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ななつとせ

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草木の葉がざわついて、再びしんと静まった。
ビクリと身をすくめた少女は、歌うのを止め、音のしたフリーダーの木を方を固唾を呑んで見守った。獣だろうか。でもそれなら、崖を降りたあと移動する気配や音が聞こえるはず。だがそれもない。無機物が落ちるにしては音が大きすぎて、この場には不自然だ。それに、気のせいでなければ悲鳴も聞いた気がする。
「誰かいるの?」
しばし様子を探った後、恐る恐る少女は声をかけてみた。大型の動物は、彼女らの生活圏には踏み込めないよう特殊な措置がしてあるのでそのはずはないし、人が来るとも聞いてはいないが、一応問うてみた、という方が正しい。何も返答は返らないだろうと、少女は思っていた。むしろ何もなければ安堵できる。しかし。
声が返ってきた。人間の、子供の声。
少女はますますぎょっとする。人がいる?
しかし彼女はその返答が何と言ってるのか、最初まるで解らなかった。
解らないから、返事もできずにただ身構えていると、ガサガサと、目の前のフリーダーの花の群れが泡立つように波打ち、その花枝を掻い潜って一人の少年が姿を見せた。
淡い金色の髪に、黒っぽい服装の、年の頃は少女と変わらぬくらいの、まだ小さな少年。
その姿を認めた途端、少女は再度ビクリと身を竦め驚いたように息を呑んだ。視線の先で、知らない男の子が同じように自分を見て息を呑むのに目を丸くする。
しかし少年の方は、驚きからすぐ醒め、口元に笑みを浮かべて迷いもせず彼女の方へ近づこうと、声をかけた。
けれど少女の方は、その言葉にさえ驚いて立ち上がると数歩後退った。少年が怪訝そうな顔をする。足元に置いていたバケツが、彼女の後退する足に当たってひっくり返り、花とともに中に入っていた水がこぷりと溢れる音がした、それを合図にするように、少女は少年に背を向け、一目散に駈け出した。逃げるように。


作品名:ななつとせ 作家名:SORA