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ながさせつや
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novelistID. 1944
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流血日和

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 シズちゃんの家の前まで遊びに来たらなんとこんな時間から風呂場に灯りがついているのが見えたから、面白そうだなってピンときて部屋に侵入してやった。今時こりゃねーよってくらい簡素なシリンダー錠を手持ちのあれこれで開錠する。一分もかかんないって、ほんとこれセキュリティ的に問題ありでしょ。シズちゃん仮にも巨乳美女なんだから。っていうか侵入しちゃって一撃必殺される泥棒とかのために防犯してあげて欲しいね。入れなきゃ殴られないのに。
「おじゃましまーす」
 小さな声でひっそりと、そう声をかけてみる。後ろ手でしっかりと鍵を掛けなおしながら。
 もしも気付かれたなら裸のシズちゃんがすっとんで来るかも、なんて思って声をかけたんだけど、どうやら気付かれなかったらしい。風呂場は案外、防音性に優れているのかもしれなかった。灯りの消し忘れで家にいないだけかもしれないけどさ!
 とはいえ、とりあえず風呂場の方へ忍んでみる。すると、洗面台の横に並べられた洗濯機の上にはきちんと畳まれた下着と着替えがあったから、やっぱりお風呂か、と確認できた。脱いだ服は無造作に洗濯機の中に突っ込まれていた。きちんとさん、流石だね。
 風呂場は確かに灯りがついているけれど、物音はしない。
 ステンレスサッシの扉をそろそろとあけてみると、けぶる空気の中、たんぽぽみたいに黄色した頭がバスタブ(って言っていいのか分かんないけど。古いタイプね)のふちに乗っかっていた。つむじが見える。てっぺん突っつきたいなーなんて思った。カラカラ、と言う音は確かにしていたがシズちゃんが動く様子はなかったので、つまりは風呂で寝てるんだろ、と気付いた。こんな時間からいいご身分だよね、人のことは言えませんが。
 ふむ。折角なのでちょっと悪戯でもしようかな、と思い立ち、上着だけ脱いで洗濯機の上に投げた。ついでに靴下も濡れるから脱いで床に放った。
 ぺたり、とタイルの上に足を乗せる。やっぱり濡れている。素足で正解だ。そのままぺたりぺたりとシズちゃんを見下ろすようにバスタブの近くに立つ。透明な湯の中で、長身な身体を丸めるように体操座りでいるシズちゃんに、思わず笑いがこみ上げた。なんて窮屈そうなんだろう!
(いやしかしでも、浮力ってすごいな。胸が浮いてる)
 そう、シズちゃん自慢の(シズちゃんは自慢してないって言うけど)豊満な胸が、ぽよぽよと湯船に浮いている。なんかエロとかそうじゃなくて、ああ浮いてるなって感じだけども、興味に駆られて、手を伸ばしてみる。滑らかな肌の向こうに、柔らかな脂肪のかたまりが詰まっている。それだけと分かっているのにこのボリュームは見逃せない。っていうかいつもより大きいな……。
「なにこれ母乳出るの?」
 大きいな、と思っていたらつい口に出た。
 俺の素直な感想と言うやつだ。
 そしたらシズちゃんの目が大きく見開かれた。残念、目が覚めたようだ。おはよう、ねぼすけさん。
「あ、おはよう、シズちゃん? ねえ、母乳でも出るの? すごいおっきいけど。誰の子?」
 もにゅ、と胸を強く掴んで聞いてみる。シズちゃんは口をぱくぱくして、驚いて驚いて驚きまくっていた。面白いなぁ。
「な、おま、……ドア!」
「ドア? ああ、鍵のこと? 安心してよ、ちゃんと締めてあるよ。俺が入るときにはちゃんと閉めたもん」
「朝からずっと閉まってたはずだ!」
 うん、まあ、閉まってたけど。開けましたけど。だって簡単に開いちゃったもん。
「それはまあ、情報屋の企業秘密ってことで」
 なんて、ピッキングをごまかして笑う。シズちゃんはそんなのどうでもいいって声で、俺に聞いた。
「……何、しにきた」
 って。そんな、面白そうだった、なんて言えないけどでも、この素晴らしい絶景で思いついてしまった。最高に、愉快で面白いコト。
「何って……そうだね、ナニかな」
 自分の顔が、多分、恐ろしく胡散臭く笑っていると、自覚していたけれど止まらない。
 だってシズちゃんが、弱ってる。


作品名:流血日和 作家名:ながさせつや