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【相棒】(二次小説) 深淵の月・柘榴の目

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  〈さあ、行くぜ怜。十の夜が来ちまう。〉
  「そうね。行きましょうか。」
腕を水平にしたまま怜が歩き出したが柘榴が一度羽ばたいてその肩に移った。今度は意外と重くない。不思議に思いながら肩を見上げた。
  「軽いのか重いのかわからないわ、柘榴。カラスってみんなこんなものなの?」
  〈色男に目方なんざ聞くもんじゃねぇぜ怜。〉
ひねったろか。 思わず心中ツッこんでしまった。



 ざくざくと山道を進む。烏と若い娘の道行きというのは見ていて奇妙というより珍妙だったろう。大人しく肩に留まったままの柘榴は怜のスピードが一定なのもあって実に安定した形だった。翼を広げバランスを取る事もなくじっと前を見据えている。
 その柘榴を置いたまま、怜はサーチに余念がない。全方向をくまなく探りながら前方により意識を集中する。何かが漏れ出しているのがわかった。何か、良くないもの。悪いもの。禍々しいもの。
 その沁み出したものがこの山の大気に影響を及ぼし始めていた。この曇天も冬ならではのものではなかった。うっとうしい、と怜は思う。瘴気とまでは行かないが奴らが外に出てしまったらそうなるだろう。ちくちくと肌に刺す程度の澱みが間断無く続くのがとにかく鬱陶しいのだった。
  〈おいでなすった。〉
 言われるまでもない。社まではまだあるが先鋒隊とでも言おうか。ざあっと何かが一直線に飛んできた、複数。軌道上に舞っていた枯葉がぴしりと音を立てて反転、真っ二つに分かれた。怜はす、と人差し指を立てて額に置く、柘榴の金の目にぽう、と何かが指先に灯るのが見えた。そのまま天にかざしきゅる、と一回転、怜は目の前に大きな円を描いた。
   “バン!”
何かが見えない壁にぶつかったかのように空気が揺れた。バン、バン、バン!立て続けに跳ね返される何か。ぼとぼとと音鈍く地面に落ちた何かは黒い煙となって消えていった。霞とも霧ともつかないそれが完全に消えた時獣の咆哮が聞こえた。
   “おおおー…ん”
空を仰ぎ怜が肩に問い掛ける。
  「前にも聞こえた?こんな声。」
  〈いんや。〉
苦りきった顔で(不思議とそれはわかった)柘榴が前方を睨む。急いだ方が良さそうだ。怜は走り出した。
 ざざざ。風を切り走る怜、追いかけて飛ぶ柘榴。社まではすぐそこだった、きゅ、と靴底を鳴らして止まった怜。ばさりと羽ばたいた柘榴。
   小さな、本当にちいさな社だった。

 1メートル四方しかないそれの奥行きは更に小さくその半分程度だ。怜の肩の位置くらいまでの高さで、そのてっぺんに真新しい傷がついている。あの翁が穿った傷である。一体彼は何の為にこんな事をしたのだろう。怜は改めて考えたがその答えはたやすく得られた。その傷口からしゅうしゅうと何かが立ち上ってきたからだ。
  「…操られちゃったのね、あのおじいちゃん。」
  〈ああそうさ。寄る年波ってやつでな、抗いきれなかったんだ。〉
  「かわいそうに。」
ばさりともう一度肩に乗り柘榴が煙を眺める。
  〈来るぜ。〉
怜の右手が腰に伸びた。尻ポケットに入れていたそれを掴みひゅんと一度振った。長さが伸びてスティックでしかなかったそれが一本の棒になる。警官の警棒によく似ていた。短めの木刀と同じサイズのそれが怜の武器。正眼に構えた時その棒の周りがほの白く光った。燃えているようだった。白い炎だ。
  【…オニ】
何かの声が響く。空気を震わせて。
  【オニの、血ダ】
ギャアッと鳴いて離れた場所にいた鳥が飛び立った。生き物全てが遠くに逃げ出したのがわかった。今ここに居るのは怜と柘榴だけ。百の年を幾つも経た化け物だけ。
  「血が欲しいわけ?」
  【よコせ】
  【オニの爪】
柘榴が体を膨らませ翼を広げる。不愉快という感情がどおっと右肩から流れ込んできた。
  〈相変わらず不細工だぁな。〉
  「そこ?」
思わず笑ってしまった。白い炎がぶわりと膨らむ。チャージしている。柘榴もそれをわかっている。社から出た黒い煙がゆらりと揺らいで形を成した。身の丈十尺、ゆらゆら流れて不定形のそれが更に揺らいでぶつりと切れた。縦に割れた煙は右と左で色が変わってきた。左が灰色右が汚い緑。迷彩色に採用したいような腐った沼の色だ。確かに醜怪、と怜は小さく息を吐く。ちらりと周囲を窺い祖父の仕事の素早さと正確さに惚れ惚れとした。
  【我ら、オニを喰らう】
  【オニの、血、よコせ】
  「悪食ね。」
  〈蓼食う虫も好き好きたぁ言うがね。〉
二人揃ってツッこんでしまう辺りが余裕の為せる業かサガなのか。煙は揺らぎながらもだんだん質量を持って実存を露わにしてきた。エネルギー変換のせいで周囲の気温が急速に下がる。白い炎が燃え盛る、キーンと金属のような音が棒から響く。
  【オニの爪ヲもって蘇る…】
  【我らオニ喰い…】
かああ、と肉食獣のような口が開いた。牙は煙ではなく鋭かった、その牙だけが怜へと襲い掛かった。
 きん、と金属音が跳ねた。牙を受け止めた怜の棒、溜めを含めて怜が跳ね返す。灰色の塊が怜へ、沼色が柘榴へそれぞれ走った。柘榴は上空へ羽ばたき怜は体を屈めて突進した。
  「あんた達、どっちがミヒロでどっちがショウキ!?」
  〈へえ!?こいつら生意気に名前があんのかい!?〉
あんたが言う?と笑ってしまった。左右交互に繰り出される霞混じりの爪をきんきんと棒で受け止め弾きながらじりりと間合いを詰めてゆく怜。柘榴も翼ある者の特権で緑の霧から流れ出す爪を飛びながらかわしていた。
  【我は…ショウキ】
灰色が呻いた。
  【我は…ミヒロ】
沼色が吼えた。
  「じゃあショウキ、あんたを実体化させてあげるわ!」
  〈ああ!?なんだと怜!〉
カラスの抗議を無視して渾身の“力”を拳に込め怜がショウキの腹を突いた。正拳は霞を貫かず確かに物の怪の腹を抉った。反射で折れ曲がった体、間髪おかず棒の台尻部分に掌を置き怜が水平に棒を突き出した、心臓部分へ。
 “ざくり。” 手応えは充分。どんと掌から“力”を送り出してやった、手加減抜きで。言葉にならない咆哮を上げてショウキの体がブレた。ブレる先から実体が現れてくる、肉を持って血を持って。柘榴は片方しかない目を見開きミヒロの爪をかわしながら悪態をついた。
  〈なんてことしやがんでぇ怜!〉
  「そっちはそっちで片付けてよ柘榴!こっちは任せて!」
  〈任せて実体化させちまっちゃあ世話ねえぜ!〉
  「あんたの力見せてよ柘榴!惚れちまうくらいのイカしたやつを!」
その言葉に柘榴の目が見開いた。どこの世界でも男はいい女の発破に弱い。