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【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形1

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  『…。』
男か女かもわからなかった。中性的というより人間味が無かった。眉をひそめて怜の意識が一歩を踏み出そうとした時ぎょっとした。その人間が横たえた神戸を抱いていたからだ。
  「カンちゃ」
何かに阻まれた。ばんと意識が壁にぶつかって弾かれた。怒りが瞬時に沸点に達する。意識の掌を壁に叩きつけ一気に“力”を放出した。しかし何も起こらない。怜は愕然とした、まさか有り得ないと。その時神戸を抱いていた人間が顔を上げ、怜達を見た。にたりといやらしく笑い怜達の神経を逆撫でする。口が動いた、声は聞こえなかった、なのにはっきりと頭の中にその声なき声が聞こえた、全員に。


    わたしの おにん ぎょう … …


 突風が怜達の意識を跳ね飛ばした。一気に押し戻され怜達は吹っ飛んだ。ぶわっと各々の体に弾き返されがくっと体勢を崩した。柘榴が慌てたように一度羽ばたき宙に留まる。
  「…っっそっ、たれ!!!」
  「どこや、どこやねんあの家!うわキショぉ!!全身さぶいぼ出てもーたがな!!!」
  〈あの別嬪がとっつかまってるんでなきゃ一生係わり合いにゃなりたかねえな、あの家主とぁ。〉
怜の肩に戻り柘榴がぶるっと漆黒の体を震わせる。正に鳥肌が立ったのかもしれない。
  「あいつ、人間よね?あいつがここにこんなもん仕掛けてカンちゃんを攫ったんだわ!」
  「せやかてタダの人間にこんなもん仕掛けられへんやろ、これ魔界(あっち)系のモンやで?」
  〈今の時代にゃ珍しいしろもんかもしれねえが、あっしが京の都にいた頃は道っぱたにごろごろしてやしたぜ?〉
  「「 はあああ!?!? 」」
二人が一斉に柘榴を見る。柘榴は金色(きん)の右目をくりりと見開き小首を傾げた。とんだおすまし顔である。
  「それほんま?柘榴、桐生院(ウチ)の始祖の時代ってこないな穴が道にボコボコ開いてたん?」
  「柘榴おまえトシなんぼやねん。」
怜と仁各々ツッこみ所は別らしい。柘榴はやっぱりおすましで仁のそれを華麗にスルーした。
  〈妖怪の罠ってな昔も今もそこら中にあらあな。こいつもその内のひとつってぇわけだ。〉
地中に引きずり込み異次元に居る自分の許まで手繰り寄せる。その為の人間には見えない罠だ。
  〈しかしこの手のぁ最近じゃとんと見ねえからな。懐かしすぎてあっしまで引っ掛かるとこだった。〉
  「ほなやっぱあのあんちゃんは人間やのうて妖怪とかの方か…?ってちょお待てや?あの顔…。」
ふと思い当たったという顔で仁が唇に指をあてる。かく、と柘榴の首が傾く。怜は穴を見据えたまま待った。
  「…やっぱそうや。怜、前ゆうたやん、人形の個展行かへんかって。」
  「人形…。」
はっと怜の顔が上がる。仁に見せられたパンフレットの写真を思い出したからだ。
  「あいつ!あの顔!」
  「そや、絶対あいつや。」
  〈なんでぇ、心当たりがあんのかい?〉
柘榴が楽しげに体を膨らませ翼を広げる。白い傷でしかない筈の左目がきらりと光った気がして怜は笑いながら頷いた。
  「あの個展まだやってるよなあ?仁。」
  「ああ、確か場所は原宿やったな。ほな行こか、怜、柘榴。」
  〈おっと嬢ちゃん、その前に。〉
  「もちろん、わかってんで。」
言うが早いか怜は持ったままの棒に一気に力をチャージした。橙の炎が爆発したように燃え上がり怜の足元かららせんの風が舞い上がる。怜は先刻と同じく両手でそれを捧げ持ち振り上げ、暗黒の先のあやしにも届くほどの声で叫んだ。
  「宣戦布告や!カンちゃんは返してもらうで!!」
燃える棒を黒い穴の縁に力一杯突き刺した。

