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【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形5

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  〈おめえさんは、幸せなんでやしょうねえ。〉

コケティッシュで小悪魔のような神戸。自ら残った特命係で屈託なく笑う神戸はあのたえとは違う。それを怜と共に見つめる柘榴は常に確認したいのだろうと己の行動を分析している。神戸は幸せなのだろうと。たえが掴めなかった幸せという名の「日常」を、平和な平成という時代で謳歌しているのだろうと。
 それが脅かされる時、怜もだが自分も相当に“あぶない”だろうとも思っている。守れなかったたえ、救えなかったたえ。“代わり”だと、例えそうでも柘榴には一向に構わなかった。どのみちたえはもうどこにも居ないのだから。

  『あんた、うそつきだ。』

辛辣に言ったたえの最後の言葉。

  『だからだいすき。ざくろ… 』

左の傷痕に触れた血まみれの小さな指。柘榴の心を全部持ってたえは逝った。



  「うわあ、すっごくいい匂い…。」
 うっとりと百合の香りを嗅ぐ神戸。とろけそうな笑顔で柘榴を見ている。
  「ありがと、カラスさん。名前、今度怜ちゃんに聞いとくね。」
  「カア。」
  「ね、触ってもいい?」
おや。 杉下のように右の金の瞳を瞠る。わくわくした表情の神戸がかつての少女とだぶった。だからくく、と小首を傾げたのちほんの少し頭を下げて、柘榴はついっと自らの体を神戸へと差し出した。おそるおそる近付く指、それはやはり無骨な男のそれだった。当然なのだが。
  「わ!すごい、つやつや…!」
首の辺りから背骨に沿ってそっと辿った指。わー、わー、と素直に感動している神戸に内心で笑う柘榴。まるっきり子供(がき)でやすねえ、と。
  「あ、あの、気になるんだけどさ。」
  〈?〉
ふい、と首をもたげ見上げた。心配そうな神戸の顔が在った。
  「その左目…」
ああ、と得心。
  「…まだ痛む?」
そして自分こそが痛いような表情で聞いてきた。こいつは古傷ですぜと言ってやりたかった。だが怜や仁と違って柘榴の言葉は神戸には届かない。
 だからじっと見つめた。もう痛まないと、その気持ちを込めて。
  「…触れても、いいかな…。」
野生の動物なら急所とも言える目に触れる事など出来ない。けれどこのカラスは柘榴だから、ととっと軽く跳ねて更に神戸に近付いた。そして首を右に傾け、白い傷痕を容易に晒した。
 神戸の右手がそっと近付く。人差し指を軽く折り曲げ、爪で傷つけないように、柔らかさだけが伝わるように。指の横の部分で、そっとかぎ裂きに触れた。
  「…痛かったでしょ?これ…。」
“さあ、もう覚えちゃいやせんや。” 大昔の出来事だ、片目が全ての記憶なのだから。
  「飛ぶの、不便じゃない?」
“人間と違って鳥ってなぁ器用なんですぜ。” イタズラっぽく睨んでみた。伝わったのか「あ、今ばかにした?」と神戸も笑った。少しばかり大胆になって右手を広げ、それでもやっぱり優しく柘榴の体を撫でた。艶やかな羽毛の手触りが心地良く、柘榴は柘榴でその掌の感触が心地良かった。図らずも蜜月、その間に割り込んできたのは「失礼します」という聞き慣れた声だった。
  「おや。」
スライドドアを開けてかなりのびっくり顔。花瓶を手にした杉下右京だった。
  「あ、杉下さん。おかえりなさい。」
  「カア。」
  「…神戸君。随分珍しいお客様ですね。」
瞬時に気を取り直したらしい小柄な上司に笑う。澄ました顔がそれでもやっぱり動揺していたからだ。
