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タイムアフタータイム

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「黄長瀬氏の姉上が犠牲になっていたのか。辛い話をさせてしまって申し訳ない」
いやいや、と美木杉は皐月に向かって手を振った。
「あの時は僕にも紬にもわかってなかったけど、博士こそ辛かったと思うよ。羅暁の実験で流子君は一度ダストシュートから遺棄されていたと聞いている。大切な存在が生命戦維のせいで失われるというのは、何度も経験したいものではないだろう。絹江さんはとても優秀なスタッフだったしね」
伏せていた眼を皐月に向け、美木杉は薄く微笑んだ。
「貴女にも覚えがあるでしょう、仲間が倒れても進まなければいけない時がある、と振り切って前に進んだことが」
「私の仲間達は戻ってきてくれたが、確かにそうそう何度も経験したくはないな」
皐月の脳裏に四天王だけではなく各部活動部長や部員、全校生徒に至るまでがよぎっていた。
「だからこそ脅威は摘み取っておかねばならない。徹底的に」
皐月は懐から鋏を取り出し、シャキンと音を立てて空を切り取った。
「皐月さん、それは」
「残った縛斬から加工した。懐剣に打ち直すには損傷が激しかったので鋏にしてもらった。流子には真似するなと怒られたよ」
怒られたという割には楽しそうに皐月は笑った。姉妹の仲は良さそうで何より、と美木杉は頷いた。
「母の秘書をしていた鳳凰丸という者がいた」
「ああ、確か神羅纐纈に取り込まれたけど鮮血が抉り出したという」
アルティメットダブルネイキッドDTRが纐纈に弾き飛ばされていたため美木杉はその現場を見ていなかった。
「そうだ。生身で弾き飛ばされてはいたがあやつも母の、羅暁の実験体の一人だ。身柄を押さえておきたかったのだが、入念な捜索にもかかわらずまだ見つかっていない」
「生き残って、繭星降誕の再来を目論んでいないとは限らない、という話ですか」
「話が早くて助かる。先日筆頭執事だった黒井戸という者に暇をやった。その日中に荷物をまとめて出て行ったのだが、翌朝彼の荷物だけが道端に残されていたという知らせが入った」
美木杉の顔に緊張が走った。
「それは、まさか」
「そのまさかだ」
皐月が頷いた直後ドアからノック音が響いた。入れ、との皐月の声でドアが開き、そこには纏流子がいた。
「ちょうどよかった、流子、例の噂について美木杉さんに教えて差し上げてくれ」
「ああ、COVERSのアレか。又郎がダチから聞いたらしいんだ。でけえタキシードの化けもんが夜な夜な街をうろついてるらしいってな。いないはずのCOVERSがいるってことは後ろで糸引いてるヤツが要るってことだろ」
「間違いなく鳳凰丸は生きている、そしてこの件に深く関わっている。やつは力を蓄え、再びこの星を布で覆わんとしている。なんとしても阻止せねばならない」
表情に険しさが戻った皐月は、二人の方へ向き直り頭を下げた。
「流子、美木杉さん、協力してくれ。頼む」
「言われなくてもやるよ」
「まあ頭を上げて。とりあえず、作戦を聞こうかな」
作品名:タイムアフタータイム 作家名:河口