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天柳 啓介
天柳 啓介
novelistID. 50281
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サマーメモリーズ

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「あそこの海の家行くか」
 今いる場所から一番近い海の家を選ぶ。
 海の家は、なぜ、暑いのに熱いものを敢えて置くのか、と雄輔は毎回疑問に感じる。
 中には、暑い時こそ熱いもの食べなきゃ!という人物までいる次第だ。雄輔にはそれが理解できなかった。
「これにするか」
 雄輔は、その中でも比較的熱くないもの――焼きそばとかき氷を選んだ。
「じゃあ私もー」
 と、遥香は同じものを頼む。
「俺はこれにしよっと」
 高崎はカレーを選んだ。……それも激辛を。
「お前……よりによって一番やばいやつ行くか」
「当たり前よ!暑いから熱いもの!辛いもの!」
 高崎は、生粋の暑い時に熱いもの信者だった。
「とりあえず、飯食ったらどうするか」
 海の家で買った遅めの昼食をそれぞれ食べながら話し合う。
 雄輔は、海から離れた木の茂み辺りを、何となく視界に入れた。
 すると、由紀らしき人物が目に入った。
「……由紀?なんでこんなところに……」
「どうした?」
 高崎が顔を覗き込む。 
「悪い、ちょっとトイレ行ってくる」
「お、おい、そっちはトイレじゃ……」
 雄輔は立ち上がると、由紀が消えていった方向へ走り出した。
 木の茂みをかき分け、獣道を進んだ先に……彼女はいた。
「……由紀」
 以前と同じ、白いワンピースを身に纏い、彼女はそこにいた。
「やっと、来たね」
 由紀は振り向くと、こちらに微笑みかけてきた。
 その笑顔を見ると、『夢』での彼女を思い出した。
 雄輔は記憶をなくしていた頃、彼女に恋をしていた。
 それは、雄輔が由紀を覚えていなかったからなのか?
 現実で由紀と逢ってから、その考えは変わったのだろうか?
 彼女が命を絶つ以前から、好きだったのかもしれない。
 それは、記憶が戻った今でもわからない。
「……なんでこんなところに……?」
 雄輔は掠れたような声で問いた。
「なんで……?雄ちゃん、私と会いたがってたじゃん。『夢』でさ」
 心臓の高鳴る音がした。
 由紀の口から始めて『夢』という単語を聞いたからだろう。
 高鳴る心臓を抑えながら、雄輔は思考を巡らせる。
 自分はあの『夢』でそんな発言をしていたのか?
 だから何度も『夢』を見てしまっていたのか?
 なぜ自分は……それを願った?
「ふふ……難しい顔してるね。考え事をするといつもその顔を見せてた。私の……大好き"だった"雄ちゃん」
 その言葉を聞いた瞬間、世界が歪むように曲がり、雄輔は意識を無くした。
「――今度はあなたの番。私の代わりに、雄ちゃんを導いてね」


「…………君!……て!雄輔君!!」
 雄輔は、叫ぶようなその声で目が覚めた。
「ここは……」
 目が覚めると、そこは木の茂みの中だった。由紀の姿はもうどこにもない。
「よかった……起きてくれた……」
 横には、今にも泣き出しそうな由紀乃がいた。
「あれ……由紀乃さん……って、あ……」
 雄輔は見とれてしまった。
 由紀乃は、所謂「ビキニ」なるものを着ていたからである。
 海なのだから当然だし、ビキニなら遥香だって着ていたが、由紀乃が着ているのを見るのとではわけが違う。
 それは、少しでも由紀に気があったせいもあるだろう。
「それより……由紀乃さんはどうしてこんなところに?」
 思考を戻した雄輔は聞いた。
「ああ……これを取りに来てたの」
 由紀乃は手に持っているビーチボールを見せてきた。
「これを友達が飛ばしすぎちゃって」
 どうやら、友人と来ているようだ。
「でも、よかった。ボールを取りに来たら、まさかこの間お隣さんになった雄輔君が倒れてたんだもん、びっくりしたよ」
「悪い、でも助かった」
「でも、どうしてあんなところで倒れてたの?」
「そ、それは……」
 雄輔は、由紀乃に倒れた理由である『夢』のことを話すか迷っていた。
 こんな話をしたところで信じてもらえるわけがないし、なにより、由紀乃の容姿が由紀にそっくりなことも懸念材料になっていた。
「ちょっと、話せないかな……」
「……もしかして、人には言えないようなこと?」
 雄輔は首を縦に振る。
「ふーん……まあ、人間人に言えないことなんてたくさんあるよね」
 由紀乃は納得してくれたようだ。
 そうこうしているうちに、茂みから抜けた。
「…………由紀……ちゃん……?」
 茂みから抜けると、遥香が驚きを隠せないような顔でこちらを見ている。
「あ、ああ……遥香。こちらは由紀乃さんだ。この間俺の家の隣に引っ越してきて、仲良くなったんだよ」
「そう……だったんだ……ちょっとビックリしちゃった」
 まだ戸惑う春香に、由紀乃から手を差し出した。
「あなた、雄輔君のお友達?遥香さん……だっけ?よろしくね」
 遥香は差し出された手を少し見てから、握手をした。
「驚いてしまってごめんなさい」
「いいのよ。雄輔君の家に行ったとき、お母さんにも驚かれちゃったから」
 由紀乃は笑いながら言う。
「それより、お互い同い年なんだし、敬語はやめない?私敬語が苦手で」
 由紀乃はやけに遥香と距離を詰めたがっているように見えた。
 女の子同士なのだから当然かも知れないのだが、雄輔にはそれが違和感に感じられた。
「分かった。敬語はやめるね。よろしく、由紀乃ちゃん」
 遥香はお得意のコミュニケーション能力ですぐに由紀乃と仲良くなった。
「じゃあ、私はこれで」
 遥香と連絡先の交換まで済ませた由紀乃は、友人の所へ駆けていった。
 それを見送った遥香は、少し神妙な面持ちでこちらに面向かった。
「ねえ、雄ちゃん。一つだけ……聞いてもいいかな?」
 茶髪のセミロングが海風によって揺らされ、この場の雰囲気を保っているように見えた。
 少しだけ躊躇いが感じられる遥香の口から紡がれようとしている言葉は、雄輔には分かりきっていた。
「ああ、いいよ」
「雄ちゃん……私が由紀乃ちゃんを見て、驚いたことに疑問を持ってなかったよね……?」
「……ああ」
 遥香はたまに妙なところで鋭い。いや、よく見てるというべきか。特に雄輔に対してはそうだった。
 上目遣いになる形のこの状態で、雄輔は次の言葉を待っていた。
「もしかして……記憶が戻ったりしたの……?」
「……戻った」
 数秒の沈黙。流れるのは砂浜を撫でる波の音だけ。
「そっか……」
 さらに数秒の沈黙。場の空気が、地球の重力を何倍にもしたような重みを持っていた。遥香は雄輔から目を離し、遠くの海を見つめるだけだった。風に揺れる彼女の髪は、彼女の今の心境と合わさり、この風に乗りすぐにでもどこかへ行ってしまいそうだった。
「それじゃ……由紀ちゃんのことも思い出したの……?」
 雄輔には、遥香が今にも消えそうなほど弱々しく見えた。いつもの元気な春香はもうここにはいない。
「ああ、ただ、全部思い出しわけじゃないと思う。でも、大半は思い出したと思う」
「ごめんね……雄ちゃん…………」
 遥香は小さく泣き出した。この遥香の反応を見て、雄輔は慌てる。
「ど、どうして泣くんだ!?」
「だって、由紀ちゃんが……あんなことになっちゃたのって……私のせいだから……」
 遥香はなおも泣きつづけた。
 そんな遥香を宥めようと、肩に手をかけた。
作品名:サマーメモリーズ 作家名:天柳 啓介