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【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形3

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  「狂ったまま永遠のその先まで、人でも生き物ですらない存在としてただそこにおらなあかん。同じように気ィちごうた“かつての誰か”と一緒にあんな風にただ喚きながらおしくらまんじゅうせなアカン。なにしろここ、「仮釈」すらないから人間も化け物もそれ以外の妖怪やら精霊やら、腐れた魂を持っとるもん全部がただ延々増えてくだけのトコやし。何もかもごたまぜの性悪のカオスやで、私やったらそれを考えただけで気ィ狂いそうやわ。」
  「まあ“狂う”言うのんも便宜上そうとしか言いようがないからそう言うてるだけで、実際はもっと違ういうのんは肌でわかるやろ。あんな声、生き物が出せる声と絶対ちゃうもんな。」
  「た」
  「どないする松宮。アンタ次第やで。」
  「たすけて」
初めて言葉が出た。そんな言葉を発したのは真実、生まれて初めてだった。
  「ちゃんと逃げんと証言すんのんか。」
  「お前大量殺人犯なんやぞ。それハッキリ認識しとるんか。」
  「たすけて!」
ずぶ。 また沈んだ。首が埋まった。指が離れそうだ。【ひいいぃぃうぅぅぃいあぁぁぁ】、また声が大きくなった。やめて、狂う、狂いそうだ。あの声を聞くだけで気が狂ってしまいそうだ。
  「聴取や裁判で心神喪失たら責任能力の回避たらしくさったらまたこの穴に引き摺り込むど。」
  「しない、しない!絶対にしないから!証言して罪を認めるから!おねがい、助けて!!」
  「アンタが死なした皆さんの供養もすんのんか。腹の底から悔い改められるんか。」
  「そこが一番大事やぞ松宮。性根入れ替えられるんかて聞いてんねや。」
性根。性根とはなんだ。私の何がいけなかった。私は被害者だ。理不尽な現実の被害者だ。
  「ちがう。現実はお前に何の危害も加えへん。」
仁が心を読んだかのように言った。松宮の瞳が見開いた。ならばあの心はどうすればよかった。傷付いた私の心は一体どうすればよかったのだ。
 慟哭が迸る。泣いた。号泣した。けれど怜が言った。
  「なに甘ったれとんねん。泣きたいのはここに並んでるお前に殺された皆さんや。」
びしりと何かが割れた。松宮の心の中の硬い何か、誰も壊せなかった松宮遙の利己の部分が粉々に割れた。

 私だ。危害を加えたのは私。わたしだった。
 数多の命を奪い心だけでなく体も魂も全て傷付け屠ったのは、まったきこの“わたし”だったのだ。

 ぐいと力強い腕が松宮の左手を掴んだ。仁の右腕だった。そのまま重さなどないかのように一気に松宮の裸体を引き上げた。先刻の怜のように腕のリーチ分高々と掲げ、まるで釣果よろしく腕一本でぶらんと吊るした。それを認めて怜がスティックを円の中心に投げる。突き刺さった瞬間“びゅるっ”と音をたてて一気に空間が収納された。シュン!と小気味良い音のあと地面は湿った土の姿に戻った。
  「…まあちったあわかったみたいやな。」
  「…たすけて」
  「ああわかってる。仁、あんたしかでけんわ。」
  「ん。痛ぅはないと思うけどな、ちょおがまんしぃや松宮。」
そう言うと仁は左手を松宮の顔にあてた。大きな仁の掌が松宮の小顔と言える小さな顔を包む。先刻強化シールドを“行き過ぎない力で”消滅させた仁の掌、それは心優しき彼だからこそ扱える滅びの手であった。しゅう、と微かな音が洩れる。次の瞬間松宮の額が割れた。

    【 びき 】

 ひび割れぼろぼろと乾いた粘土細工のように顔が崩れた。ひびは首を伝い肩に胸に、やがて全身に及んだ。ひびの下から肌が覗いている、松宮遙の本当の体である。
  「アンタ、なんでそんなに自分の体が嫌やったんや?」
怜が静かに訊ねた。この上細工はあの土蜘蛛の手に成るものだった。顔が殆ど出てきた。それは今まで怜と仁が見てきた顔そのままだったからだ。わからない。怜はこの「美」に固執した松宮を訝しく思う。何が松宮を追い詰めた、ここまで。こんなに綺麗な顔をしているのに。
 びきびきびき。ばらばらばら。ひび割れは進み破片と欠片が次々に地面に落ちる。やがて一気に崩壊が進んだ。【パン!】陶器が割れるような音を響かせ松宮の肢体が全て露わになった。がく、と膝からくず折れ地面に倒れ込む。その体に奇妙な違和感を感じたのは怜と仁二人ともだった。
  「「…?」」
顔を見合わせその違和感を繋がっている者同士の通信で確かめたがわからない。倒れたまま動かない松宮、更に疑問を募らせ、あまりいい趣味ではないなと思いつつ結局二人は一歩踏み込んで眺めた。
  「「!!」」
同時に気付いた。松宮の胸の膨らみは先刻のものより遥かに小さく、下着のサイズで言えばぎりぎりAのラインを保つ程度だった。そして何よりも雄弁なものがあった。松宮の性器だった。上半身は女性を主張しているにも関わらず、横向きに投げ出された両足の間から陰茎らしきものが見えていたのだ。

  「ヘルマプロディトス…!」
  「両性具有…。」

 仁が医学的な俗語で怜が一般的な表現で呟いた。二人が最初に抱いた印象は間違っていなかったのだ。松宮遙が忌み嫌った自分の体、それは“どっちつかず”の両性具有だった。

    しかしそれにしたって。

 怜は思う。身の内におぞましいモノを飼っている桐生院怜はどうしても、思うのだった。


  「…う。」
 松宮が身じろいだ。うっすら開いた瞳、それがみるみる見開かれてゆく。がばっと起き上がり二人を見上げる。逃げるように腕を胸に這わせて数歩分後じさった。また俯いて悔しそうに唇を噛む。絶対に誰にも見られたくない体だろう事は容易にわかる、怜は無言でレザーコートを脱ぎ、松宮の肩にかけた。
  「…最後の哀れみってわけ?」
どこかハスキーなそれ自体は心地いい声だった。
  「最低限の権利よ。」
標準語に戻った怜。無意識の変化は心に届けと願う時だけだ。松宮の顔が上がる。挑むでもない哀しげでもない、何も無い表情だった。
  「…聞いてもいい?嫌なら答えなくてもいいわ。子供の頃、あなたはどちらだと思ってたの?女の子?」
  「…。」
こく、と頷く。やっぱりか、と怜も仁も思った。この整った綺麗な顔立ち、“彼女”の少女時代はそりゃあ輝いていた事だろう。
  「検査に行ったんは、幾つの時や?中学か?」
  「そう。産婦人科だったわ。」
仁の医学的見地からの質問に松宮は淡々と答えた。それはつまり第二次性徴における両性具有特有の経緯だった。来るべきものが来なかった。初潮が訪れなかったのだ。
  「…ショックだったでしょうね。」
  「あなたに何がわかるのよ。」
突然ぎらりと松宮の瞳に凶悪さが滲んだ。まったき女、完全なる【女】を有した怜に何を言われてもきっと松宮にとっては全てが逆鱗なのだ。それを承知の上で怜も仁も続ける。打ち負かす為ではなくわからせる為に。