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桑野みどり
桑野みどり
novelistID. 52068
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Solid Air(後編)

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「下手したら国同士のトラブルに発展するかもしれない。そんなリスクを冒してまで、来てほしくなかった」
「お前が死ぬリスクはどうでもいいってのか?」
「死ななかったんだからいいだろ」
ジェットは開き直ったように言った。もう目を合わせようともしない。完全に拒絶の態勢をとっていた。

「ああ、そうかよ。俺たちが来たのは余計なお世話だったってわけだ。じゃあ、もう帰らせてもらうぜ」

ジェットは一瞬反射的に顔を上げ、すがるような目でグレートを見たが、すぐにまたうつむいてしまった。
「…ああ…帰れよ」
泣きそうなのを必死で堪えているような声だった。シーツを握りしめた手が小刻みに震えている。 


(なんでそこまでして意地を張るかねえ…)
グレートは帰ると言った手前、引っ込みがつかなくなったのでとりあえず立ち上がったが、まだその場を後にする気にはなれなかった。

『グレート。ジェットに、ギルモア財団へ戻る気はないかと訊いてみてくれ』
脳波を通じて、ジェロニモがグレートに向かって話しかけた。
『私には、なぜジェットがそこまでアメリカという国にこだわるのか分からない。人間を道具のように使い捨てにする国だ。今回のような目にあっても、ジェットはここに留まりたいというのか?』

『…ジェットの意識が戻ったの?私にも話させて』
目を覚ましたらしいフランソワーズが割り込んできた。そして、寝起きとも思えない力強い口調で一気に喋る。
『ジェット、あなたは勝手よ!勝手な人だわ。私たちの気持ちなんてどうでもいいんだわ。きっと考えもしなかったんでしょう?結構よ、なら私も勝手にする。あなたを力づくでも連れていくわよ。もしそれが嫌なら、納得のいく説明をして頂戴!……そう彼に伝えてくれる?グレート』
最後の一言だけは、いつもの優しいフランソワーズだった。にっこりと微笑んでいる顔が目に浮かぶようだが、今はその微笑みが少し怖いとグレートは思った。
(俺は留守番電話じゃないっての…)
やれやれ、とグレートは肩をすくめつつジェットに向き直った。
「おい、二人からの伝言だ。心して聞くんだな」


ジェロニモとフランソワーズからの言葉を聞き終わると、ジェットはベッドの上で「うう」と唸って頭を抱えた。助けを求めるようにグレートをちらりと見る。
「なんて言えばフランは納得してくれるんだ?」
「俺が知るかよ。ほら、早く答えろ」
「…フランに『ごめん』って伝えてくれ」
「それから?」
「『悪かったと思ってる。でも、一緒に行くことはできない』って」
「その理由は?」
「…待ってくれ。先にジェロニモの質問に答える」

ジェットはグレートに背を向け、しばらく黙り込んでいたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。
「俺は、さ…。やっぱりこの国が好きなんだ。そりゃ確かに嫌な奴や悪い奴はたくさんいるよ。でも、そうじゃない人だって大勢いるんだ」

「それに、本当に悪い奴っていうのはそんなに多くないと思う。ほとんどは、ただ弱くて、馬鹿で、ちょっと歪んでるだけなんだ。…昔の俺もそうだったよ。だから、放っておけないんだ。見捨てられない」

「でもそれは俺のわがままだから、そのせいでみんなを巻き込みたくない。みんなを信用してないわけじゃなくて…ただ、俺にとってどっちも大切で…クソッ、なんて言えばいいんだ?…」

「ジェット、ゆっくりでいい。ちゃんと聞いてる」
グレートは静かな声で言った。
またしばらくの沈黙を挟んで、ジェットは口を開いた。
「…もし…もしも、何かがあって、みんなが『アメリカの敵』とみなされることになったら…俺は…俺は、どうしたらいいか分からない…。みんなに銃を向けるかもしれない。それとも、この国の人を殺すかもしれない。…それが、怖いんだ。だから…干渉してほしくなかった」

グレートは目を閉じた。
『フランソワーズ、ジェロニモ、どうだ?』
ジェットの声はグレートの補助脳を介してリアルタイムで二人に届けられていた。
『…わかった』
『悔しいけど、そう言われては引き下がるしかないわ』

「二人とも納得したそうだ」
グレートがそう伝えると、ジェットはほっとしたように息を吐いた。

「俺からも一つ訊かせろ」
グレートは、ずっと思っていたことを言葉に乗せた。
「そうまでして忠誠を尽くすほど…アメリカがお前に何をしてくれたっていうんだ?」
ジェットは振り返り、グレートを見た。微笑んだ顔に誇らしさを湛えて、言う。

「俺を生んでくれた」

その目はあまりにまっすぐで、あまりに澄んでいた。
「…そうか」
グレートはもう何も言うことができなかった。
ベッドの上に身を屈め、彼を抱擁する。
「元気で」
「うん…あんたも」
「タバコもう少し控えたほうがいいぞ」
「うっせぇよ」
ジェットが笑った。

「じゃあな」  

作品名:Solid Air(後編) 作家名:桑野みどり