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妖アパ 千晶x夕士 『想』

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用事が済んだ三人は、「さて、帰るか」と古本屋の後に続く、が…
「古本屋さん、階段使ったんスか?」
「いや、千晶センセーに鍵借りた」

見覚えのあるキーホルダーのリングに右手の人差し指を通し、クルクル回しながら笑う
 
え?---

すると、千晶が暗闇の中でもわかるぐらい不機嫌な表情で屋上の柵に寄りかかっていた
「いやー千晶センセー助かったよ」
チュッと投げキッスをする古本屋を無視し、ズカズカと脇目も振らず夕士の前まで歩いてくる

固まったように動かない夕士を心配した三枝が「稲葉さ---」と声を掛けるが
かき消されるように千晶の声が響いた

「稲葉、説明しろ!」

グイッと腕を引っ張られ、唖然としている二人を置いて
夕士は千晶に引きずられるようにエレベータに乗せられた



千晶の部屋に通され、リビングのソファーに乱暴に放り投げられる
そのまま、千晶は夕士の上に覆いかぶさるように陣取った

「ッツ…千晶!」
「稲葉!」

逃がさないぞ、という剣呑な空気が辺りを支配する

ふーと息を吐き「説明するよ」と両手を上げ降参ポーズをとる
千晶は夕士の身体の上に跨いだ状態のままだが、そのまま経緯を説明した

取材旅行でイギリスに行った理由の一つ『プリンセス・メアリーのギフトブック』のこと
大学で『絵本』を保有する三枝美紀との出会い
『絵本』から『精霊』が逃げ出してしまったこと
『精霊』たちは帰国後に千晶を気にいり、憑いて行ったこと
『精霊』たちとの交渉で穏便に終結を迎えるハズが、予想外なことになったこと

「後は…見てたんだろ?」
千晶の目を見て話していた夕士は、急に恥ずかしくなって視線を逸らした

「結果的には丸く収まってよかったよ」やれやれ、と一息つくと
「まだ、終わってない」

千晶は眉間に皺を寄せながら、苦しそうに呟いた

「三枝って子との関係は?」
夕士の右腕を力強く掴んだ

「はぁ?関係って…千晶何言ってるんだ?」
「随分と親密そうだったが?」
「気のせいだろ?」
目を細め、疑いの眼差しで夕士を見つめる

--- そんな表情なのに、カッコいいと思ってしまうのは不謹慎だろうか

「滞在中、彼女と一緒だったのか?」
「あ?数回飯食ったが、それだけだよ」
「お前は彼女のことを、どう思ってるんだ?」

泣き出しそうな表情で見つめる千晶を、つい放っておけず
自由の利く左手で、千晶の頬に手を添えた

「千晶、何を勘違いしているかわからんが、彼女は最近できた『女友達』だ」
「……」
「千晶?」
身を少し起こし、何も言わない千晶に近づく

首を傾げていると
「なー稲葉、初めてのことで困惑してんだけどさ、相談乗ってくれるか?」
唐突に話題を変えられ困惑していると、千晶は了承と思ったのか淡々と話し始めた

「気になるヤツがいて、かれこれ10年越しになる
 はじめは気の合う友人のような感じだった
 だが気が付けば…俺の中で大きな存在となっていた
 俺は生活感ゼロで甘えたがりだからな、そいつにはいつも世話になってる」

--- 正宗さんのことでも話しているのだろうか?
真剣に話す千晶をジッと見つめた

「俺は他人に執着を持たない、俺自身束縛されるのが嫌いだからな
 いつもなら適当に愛想振りまいて、頃合い見計らって終わりって感じだ」

千晶が何を言っているのか理解が追いつかず、更に夕士は困惑する

「そんな俺がはじめて"嫉妬"してるんだ
 鎖につないで、どこにも行かないよう、部屋に閉じ込めたい、と考えている」

狂ってるよな、と千晶は苦笑いをする

「俺は…三枝って子に"嫉妬"している
 お前を取られそうになって、気が狂いそうなぐらい"嫉妬"してる」

「千晶…」

「気が付けばストンと気持ちも楽になる
 この間の俺は、まだ気付かなかったから、モヤモヤとしていて理解できなかった」

お前が帰った後、正宗や薫に散々言われたよ、と

「稲葉、俺はお前が好きだ。お前の全てが欲しい」
「なっ////」

「大人しく俺のモノになれ、稲葉」

赤面する夕士にニヤリと笑い、千晶の顔が近づいてくる
口をパクパクさせていると、額に、目尻に、鼻にキスをする

「千晶…俺…」
「黙ってろ」

そっと口づける唇は、少しひんやりしていて、だけど心が温かくなる
目を見開いてると「目、閉じろよダーリン」と耳元で囁き、夕士は咄嗟的に固く瞑った
クスッと笑い声が聞こえたが、気にする間もなくまた唇が重なる

唇をなめられ、舌でノックされ、少し開いた中へ千晶のが入ってくる
深く、深く、まるで千晶に食べられてしまいそうだった

「んッ…ハッ…ち…千晶…」
夕士は息苦しくなり、千晶の下でモゾモゾと動く
僅かに開いた隙間から空気を吸い込むが、また千晶に塞がれてしまう

呼吸もままならない程、長い間交わされた口づけ
千晶は名残惜しそうに、ペロリと夕士の唇をなめた

夕士はというと、目尻に涙を浮かべ息も絶えた絶えな状態で千晶を見上げた

「いいね、その目。そそられるよ」
「てめぇ…」
「お前の返事は?」

視線を泳がせ、「何言ってんだよ」と悪態を付くが、千晶はジッと「返事は?」と
問いただしてくる

「そ…そもそも、男同士で何やってんだよ」
「キス?」
「そーじゃなくてさ、不健全だろ?」
「どーして?好きなヤツにキスするのが不健全か?」
「なっ////」

うーむ、と千晶は姿勢を戻し(でも俺を跨いだまま)頭をガシガシとかきながら
「まぁー生産的ではないわな」とつぶやいた

「俺だって初めてだよ、同性をここまで好きになるなんてな
 別に同性愛を否定しないが、理解できないと思ってた
 まさか、自分がこんなに稲葉に執着するとも思わなかったが」

「千晶は俺と、どーなりたいの?」
「ん?そりゃ恋人同士だろ?」
「/////」

「稲葉、俺のこと嫌いか?」
「…なっ///そんなことねーよ」
「じゃ、返事くれよ」

捨てられた子犬よろしく、な雰囲気を醸し出す千晶を見て、
夕士はグッと右手に拳を固く握り、ガバッと起き上った

反動で反対側に倒れそうになる千晶を抱きしめ、肩に顎を乗せた

「お…俺だって、好きだ」
破裂しそうなぐらい心臓の鼓動がうるさい
誤魔化すようにギューと抱きしめると、千晶はフッと鼻で笑い夕士の頭を優しく撫でる

「素直でよろしい」
 
夕士は恥ずかしくて、なかなか顔を上げることができなかった

作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico