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妖アパ 千晶x夕士 『想』

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どちらとも言葉を発せず、店内の音楽と客の笑い声が聞こえる
俯き空になったグラスを手に持っていた俺は、ぼそりと呟いた

「千晶、最近何かあったか?」
「何か…とは?」
「例えば…新しい仲間が増えたとか…彼女が…できたとか?」
「……」

千晶は眉間に皺を寄せ、「何言ってるんだ?」と目が訴えていた

「いや…何もないなら別に…」
「どうしたんだ?稲葉。大体お前今執筆中だろ、どうして来た?」

夕士の右肩をグイッと押し、千晶の正面に向いた
顔を上げた瞬間、俺は目を瞠った

ゆっくりとステージに上がる美女
バイオリンを片手に優雅にお辞儀する

店内の騒音は一気に静まり、演奏が始まるのを待つ

「おい…あれ…」
絞り出すようなか細い声を拾った千晶が、夕士の視線を追う

「ああ、新しいバイオリニストだ」
それがどうした?と千晶は視線を戻した

「稲葉?」
「見つけた…」
「おい、稲葉?」
千晶は肩を揺さぶり続けるが、俺はステージ上の美女にくぎ付けだ

白く細い指で美しい音色を奏でる
その姿に皆、魅了されていく

薄い緑のロングドレスに身を包んだ美女は
まるで湖のほとりで、緑の大地で、天高く澄み渡る空の下で踊る様に

--- これが…魅惑か

今いる場所が分からなくなる
異世界へ迷い込んだかのような錯覚を覚えた

夕士は頭を左右に振り、「違う」と呟く
しかし、また彼女を見ると吸い込まれるように気が遠くなる

「気をしっかりお持ちくださいませ、ご主人様。」
ポンとフールが飛び出し、夕士と千晶の間で浮いている
フールは顔をペチペチと叩き「ご主人様」と声をかける

ハッ!と我に返り、焦点の合わない目でフールを捉え、そのまま千晶の方へと視線を上げた
千晶はフールを凝視しながら「急に出てくるな、心の準備が…」と
ブツクサ言っているのが聞こえる

もう一度、フールへと視線を戻し「フール」と声をかけると
「如何いたしますか、ご主人様。」と神妙な顔つきで指示を仰ぐ

「店内では目立つ、一旦古本屋に連絡後『彼女』が一人になるのを待つ」
「かしこまりました」
ポフンッとフールが消えると、千晶は「何を隠してる」と左手を夕士の頬に添えて尋ねた

「細かい事情は片付いたら話す。今は…ごめん」
立ち去ろうとする夕士の腕を捕まえ「何か厄介ごとか?」と無言で訴えかける

「迷惑かけると思う。いや…既にかけてるな、ごめん千晶」
捕まえる腕をやんわりと外し、クラブ・エヴァートンを出た



古本屋に連絡し、簡単に状況を説明すると
「奴さんに連絡とれ、今から俺も行く」と電話を切った

夜分だが、三枝の携帯に連絡すると二つ返事で了承してくれた
夕士は生暖かい風に吹かれながらビルの前で両名が来るのをただ待っていた

作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico