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妖アパ 千晶x夕士 『想』

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千晶がクラブ・エヴァートンに復帰後、何かと世話焼きの正宗と従兄弟の土方薫は
店舗ビルの最上階に千晶の部屋を用意した

正宗が保有しており、12階建てのビル。
10階から12階は住居スペースになっており、正宗と薫が住んでいる
地下1階がクラブ・エヴァートンで、2階から9階までは他テナントが入っており

夕士は千晶から部屋の鍵を受け取り、先に12階へ上がる

余談だが、住居スペースへ上がるには専用のエレベータが設置されており
電子ロックを解除しないと使えない。
防犯対策も万全だ

家主の居ない部屋に上がり、勝手に冷蔵庫を開ける
食品は殆ど入ってなく、ミネラルウォーターとビールが大半を占領している

夕士はミネラルウォーターを手に取り、無駄に広いリビングのソファーに腰かけた

--- 千晶の歌声が、耳から離れない

『いつか終わりが訪れるんじゃないかと』

クリが母親からの呪縛に開放され、永遠に続くかと思っていた日常が急変した
成仏して転生する
それは喜ばしいことだし、素敵なことだと思う
だけど、同時に俺達との別れが訪れる

受け入れなければならない。寿荘の住人全員が別れを惜しんだが
この無垢な魂を、このままにしておけないのだ

長谷と一緒に見上げた夜空に流れ星がいくつも流れ、夜の闇に消えていった光景を
俺は忘れない

『僕と同じように君が愛してくれているのか不安で仕方ない
 だって君を失うことに諦めがつかないから』

互いに想い合う気持ちの大きさを量ることは難しい
それこそ言葉に表すことができない
ただ、不安を感じる気持ちは理解できる

--- 今の自分の気持ちは一方通行なのではないか?
--- 相手は大して自分のことを見てくれてないのではないか?
--- 俺の勘違いなのではないだろうか?と。

期待と不安の中で相手を失う恐怖は計り知れない

俺と千晶の関係はなんだろうか
『友人』以上の付き合いだとは思っている
だが、『友人』以上の関係とは何だろうか?

夕士はふーと息を吐き、ペットボトルの蓋をあけ、ゆっくりと口に含む
冷たい水はアルコールで火照っていた喉を潤すように流れていく

--- そうか、俺は不安なんだ。
呼称の付けられない千晶との関係が、いつか壊れてしまうのではないかと ---

夕士は天井を仰ぎみた

--- 俺は何を考えた?馬鹿げている
千晶は俺のことをただの元生徒として見ているだけだろ?
少し話しやすい、馬の合う元生徒として ---

思考を中断するように頭を振るが、不安を拭うことが出来ない
胸が苦しくなり、鼓動が早くなる

--- 俺達の関係は最初から『先生』と『生徒』だ
互いに今は『元』が頭に付くが、これからも変わることはない
俺は、何を期待しているんだ ---

ギュッと左胸を掴み、夕士は俯き苦笑いする

--- ホント、馬鹿げている

呪文を唱えるように、自分に言い聞かせていた

作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico