【カイハク】ファム・ファタール
数日後、シャンピニオン伯爵が意識を取り戻したというニュースが、小さく紙面に載った。警察は、伯爵が回復し次第、話を聞くという。
カイトからそのニュースを聞かされ、ライが気のない返事をする横で、ハクは思い切って、月明かりの中で見た光景のことを口にした。
「あの、顔は分からないのですが、一人は背が低くて」
だが、カイトとライは黙って顔を見合わせるだけ。ハクは、何かまずいことを言っただろうかと、言葉を途切らせた。
「月明かりの中で、か?」
ライに聞かれ、ハクは頷く。だが、ライは続けて、
「あの日は、雲が出てたはずだ」
「そうだな。夫人も、「天気が悪くて馬車を呼んだ」と言っていた」
カイトにも追い打ちを掛けられ、ハクはすっかりしょげてしまった。
「私の思い違いですね・・・・・・」
「気にしなくて良い。それは、別の日のことだから」
「俺の死んだ日だ」
ライの言葉に、ハクはぎょっとして顔を上げる。だが、ライはすぐに肩を竦めて、「冗談だよ」と付け加えた。
「死んではいないだろう。生きてもいないが」
「黙れ馬鹿。お前のせいだ」
いつも通りの軽口の応酬。二人の遣り取りを聞き流しながら、ハクは、ライが心臓を取られたきっかけとは何だろうと考えていた。
作品名:【カイハク】ファム・ファタール 作家名:シャオ