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妖アパ 千晶x夕士 『想』

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千晶の部屋にはゲストルームもあり、来客が泊まる際に使用される

お泊まり会がはじまった最初の内は
夕士もゲストルームを使用していたが、半年程経ったある日
「稲葉、一緒に寝よう」と言われた

千晶の使用しているベットはキングサイズなので、大人二人が一緒に寝ても
相当寝相が悪くない限りは問題ない
(学生の頃はシングルの布団で長谷と二人寝ていたこともあるので寝相は悪くない)

千晶に「なぜ?狭くなるぞ?」と尋ねると
「折角来てるのに一人寝は寂しい」と言われ渋々了承した

それ以降、千晶の部屋に泊まる時は同じベットで寝起きしている

そして今現在…

「千晶、暑い。抱きつくな」
「……」
「千晶、酔ってるのか?」
「いや。今日はそんなに呑んでない」
「とりあえず離せよ」
「いやだ」

千晶は駄々をこねる子供のように、俺の胸に頭をグリグリと押し付けてくる

時折見せる千晶の一面
一緒に寝るようになってから、頻度は多くないが時々甘えてくる

以前、無理やり千晶を剥がそうとしたら、そのまま寝技を極められ痛い思いをしたので
この状態になった時は放置することに夕士はしている

だが抵抗しないでやられっ放しなのは生に合わないので、
千晶の髪をグシャグシャと?き雑ぜる

「やめれー」
くぐもった声が胸あたりから聞こえるが、夕士は無視して続ける
気が済むまでグシャグシャにした髪を、今度は撫でるように梳かす

仄かに香るシャンプーの匂い ---

夕士はこの瞬間が好きだった
身長も体格もひとまわり夕士の方が大きくなっていたので、千晶は腕の中にスッポリと収まる
ゆっくりと丁寧に千晶の小さい頭に手を乗せ優しく撫でる

「…稲葉」
「なんだ?」
「名前呼んで」
「……」
「稲葉?」
「…ナオミ」
「もっと」
「ナオミ…ナオミ…」
千晶の頭を撫でながら、名を呼ぶ

--- 男同士でンなことしてっから、俺はモヤモヤ考えるハメになるんだ
少しは遠慮しろよな ---

スーと千晶の寝息が聞こえてきた
相変わらず千晶は抱き着いたままだが、もう諦めるしかないだろう
これもある意味「毎度」のことだ

夕士は「しゃーねーなー」と笑みを浮かべ悪態を付きながらも千晶を離そうとはしなかった



明朝、習慣的に5時に目が覚める
眠りについてから3時間程度しか経っていないが、夕士の体内時計は「起きろ」と煩い

大きなあくびをひとつ落し、
千晶を起こさないように、静かにベットから抜け出す
(千晶は低血圧なので朝に弱い)

夕士専用の歯ブラシを躊躇なく取り出し、顔を洗い着替える
リビングのカーテンの隙間からは久しぶりの青空が広がっている

「洗濯日和だな。帰るか」

夕士はチラリと寝室の扉を見たあと、
電話台の上にある備え付けのメモ帳から一枚紙を抜き取る

普段泊まった次の日は、千晶が起床または正宗が朝食を持って部屋へ来るまで
大人しく本や雑誌(千晶の部屋にはファッション雑誌しかない)を読み
時間を潰すのだが、梅雨入り中の晴天。逃すわけにはいかない

夕士はテーブルに一言メモを残し、音を立てないよう静かに部屋を出た
(ちなみにオートロックなので、外からカギを掛けなくてもいい)

1階エントランスに出ると正宗が片手をあげながら近づいてきた

「おはよう、夕士くん。もう帰るのかい?」
「おはようございます。今日は洗濯日和ッスから帰ります」

正宗は「ああ。なるほどね」と頷きながら
「そうか、じゃナオミが起きたらひと騒動だな」とポツリと呟く

夕士は「メモ残しておきましたよ」と答えるが
「はははは。本当に夕士くんはいつまで経っても変わらないね」
と笑われてしまった

--- 俺、何か笑われるようなことしたのか?

首を傾げながらも「それじゃ」と挨拶し、駅へと向かった



夕士はアパートに戻ると、溜まっていた洗濯物を洗濯機の中に押し込め
その間に部屋の空気の入れ替え、掃除と慌ただしく動いていた

洗濯物も欲し終え、居間でひと段落していると、アパートの電話が鳴った

--- 珍しいな、最近じゃ俺が携帯持ったから電話なんて殆ど掛かってこないのに

寝っ転がっていた身体を起こし、「はい、はい、」と声を出しながら受話器をとった

「はい。寿荘です」
『稲葉か?』
「千晶?」

チラリと壁時計を見ると、分針が25 時針が9の文字をさしている

--- 千晶にしては早起きだな

夕士は時計を見ながら「どーした?」と声をかけた

『なんで帰った』
「メモ置いてあっただろ」
『……』
「洗濯物溜まってたんだよ。起きたら晴天だし、これはチャンス!と思ってさ」
『で、早朝に帰ったと?』
「まーね」
『ふーーーん』

何か含みがあるような言い方をされ、「千晶、機嫌悪いのか?」と考えていると
『ナオミ、代われ』と声が聞こえ『夕士くん?』と、正宗に変わった

「はい、正宗さん?」
『ごめんね、夕士くん。帰って早々に悪いけど、もう一度来てくれるかな?』
「ええ、構わないッスけど…何かあったんですか?」

正宗は「うーーん」と唸った後、「今から迎えにいくよ」と言って電話を切った
電話口の後ろの方で『正宗!俺が行く!』と千晶の声が聞こえたような気がした

夕士は受話器を置いた後
「なんだってんだ?一体??」
と、困った様子の正宗に驚きつつ、「仕方ないか」と大人しく迎えがくるのを待った



干している洗濯物は、山田さん(妖怪)にとり込みをお願いし、
部屋着から外出着に着替え、携帯をカバンに入れ財布を確認していると、
るり子さんがバスケットにサンドイッチを詰めて持ってきてくれた

「るり子さん、ありがとうございます!」
寿荘の賄いるり子さん(幽霊)にお礼を言うと、両手をモジモジと交差させている

生前はホステスで、いつか小料理屋を開くのが夢だったが、
つきまとっていたストーカーにバラバラに殺された。
死の間際に見たのが手首だけだった為、現在は「手首」だけの姿となっている
ちなみに、夕士と会話をする時は筆談である。
(秋音や黒魔道士の龍とはテレパシーで会話ができるらしい)

「るり子さんの絶品料理を食べれば、機嫌治るかな?」
夕士はバスケットを抱えて玄関へ向かった

作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico