M.G.S the Markhor Fighter
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《今回は今まで君が経験してきた潜入任務とは少し違う。》
「違う?」
《そうだ、今まで君が経験してきた潜入任務は単独で行うのが基本だった。
…でも今回は状況的にそうも言ってはいられない。余裕がないんだ。》
「この環境からも感じるが、確かに一人では難しいな。だがーー」
《ああ、だから今回は僕以外にも君をリアルタイムでサポートでき、
これから潜入する施設の情報を持つプロの兵士を雇っている。
彼は高度な実戦経験も積んでいるようだから、充分役に立つと思う。》
潜入任務とは単独で行うもの、誰かと組めばリスクが伴う。
自分が持つ経験と価値観では奴の考えは理解し難かった。
…が、いざこの環境に晒されると少し感覚が揺らぐ…
シャドーモセス島の極寒の地より明らかに寒いうえ、酸素が薄い。
着慣れたこのスニーキングスーツでさえも凍りつくような寒さだ。
もって1時間、この気温に晒されればいずれ体力が尽きる。
「酸素呼吸器も、防寒着も無しでは潜入する前に氷漬けだ。
とりあえず装備を整えたい、そいつとはどこで落ち合うつもりなんだ? 」
すでに寒さで震えだした声で問いただす。
まさかこの後に及んで現地調達と抜かしたら…
《当初の着地ポイントに向かってくれ。 そこで落ち合う手はずだ。》
"言うは行うより易し。"とはよく言う…積雪はすでに膝上まである。
それにこの吹雪、赤外線スコープが無ければ数十m先の歩哨さえ見えないだろう。
直感と培った洞察力でこの場を凌ぐか、さもなければ"アイスマン"だ。
吐く息さえ凍りつき、晒された肌の感覚が薄れ始めた頃
山岳の大地を這うように機会音が聞こえ始めた。
ディーゼル…モーター音。 車にしては音が軽い。
「しまった、歩哨が乗るスノーモービルか。」
積雪に身を潜め、山狐のように顔だけ覗かせた。
ヘッドライトが二つ…少なくとも二人以上の人間がいる。
《スネーク、今の君じゃあ彼らを無力化できない。
いいかい? 今はとにかく身を潜めてやり過ごすんだ。》
「…あぁ、だがどうやら奴らは何かを見つけたらしい。」
《見つけた?》
「ヘッドライトが消えた。どうやら徒歩に切り替えたようだ。」
《まずいな、敵の位置が分からなくなった。》
「声も足音も、この吹雪の中じゃあ聞こえまい。」
《携行しているライトやその類は?》
「いや、その様子はない。 …どうやら赤外線装置持ちらしいな。」
まさに猟犬の檻の中に投じられた気分
目も耳も封じられ、携行している拳銃だけでは数が多過ぎる。
匍匐で迂回するようにポイントを目指す他なかった。
…少し経ってから、あたりの空気の変化に気付く…
"猟犬の殺気"とも呼べる何かが肌身に感じたのだ。
とっさの判断で匍匐から転がるように立ち上がり、走った。
蹴り上げる雪とは別に雪が何かの衝撃で舞い上がる。
ライフル弾。姿ない足跡が断続的に背後を追う…
銃声から察するに距離はそう遠くはない、射手は二名。
だがやけに静かだ、まるで機械を相手にしているようだ。
「まずいことになった、敵はどうやらナノマシンを持ってる。」
《そのようだね、だがそんなことより逃げるのが先だ!!》
狂った方向感覚をかなぐり捨て、直感を信じてポイントを目指す
牽制に弾倉を一本使ったところで状況は変化した。
《伏せろ!!》
「!」
聞きなれない声が通信される
だが、今はそんな声でさえ従うに値する状況だ。
咄嗟に身をかがめ、後方の敵に銃を向けながら雪を強く蹴った。
ピントが合わないうちに、見えない歩哨のどちらかの足の高さで着弾音がする。
うぐぅ、押し出た声が吹雪の中聞こえた…
続けて2、3発…的確なエイムで歩哨たちの足と肩を撃ち抜く。
サプレッサー付きのM14、独自にカスタムされている。
トン、と肩を叩き前に出たその誰かは白い野戦服に身を包み、
場違いな黒い野球帽と音楽プレイヤーが特徴的だった。
「…お前は?」
「雪山で待ちぼうけくらってたら、まさか兎に出会うとは。
…いや、地面を這っていたからこの場合は"蛇"か。
お前がスネークだろ? 改めて"初めまして"、だな」
「あぁ、ブリーフィングで聞いている。名前はーー」
「ジョニーだ。」
作品名:M.G.S the Markhor Fighter 作家名:柴乃 導ヶ士