  「どちらの鴉氏でしょう。まさか通りすがりに君の病室に寄ったというわけではありませんね?」
  「カラス氏って。怜ちゃんのカラスですよ。」
  「桐生院さんの。」
そこで眼鏡の奥の瞳を見開き納得する杉下。
  「おや。」
更にシーツの上の白百合を認め、初めて真っ直ぐに柘榴を見つめた。“野暮のヤボ天でやすねえ。” ちくりと蜂の一刺しでカアと鳴いた。
  「…どうやら、正式なお客様のようですね。」
  「そうなんです。俺お見舞いまでもらっちゃいました。」
信じらんなーい、とはしゃぐ神戸。つ、と杉下の指が白い百合の茎に触れる。
  「この花瓶に、一緒に挿してもよろしいですか?」
  「カア。」
“おう、頼んだぜ。” 頼もしく依頼された気がして杉下が微笑む。完璧なディテールで表現された花の世界を壊さないように慎重に、新たな息吹きを吹き込んでゆく。
  「…わあ。やっぱ綺麗ですね。」
  「そうですね。」
それはこの百合が自生の花だからだと杉下は思う。温室で管理された花は脆く儚い。けれど野に咲いた一輪はそれだけで命を主張する。まるでこの片目のカラスのように。その彼が選んで摘んだ花は確かに瑞々しく美しかった。
  「あ、そうだ!カラスさん、お礼にお菓子食べない?」
  〈?〉
素で小首を傾げた柘榴。何の菓子ですかい、とそれで訊ねた。
  「芹沢さんがね、美味しい洋菓子のお店で買ってきてくれたんだ、焼き菓子。」
  「カラスは雑食ですが。この方の好みまではわかりませんねえ。」
  「どれがいい?自分で選んでよ。」
そう言われても。毛唐の菓子なんざわかりやせんぜ。
 丸投げされた柘榴の前に更に箱ごと差し出された。わからねえと言いつつも元来好奇心旺盛な柘榴、ふんふんとビニールのパック越しにひとつずつ“吟味”した。
  「…これ?」
やがて嘴でつんつんとつっついたのはシンプルなパウンドケーキのカット。おやこれはお目が高いと杉下が紅茶の用意をしながら感心する。この店の一番の人気商品だったからだ。神戸が上機嫌でビニールを破る。さくりとかけらを折り取って、ハイとにっこり差し出した。
  「…おいしいんだ。」
  「気に入ったようですねえ。」
 クスクス笑う特命係の二人。杉下が淹れたばかりのダージリンをソーサーごと神戸に差し出し、小さなエスプレッソカップ(怜持参)に柘榴用の紅茶を注ぐ。その柘榴は嘴で器用にパウンドケーキをつついていた。カツカツ、というよりはガツガツと食べ進めるカラスの食いっぷりに二人揃ってほ~と見惚れた。
  「カア。」
  「ん、もっと食べる?」
こっくん。頷いたとしか思えない首の動き。爆笑して、神戸がまた箱を差し出した。今度はどれがいい?同じのがいい?嘴でつついてまるでじゃれあっているかのような部下と片目のカラスの光景。それを微笑んで眺めながら、杉下はベッドの側に腰掛けゆっくりと自らの紅茶を含んだ。
  「紅茶もあるよカラスさん。あ、でもまだあっついかな、火傷しちゃう?」
  「それは猫でしょう神戸君。小さめのカップに淹れましたから少しは冷めているかと。」
 そう言ってすいとソーサーつきでエスプレッソカップを差し出した杉下。ふとそれを見上げ、柘榴はいきなり羽ばたいた。
  「わ。」
  「おや。」
こと物事に動じない杉下右京、差し出した右腕に留まったカラスにもちょっと目を瞠っただけだった。カップの中身も零れるどころか波打ってすらいない。
  「杉下さ」
  「かしこまりました。」
おどけて微笑んだ杉下に、
  「ガア。」
まるで睥睨するような声音で柘榴が鳴いた。右腕を伸ばしたまま左手にソーサーを持ち替え、緩く微笑んだ杉下はそっと嘴の先にカップを差し出したのだった。