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【カイハク】ファム・ファタール

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帰宅したカイトは、居間で知恵の輪をいじっているライに、ハクを引き取ることになったと告げた。

「はあ? お前、何考えてる訳?」
「夫に文句を言わせない相手が、他に思いつかなかったのだろう」

呆れかえった顔のライに、カイトはコートを渡しながら、

「夜には届く。お茶を淹れてくれ」
「おじいちゃん、さっき飲んできたばかりですよ?」
「泥水なら出された。全く、下らないことばかりべらべらと。手短に用件を切り出す頭もないのか」
「お前の下らない暇つぶしよりましだ」

ライはコートをソファーに投げ出し、さっさと出て行く。カイトは肩を竦めると、残された知恵の輪を外してテーブルに置いた。



夜、どやどやと荷夫達がやってきて、丁寧に梱包された荷物を届ける。使われたことのない客間に荷を置くと、またどやどやと帰って行った。

「で? どうするんだ? レコードでもかけて踊るか?」

ライの皮肉めいた口調に、カイトは「まず、荷を解かなくては」と言う。
しばしお互いに見つめ合った後、ライがぶつぶつ言いながら紐に手を掛けた。

「傷を付けるな」
「自分でやれ」

慣れた手つきで、するすると梱包を解くライ。包みの下から、張り付いた笑顔の自動人形が現れた。

「ファム・ファタールだな」

カイトの言葉に、足下の梱包を解いていたライは、何か言ったかと聞き返す。

「事件の影に女あり、だ。運命の女。男を破滅させる、魔性の女」

ライは手を止めると、カイトを見上げた。カイトは、冷えた眼差しでライを見返す。

「お前にとって、運命の女は誰なのだろうな?」
「・・・・・・さあな」

ライは俯くと、作業を再開した。



全ての梱包を解き終えると、ライは大量の包み紙その他を抱え、部屋を出ていこうとする。カイトはそれに気づき、声を掛けた。

「何だ、見ていかないのか?」
「どうせ『動かす』んだろ? 見たくねえよ、気持ち悪い」
「失礼だな」
「理屈の分からんもんは嫌だ。俺の手に負えない」

がさがさと音を立てながら出て行くライの背中に、カイトは問いかける。

「自分のことも、『気持ち悪い』か?」

ライは立ち止まると、背中を向けたまま、

「・・・・・・俺が望んだことだ」

呟くように答えて、部屋を出ていった。