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【相棒】(二次小説) 深淵の月・わたしの人形はよい人形5

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 神戸の切れ長の瞳が見開く。綺麗な杉下の横顔と、金に光るカラスの片目。その対の姿がまるで現実味がない。幻想的な、夢想の中でしか存在出来ないような光景だった。
 それは神戸がいつも抱く杉下右京という人間に対しての危うさ、儚さに通ずる。確かにここにいるのに神戸には杉下がふいにどこかへ消えてしまいそうな気がしてならない。それを振り払い消し去る為に自分は特命係に残った。なのに、この片目のカラスはまるでその道行きの案内をしてしまいそうだ。

    それほど美しかった。それほど汚濁を排し、拒否した刹那だった。


  「お味はいかがですか?」
  「ガ、クア。」
  「ん、どっち?」
 ふっ、と現実に戻り神戸がツッこむ。多少笑顔が引き攣っていたのは自覚があった。柘榴は嘴をカップの中に突っ込んでしばし鳥特有の仕草でその中身を飲んでいたが、やがて顔を上げ更に天を仰ぎ、く、く、と二度喉の奥まで押し込むような仕草をした。
 じ、と杉下を見据えた金の目と白の傷。

    「クア、」
    〈悪くはねえですぜ。〉
    「カアァ。」
    〈宇治の抹茶にぁ敵わねぇがね。〉

  「ってわっかんない、どっち~?」
神戸が笑う。腕に柘榴を乗せたまま杉下も笑った。




 やがて訪れた怜と仁も加わってひと時のティータイムと相成った。最初にドアを開けた瞬間神戸とじゃれ合っていた柘榴にズッと仰け反らされた二人、『おま、なにカンちゃんの病室に馴染んどんねん!』『つか見舞いて!しっかり茶ぁまでしばき倒しとってそれはないやろ!』と心中凄い勢いでツッこんだのだが引き攣った笑顔でそれをやり過ごし、『後でシメる!!』とぎろりとカラスを睨んだ。へえ、ざくろって名前なんだ~と素で感動する神戸にやっぱりひきつって、それでも二人笑った。もう一度この屈託のない笑顔を見られたのだから。
  「「え!明日退院なん?良かったやんカンちゃん!」」
  「うん。おかげさまでね。二人ともほんとにありがとう。」
にっこり笑って告げてくれた言葉。それだけでもう何もいらない。生きてまたこうして語り合えるのだから。


 開け放った窓から風が馨る。それは花の気配を乗せてさやかに吹き抜ける。神戸の髪を撫ぜて怜の耳朶に光る真珠を揺らし、何処とも知れぬ彼方の地へと旅立つかのように。









End.



 
2012. 07. 11. - 2012. 07. 13.