妖アパ 千晶x夕士 『想』
日本の直行便で約13時間のフライト後、ロンドン・ヒースロー空港へ到着
そこから地下鉄でロンドン市内へ移動し、長距離バスにてブラッドフォードへ到着
くわぁぁーーーと伸びてから、夕士は辺りを見回す
現在時刻は夜の10時過ぎ
出発してから約20時間が経過…身体の節々が悲鳴をあげる
今回の拠点となる「The New Beehive Inn」は1901年築のクラッシックなエドワード朝の宿だ
料金はツインルームで8,300円程度
今回は出版社側から若干の小遣いを貰っているので野宿じゃないのは喜ばしい
「疲れたぁー」と呻く古本屋の手を引きながら夕士はチェックインした
*
翌日、朝食を取り終えた夕士たちは、早速情報提供者へ連絡を入れた
待ち合わせ場所に現れた人物は、一見して『普通』の男性
スーツ姿だが、ビジネスっぽくなく英国紳士ならではの着こなしだ
テラスの奥の席で、優雅に紅茶を呑む姿が様になる
「早速だけど?」
古本屋が問いかけると、英国紳士はスッと名刺サイズの紙を差し出した
『ブラッドフォード大学』
「大学内に反応があるってことッスよね?」
夕士が古本屋に確認すると「たぶんね」と答え、「もう少し場所絞れない?」と
英国紳士に話かけるが、首を左右に振り「無理」という仕草を見せた
「んーこりゃ困ったな」古本屋は無精ひげを触りながら唸る
「『本』なんだから図書館じゃないんスか?」
「稲葉先生、そんな安易に見つかるなら既に他のヤツに持っていかれてるよ」
「あーーそーっスね」
確かに。本当に『魔道書』の場合ヴァチカンの特務員だって動き出すハズ
今まで見つからなかったってことは、巧妙に細工されている可能性が高い
かと言って広大な敷地内を探すにも時間がかかる
夕士は留学生ってことで通しても、古本屋はどっから見ても不審者だ
「どこかの施設にあるなら潜り込んで探せばいい。いくらでも方法はある。
だけど、個人で所有している場合は面倒だな」
個人所有…『プリンセス・メアリーのギフトブック』自体は妖精の姿を描いた児童書
確かに興味があって持ち歩いてる可能性も否定できない
「ある程度の人数が一ヶ所に集まれば、特定できる可能性は高いけどなぁーーー」
ワザとらしい口ぶりで古本屋が話し、チラリと夕士を見るが、目を逸らす
「知ってるか?大先生。毎週学外からゲストスピーカーってのが呼ばれ、
講演が行われるんだよ」
--- 何か口をふさぐものはないだろうか?ガムテープとか、
そうだ!ナプキンでも口の中に突っ込むか?!
夕士はテーブルに置いてある紙ナプキンを手に取り、両手で丸めた
「今週って誰だろうな?」
ニヤニヤと意地の悪い表情で問いかけてくる古本屋に向って、
夕士は丸めた紙をグイグイと口の中に押し込めようとする
「なッ!何すんだよ夕士!!ペッ!ペッ!」
互いに譲らずじゃれている間も、英国紳士風の男性は優雅に紅茶を啜っていた
「俺、イヤな予感するんスけど…」
「話が早くて助かるよ、夕士」と言って、ポケットから出した紙切れにメモを書き
英国紳士の方へスッと手渡す
夕士が「勘弁してください」と古本屋の腕を掴んで揺らすが、お構いなしだ
英国紳士は受け取ったメモを一読した後、ゆっくりと頷き席を立った
*
英国紳士が立ち去った後、疑問に思っていたことを夕士は尋ねた
「あの英国紳士、一言も話しませんでしたね?」
そう言うと「ああ、話せないからな」と一言
聴覚障害かな? --- と勝手に解釈していると、「違う、違う」と大げさに手を左右に振り
「オートマターだよ」と答えた
「オートマター?自動人形ッスか?」
「そ、西洋版カラクリ人形ってところだな。近くにマスターがいたハズだ」
そう言って古本屋は英国紳士が去って行った方向へ目を向けた
「因みにロボットじゃないぞ?れっきとした魔術。錬金術だ」
へーと関心しながら
あれ?でも紅茶飲んでたけど?---と新たな疑問が浮かんだが
「ま、魔術って言うなら何でもアリかな」とひとり納得していた
雑談は終わり!と言うように、古本屋は立ち上がり
「偵察にでも行くか」と店を後にした
作品名:妖アパ 千晶x夕士 『想』 作家名:jyoshico