫くすると、千晶の携帯が鳴り「すまん」と言って席を立った
このチャンスを逃さず、千晶が外に出た瞬間に『彼女』に接触した

「こんにちは」
ニコリと三枝が笑いかけると、ビクッとして顔が引きつっている

「どーも、はじめましてかな?」
夕士も続いて挨拶する

『彼女』の隣に三枝が座り、夕士は対面に腰かける

三枝は『彼女』の髪を撫でながら「ねー、分かってるよね?」と尋ねると
『彼女』は顔面蒼白になり「だって…」と涙目になっていた

美人の泣き顔は滅多に拝めることはない
夕士は一瞬ドキッとしたが、これがフェロモン効果なのか?!と思った

「時間がないの。単刀直入にいうわ。も・ど・り・な・さい」
剣を帯びた声で三枝が告げると、ヒッ!と肩を震わせた

二人のやり取りを見ていて気付いた
どうやら主従関係では、三枝の方が強いらしい

『絵本』の中にいた『彼女』にとって、三枝はある意味マスター(ご主人様)に
あたるのかもしれない

夕士は千晶が戻る前までに片を付けねばと、チラチラ外の様子を伺う

「もう少しだけ…今日だけ…ね、お願いよ」
と半泣きで三枝に詰め寄ってくる
三枝は「だーめ。みんな迷惑してるんだから」と取り扱わない

すると、夕士の方を見て「お願いします!半日だけでいいんです!」と
テーブルに叩きつける勢いで頭を下げてきた

夕士は腕組みして「日付が変わったら、本当に戻ってくるのか?」と尋ねる

「稲葉さん?!」と三枝は驚いた様子だが、片手をあげて再度確認する

--- 俺も大概甘いと思う。
『幽霊』やら『妖魔』やら『妖怪』やら

彼らだって、それぞれに想いはある
今『彼女』の思いは、今日だけ千晶の傍にいたいという願い ---

なんとなく…なんとなくだけど、無碍にできないと夕士は思った

『彼女』は「はい、約束します」と答え、夕士は静かに頷き三枝と共に席に戻った

電話を終えた千晶が席に戻ったタイミングで店を後にする

「良かったんですか?」
三枝は少し戸惑った様子で顔を覗き込んできた

「ああ、もう少しだけ『彼女』を自由にしてあげよう」
「まるでシンデレラみたいですね」
「ああ、そうだな」

高い空を見上げながら、「今日も暑いな」とつぶやいた

作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico