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桑野みどり
桑野みどり
novelistID. 52068
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Solid Air(前編)

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「…悪ぃ、これもう一回貼ってくれるかな。あと、左の手首がぶらぶらで取れそう」
ジェットは左手を振ってみせた。カクン、と手首から先が妙な方向に折れる。
「片手だと制服のボタンとめるの大変なんだよな。…なんとかならねぇ?」
技師は泣きそうな顔を向けてジェットのそばに膝をついた。

彼はぼろぼろになったジェットの体を丁寧に拭き清め、手当てしてくれた。自然に塞がることのない傷口からはぬめりけのある半透明の液体がじわじわと漏出し、包帯に染みを作った。

「告発…。告発しましょう。こんなこと、許されない」
低い声で技師が言った。目が完全に座っている。
「え、おい…めったなこと言うなよ。どんな目に遭うか分かんねえんだぞ」
「どうなったっていいです!黙って見てるくらいなら、私は…!」
だいぶ興奮しているようだった。困ったなあ、とジェットは眉を下げた。
「…あのな、当事者の俺が平気だって言ってるんだから、そこは信じろよ」
「どうして平気でいられるんですか!?こんなひどいことをされて、どうして!」
「俺はこんなことくらいで傷ついたりしないから」
「嘘だ…!」
「嘘じゃない」
まあ聞けよ、とジェットは利かん気の子供をなだめるように言った。
「俺にとって体は容れ物に過ぎないんだ。壊れてもまた元通りに直してもらえる。どれだけ体を痛め付けられても、俺の魂は傷つかない」
いっそ誇らしげにジェットは笑った。
「サイボーグに魂なんてあるのか、って言うかもしれないけどさ。俺はそう思ってる」
ジェットがまばたきをすると、上まぶたの傷から漏れた循環液がすうっとひとすじ、涙のように流れ落ちた。たとえそれが目から落ちたものでも、涙なんかではないと彼は言うのだろうな、と技師はやるせない気持ちになった。心と体を切り離すことで、彼は過酷な戦いの人生を生き抜いてきたのだろう。そうしなければ生きてこられなかった。
(でもそれでは、あまりに悲しい…)

「何か、私にできることはありますか…?」
「そうだな、とりあえずなんか体がシャキッとなる薬打ってくれねえ?」
「…なんとかしましょう」
「それともうひとつ」
ジェットは胸のあたりにある開口部を探り、高密度記録媒体のチップを取り出した。
「俺のメモリーチップのコピーだ。俺があそこで見たものがすべて入っている」
内部告発の重要な証拠物件となりうるものだ。技師は細心の注意を払ってそれを受け取った。
「俺の体が、もし…もしも最後までもたなかったら…もしその時、お前にまだ告発の意思があったら…」
ジェットは震える手で技師の服のはしを掴んだ。
「それを持って、今から言うところに連絡を取るんだ。きっと力になってもらえる」
紙とかに書くなよ、暗記してくれ、と念を押し、ジェットは複雑な暗号めいた連絡手段を教えた。

「わかりました。必ずそのようにします」
「本当に、最後の手段だからな。俺が無事な間は連絡するなよ」
「はい。あの、この相手ってもしかして…」
「…うん。俺の…昔の仲間。喧嘩別れみたいな感じで飛び出しちまったから、みんな俺のこと怒ってるかもしれねぇけど…。でもお前のことは、必ず守ってくれるはずだ」
ジェットは穏やかに微笑んだ。
「わりぃ…少し、寝る…」
そう呟くと、ジェットは気を失うように眠りに落ちた。

作品名:Solid Air(前編) 作家名:桑野みどり