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桑野みどり
桑野みどり
novelistID. 52068
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Solid Air(前編)

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chapter.2


軍事規律に違反した者は普通、一連の査問会が終わるまで隔離棟に押し込まれ、監視を受ける。ジェットも当然それを予想していたが、意外にも初回の査問会が終わった後、言い渡された命令は、「自室にて待機せよ」というものだった。
自室と言っても軍部宿舎の一隅であるから事実上軟禁のようなものだが、それでも軍法違反を疑われている者に対しては破格の厚待遇だった。自分が本気で暴れたら結局どちらでも大差ないからだろうかとジェットは考えたが、そもそもメンテナンスルームで眠らせるなり拘束するなりできたはずなのに、体の自由を与えたまま放っているというのも妙な話だ。査問委員会は決してジェットに対し好意的ではない。 あの冷淡さを考えれば、ジェットが監禁されていないことはむしろ不自然な程だった。何か裏があるのかもしれない。
(ま、考えても仕方ねぇか…)
ジェットは倒れ込むようにベッドに身を預けた。軽量化されているはずの体が今は鉛のように重かった。体のあちこちが傷つき破損していたが、最低限の処置しかされていなかった。壊れた外部装甲の破片が内部の生体組織を傷つけ、炎症を起こしたらしく、痛みと不快感が間断なくジェットを襲っていた。査問会では意地でも弱味を見せまいとして背筋を伸ばしていたが、そうしていた反動か余計に具合が悪くなってきたような気がする。
(くそっ…やっぱ痛ぇ…)
固いベッドの上でジェットは背中を丸めた。


どれくらいそうしていたのか、ジェットは部屋のドアを叩く音に気づいた。

「ジェット、俺だけど…。寝てる?」
そっと様子をうかがうような声。ジェットは嬉しさと人恋しさで思わず顔を上げた。
「入ってくれ。鍵はあいてる」
そう声をかけると、背の高い青年がおずおずとドアを開けて入ってきた。青年は、数日前の事件の際、ジェットを追撃したパイロットだった。

あのとき、青年はジェットに向けて撃った。しかし掃射のラインはわずかに逸れており、ジェットは左腕を撃ち抜かれただけで直撃を免れた。そしてバランスを崩して落下し、動けずにいたところを確保されたのだった。青年の行動は結果的にジェットを救ったと言える。
(いや、『結果的に』なんてもんじゃないな)
あの撃ち方は決してまぐれではなかったとジェットは確信していた。青年がジェットを守るために苦渋の末、そうしたのだということも。青年の成長と、今でも自分を慕ってくれる気持ちが素直に嬉しくて、ジェットは目を細めた。と、ドアを背に立ち尽くしたままの青年がぎこちない暗い表情をしていることに気づき、ジェットはハッとした。
(あ、…しまった。部屋に入れるんじゃなかった)
査問会呼び出し中で謹慎を食らっている人間を見舞いに来るなど、疑ってくださいと言うようなものだ。巻き添えで処分を受けるかもしれない。危険を冒してまで会いに来てもらえるような、そんな価値は自分にはないというのに。

ジェットはあっさり青年を招き入れてしまった自分の軽率さに舌打ちした。
「お前…なんで来たんだ」
青年パイロットはますます表情を暗くしてうつむき加減になり、小さな声で言った。
「怒ってる…よな…?」
「まあな」
「ごめん。でも俺、どうしてもジェットに謝りたくて。許されるようなことじゃないのは分かってるけど…」
ん、とジェットは首をかしげる。青年は何か誤解しているようだ。

「あのな、俺が怒ってるのは、お前はこんなとこに来るべきじゃないってことだ。せっかくのキャリアに傷がついたらどうする」
父親が子を諭すような口調でジェットは言った。

青年はきょとんとしたように顔を上げた。
「それだけ?」
「…あと、自分自身に腹がたってる」
「俺がジェットを撃ったことは?」
「は?なんでだよ。お前、俺を助けてくれたんだろ」
「…俺は、ジェットのように出来なかった。ジェットがあそこにいた人たちを助けようとしているのが分かっていたのに。俺は命令違反が怖くて…」
青年は泣きそうな声で言った。

「あれは俺の仕事だった。お前はお前の為すべきことをした。そうだろ?」
ジェットはベッドの上で半身を起こし、青年をそばに呼んだ。
「だいたい、もしお前が俺を援護するために離脱してたら、どうなったと思う?…お前、死んでたぞ」
でなきゃ軍法会議で重罪だ。普通はそうなる。

「俺は『貴重な生きたサイボーグ』だからこの程度で済んだんだ」
サイボーグなめんなよ、と笑ってジェットは青年の肩を軽く叩いた。
「お前はまず、自分が生き延びることを考えろ」
そう言って栗色の短い髪を撫でてやると、青年はやっと笑顔を見せた。
「昔…初めて会ったときも、そう言ってくれたね」
「あのときは片手で脇に抱えられるくらい小さかったのにな」
でかくなったもんだ、とジェットは息子を見るようなまなざしで青年を眺めた。

青年パイロットは、幼い頃ある事件に巻き込まれ、死にかけたことがあった。それを助けたのがゼロゼロナンバーズだった。特にジェットに抱かれて空を飛んだ体験が強烈だったらしく、のちに再会したとき「ジェットは僕のヒーロー」だと嬉しそうに彼は語った。背丈も外見年齢もジェットとほとんど変わらないくらいになっていたが、青年は子供のように無邪気にジェットを慕い、懐いた。

「怪我、大丈夫か…?」
青年が気遣わしげに眉を寄せた。
「なんてことねぇよ」
ジェットは痩せ我慢しようとした。
撃たれた左腕は一応治療してあったが、一時しのぎにすぎない。他にも爆撃を受けたときに傷めた場所も多く、外部装甲はところどころ割れていた。皮膚が焼け焦げたようになっている部分もあった。要するに満身創痍だ。傷ついたパーツをまるごと交換するしかないのだが、今はそれをできない事情があった。

「定期メンテナンス以外のパーツ交換には申請を出さないといけないんだが…受理されるかどうかは上の連中の思惑しだいだ」
たぶん査問会が終わるまで無理だろうな、とジェットは何でもないことのように付け加えた。つまり、査問委員から呼び出しがかかるたびに傷ついた体を引きずって出頭しなければならないということだ。

「そんな…!あんまりだ!」
青年が顔を歪めて悲痛な声を上げた。
「平気だって。本当にたいしたことないんだ。幸い神経系は無事だったし、日常生活に支障はない」

「だからって…平気なわけないだろ…」
青年は壊れ物を扱うようにそっと、本当に優しくジェットを抱き寄せた。
「体、痛くないか?」
「大丈夫と言いたいとこだが、…はは、ほんとはスッゲー痛い」
ジェットは笑った。虚勢を張らなくてもいい相手がそばにいるのは、いいものだ。

「一応、痛み止め持って来たんだけど。こういうのは効かない?」
青年はポケットから何種類かの薬を取り出した。いずれも普通の人間用で、ジェットの改造された体にはあまり役に立つとは思えない。気休め程度には効くだろうが、ジェットは別の理由で受け取りを断った。
「悪い。気持ちだけもらっとく。もし何かあったとき、お前に迷惑がかかるかもしれない」
「迷惑って?」
作品名:Solid Air(前編) 作家名:桑野みどり