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ななつとせ

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薄紫の茂みは甘い香りがした。他の時なら石鹸より香るその匂いに驚いてしげしげと観察でもしていたかもしれないが、少年の頭を今占めているのはその向こうにいるはずの子供らしい存在だけで、匂いのことは頭の隅で感じているだけだった。先を塞ぐその枝を押しやって隙間を作り、何とか抜け出ると、その先はぽかんと視界の開けた明るい場所で、彼が最初に立ちすくんだ小屋の前同様、緑の壁に囲まれた中、頭上に青が見て取れた。大地は壁をなす木々よりもやわらかな色の緑で、同時に小さなたくさんの色で溢れている。その中、比較的すぐ近くに、さらに一層鮮やかな存在が緑の草の上に直にぺたりと座っていた。やはり子供だ。小さな子供。頬の回りを取り巻いたふわふわした短い頭髪が、見たことないような鮮やかな色を呈していた。しかも一人の頭髪なのに二色に変化している。この地に散らばるとりどりの色に、それはどこか似て見えた。着ている服も、やはり鮮やかな蜜柑色が主で、白いブラウスの上に着た見慣れない長い上衣がふんわり広がって、座る子供の足を覆い隠していた。その子が、少年が茂みから出た途端、驚いたように身を竦める。少年の方もつられるように驚いた。が、予想と違い、子供は自分と同じ制服姿ではないのを少し怪訝に感じつつも、思った通り相手が同じ小さな子供だったので、ホッとしてすぐ警戒を解く。
「よかったやっぱり人がいた。ねぇ、ここどこかな? 僕、ちょっと転移でミスったらしくて、どこだかわからない場所に出ちゃって困ってたんだ。家のものに連絡を取りたいんだけど、どこか通信装置が生きてるとこないかな……」
なるべく愛想よく、そう尋ねたつもりだったのに、子供は少年が近寄ろうとするとますます怯えたような顔をして、さっと立ちあがる。手にしていた何かが、その子の手から落ち軽い音をたてた。大きな目が更に大きく見開かれている。警戒されてる? 少年は訝しんだ。それは突然ここへ来てしまったのは彼の方だが、ここまで怯えられる覚えはない。
「ねぇ、聞いてる?」更に間を詰め寄ろうとしたら、後ろに退かれ、子供の足元で何か音がした。その音に反応するようにその子は背を向けて少年と反対方向へ脱兎のごとく駈け出した。
「あっ、ちょっと待ってよ! ねぇ……っ!」
少年は慌てた。ここでこの子を見失ったら、帰る方法も見失うのと同じじゃないのか。
それで後を追おうと駈け出した途端、左足首に痛みを感じ、そのせいでよろめいて転けてしまった。
「てっ!」
と言っても言葉だけで、下草の柔らかさで転けたことそのものへの衝撃は薄くたいして痛くはない。ただ、転んで低くなった視界に、プラスチックらしい素材の小さな赤いバケツと、散らばった水浸しの草や花が目に入った。その付近に生えてるそれらと同質のようだが、全部適当な長さで切られている。集めていたのだろうか。もう一つ、手をついた傍に、今しがた潜った薄い紫の木と同じものが素材の、リースらしきものが落ちているのに気がついた。そういえばさっきの子供が手から落としたのはこれじゃなかったか。
思わずリースを掴んで起き上がると、子供はオレンジ色のひらひらした残像を残し緑の影に消えるところだった。
「待てってば! これ、落としたんじゃないの、ねぇ!?」
返事は返ってこなかった。

作品名:ななつとせ 作家名:SORA