【カイハク】ファム・ファタール
徐々に知識を身につけいてくにつれ、ハクはカイトとライの暮らしを訝しく思い始める。
仕事に行く様子もないし、誰かが訪ねてくることもない。食料や生活品の配達もない。そう言えば、二人が食事をしている姿を見たことがない。カイトが、ライにお茶を淹れるよう要求するだけ。
カイトは大体居間で本を読んだりして過ごし、ライは屋敷の中や庭で見かけるものの、直ぐに姿を見失ってしまう。夜になると居間に来て、ハクに知恵の輪や仕掛けのある箱を手渡してきた。
この人達は、人間ではないのかもしれない。
ハクはぼんやりと考える。荒唐無稽かもしれないが、自分を目覚めさせたカイトや、一切飲み食いしないライの姿を見ていると、彼らが普通の人間だと考える方が滑稽な気がした。
もしかしたら、私と同じオートマタなのかも。
カイトは違うような気もするが、ライについてはそれで説明がつく。ライが、文句を言いながらもカイトに従っているのは、彼も自分同様、カイトによって目覚めたからではないだろうか。
そう考えると、ライに対して親近感が沸く。カイトに確かめてみようと、ハクは居間へ向かった。
居間に行くと、カイトがソファーで本を読んでいる。ハクは思い切って、ライのことを切り出してみた。青い目が、訝しげにハクへと向けられる。
「何故? 彼のことが気になるのか?」
逆に聞き返され、ハクはどぎまぎしながら、「私と同じかと思って」と答えた。
「同じ? ライが?」
「ええ、あの、はい。もしかして、オートマタなのかと」
「そう思うのか?」
冷静に聞き返されると、自分が馬鹿なことを言っているような気になってくる。そうそう都合良くオートマタが揃うはずもないと、ハクはしょんぼりして、
「ごめんなさい・・・・・・変なことを聞いてしまいました」
「いや、謝る必要はないが」
カイトは本を脇に置くと立ち上がり、ハクの体に腕を回してきた。
「そんなに彼のことが気になるのか、妬けるな」
ハクは慌てて、「そういうつもりは」と返すが、カイトが悪戯っぽく笑っているのに気づき、頬を膨らませる。
「もう、からかわないでください」
「ふふっ、すまない。私にとっては、二人とも大切な存在だ」
思ってもみなかったカイトの言葉。青い目が真っ直ぐに自分を見つめているのに気がつき、ハクは目を伏せた。
作品名:【カイハク】ファム・ファタール 作家名:シャオ