Solid Air(後編)
グレートは内心おもしろくなかった。ジェットがジョーと共に燃え尽きて灰になりかけたことは、彼にとって、いやゼロゼロナンバー全員にとって特別な痛みを伴う記憶だった。仲間だけが知っている共通の傷なのだ。それを他人に暴かれるのは我慢がならなかった。だが、技師はそれを暴こうと思って暴いたのではない。彼を責めるのは筋違いだ。そうは思っても、納得のいかない気持ちが渦巻いた。
「あの…でも、今回はあなたがいてくれてよかった」
技師はまぶしいものを見るような目でグレートを見た。その視線には羨望の色が秘められていた。
「過去の記憶に戻っているとき、ジェットさんにとって我々は見知らぬ人間なんです。彼を落ち着かせることは、我々にはできませんでした…」
(俺をうらやましいと言うのか)
確かにグレートとジェットは仲間だ。意地っ張りなジェットが、グレートに対しては時に父性を求めるかのように甘えてくることもあった。今、たとえジェットが『もう仲間ではない』と思い込んでいたとしても、グレートの気持ちは変わらない。相変わらず手のかかる、きかん気の坊やだ。そう思っている。
(だが、ジェットの心は今もジョーに捕らわれている)
今回の件にしても始めからそうだった。仲間の誰にも助けを求めなかった頑固な男が、ジョーにだけ呼びかけた。無意識か偶然によるものかもしれないとフランソワーズは言ったが、グレートはそれを必然と感じた。
(やれやれ、お前さんに嫉妬してしまうよ、009)
地球の裏側で、決して交わらない時間を生きていてさえ、お前はジェットの心を独り占めするのか。
グレートは天井をあおぎ、自嘲した。
(泣けるねえ…。囚われの姫を助ける騎士さながらの大活躍、我輩の名演技を、なんと誰も見ていないとは)
作品名:Solid Air(後編) 作家名:桑野みどり