    “ どおん!! ”

 重低音の唸りと共に穴が震えた。怜が刺した棒に吸い込まれるように黒い色が消えてゆく。びゅるびゅる、と手繰り寄せるような音を響かせ穴がどんどん縮んでゆく。しかし実際は吸い込まれながら穴が蒸発しているのだった。掃除機のコードを自動で巻き取る時のように穴はのたうちながら暴れやがて完全に姿を消した。最後の黒色が“きゅる”と軽い音をたてて棒の中に消えた時怜は確かに誰かの笑い声を聞いた。甲高い、全身の神経全てを逆撫でする、聞いた者の怒りしか生まない声だった。上等、と怜は笑う。ひゅんと棒を振って元に戻し立ち上がる。穢れたものの無くなった裏路地は朝の爽やかで眠たげな顔を取り戻していた。仁と共に踵を返しまた神戸がここに来る日を思う。伊丹と一緒に笑いながら、また絶対にここに来させてあげると誓った。






  「ここ、やろ?」
  「んー、ここって裏原っちゅートコやんなあ?」
  〈裏腹?何が裏腹なんでぇ?〉
  「「……。」」
 年若い二人は一気におじいちゃんといるような心持になった。まあそれも致し方ない。あんまりにも人の多い、しかも柘榴からすれば童(わっぱ)としか言いようのない十代の少年少女ばかりが溢れかえる原宿は竹下通り、ここら一帯は都会を面白がる不可思議なカラスも普段なら敬遠している場所だからだ。その竹下通りから二本奥に入った通り、通称「裏原」は静かな赴きを保っていた。表通りと違って人でごった返す事もなく、駐車場から出てずっとビルの上ばかりに居た柘榴を肩に呼べるほどには「閑静」だった。センシティブなブティックが軒を連ねる一角を過ぎて画廊やジュエリーショップなどが点々と散らばる辺りに出た。幸い仁の車のダッシュボードに件のパンフレットが残っており、二人と一羽は直接ここにやって来たのだった。簡単な地図と首っぴきで場所を探し、時折怜の肩におとなしく乗っかっている柘榴に行き交う人々の驚きを誘いながら一行はやっと個展会場に辿り着いた。
 「松宮遙の世界展」、入口に小さくプレートがかかっているだけのこぢんまりとした規模の展示場だった。場所柄というのか、一軒家を改築して様々な用途に使える“会場”に仕立てたものだった。相続税対策かいなと二人は顔を見合わせる。そこでぐずぐずしてしまったのはぶっちゃけこの中に入りたくなかったからだ。
  「うわアカン…ホンマにアカンでこれ…。」
  「せやかて入らんわけにもいかへんし…。」
  〈あっしぁ外で待たしてもらいやすぜ。なにしろ鳥なもんで。〉
へへ、と笑って柘榴が羽ばたく。隣のビルの屋上フェンスに留まってかく、と首を傾ける。裏切りもん、と二人恨めしげに睨んだ、しかし正論だったのでぐうの音も出ない。
  「しゃあない。行くで仁。」
  「おう。通天閣から飛び降りる覚悟で行くで。」
  〈きっとびりけんさんとやらのご加護がありやすぜ!〉
じゃかあし、と二人揃ってツッこんだ。そして揃って一歩を踏み出した。
  「いらっしゃいませ。」
 入口脇で受付嬢が頭を下げる。外見(そとみ)は一軒家だが中は柱以外全ての部屋をぶち抜きにしており反対側の端まで一望出来た。しかしそのお陰で二人は思わず仰け反ってしまった、ぶわっと一気に全身を取り巻く気色の悪さにぞわわっと怖気がきたからだ。必死に平静を装い料金(学割)を払う。資料代わりの展示物の解説パンフレットをもらい中に進む。人形師、松宮遙はその道では知る人ぞ知るという人物らしく、こういった展示物と展示内容にも関わらず結構な人出だった。