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【カイハク】ファム・ファタール

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クラーラは、カイトを展示室へと案内する。
そこは、ハクの為の部屋。豪華な調度品に囲まれ、冴え冴えとした微笑を浮かべる自動人形は、惨劇の記憶すら寄せ付けないかのようだった。
カイトはハクに近づくと、ドレスに顔を近づけ、

「染みは落とされたのですか?」
「ああ、いいえ。元のドレスは、警察が持っていきましたわ。これは着替えさせましたの。夫がデザインを気に入って、同じ物をあつらえさせたのですが、まさかこんなことになるなんて」

クラーラは眉をひそめ、ハクを見つめる。ハクはただ、微笑みを浮かべるだけ。
忌まわしい人形。この人形さえいなければ、夫は。

「それで?」

カイトに促され、クラーラは「ハクを引き取っていただけませんか?」と聞いた。

「彼女を見ていると、その・・・・・・お聞きになっているでしょう?」

カイトが頷くのを見て、クラーラはもう一度ハクに視線を移す。一分の隙もない、完璧な微笑。あの夜、ガラスの瞳は何を映したのだろうか。

「馬鹿げた女だとお笑いになるでしょうが、私、その・・・・・・でも、解体してしまうのも忍びなくて。夫が、心から大切にしていましたから。価値の分かる方の手に、お渡ししたいのです」

カイトは首を傾げ、クラーラとハクを、交互に見た。

「そう、貴女が本心からお望みなら」
「勿論ですわ! 私、たまりませんの! この人形と、同じ屋根の下にいるなんて!!」

クラーラは一旦口を閉ざすと、決まり悪げに微笑む。

「まあ、ごめんなさい。みっともない姿をお見せしてしまって」
「お気持ちは分かります。あまり気持ちのいいものではありませんからね」

カイトの同情的な口調に、クラーラはほっと息を吐いた。

「本当に・・・・・・申し訳ありません。貴方に嫌な役目を押し付けてしまうようで」
「いいえ、とんでもない」

カイトは、悪戯っぽく笑って付け加える。

「友人も、きっと喜びます」