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【カイハク】ファム・ファタール

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ライは孤児院で育ち、機械修理の仕事で日銭を稼いできたのだと話す。クラーラとの出会いは、彼女が父親の懐中時計を修理して欲しいと持ってきたのがきっかけだった。

「向こうは貴族のお嬢様、こっちは、その日食ってくのが精一杯の貧乏人だ。お互いガキで、身分差なんて乗り越えられると思ってた。今から振り返ると、ままごとみたいな関係だったな」

淡々とした口調とは裏腹に、ライの目は、遠い昔を懐かしむように柔らかい。

「結局、娘に傷が付くのを心配した父親から金を渡されて、俺は彼女の前から姿を消した。その金で、自分の家を買ったんだ。小さいボロ屋だけど、俺にとっては、初めての「我が家」だった」

家を手に入れたら、次は家族が欲しくなった、とライは続けた。自分の手で、自分だけの家族を作ろうと。部品をかき集め、こつこつと作り上げたのは、最高傑作だと自負するオートマタ。何処に出しても恥ずかしくない傑作だった。

「それが完成した日の夜、どうやったか知らんが、クラーラが俺の居場所を突き止めた。いきなり家に来られた時は、心臓が止まるかと思ったよ。なんせ、彼女の父親には、二度とクラーラには近づかないと約束してたから。けれど、その時は、もうお互い大人だと思ったんだ。分別の付いた大人だとね。二人の関係は終わったし、この先も交わることはないと思ったんだが、どうやら、そう思ったのは俺だけだったようだ」

ライは肩を竦め、ガラス片を入れた袋を壁際に押しやる。ガシャガシャとやかましい音を立てて、袋はぐたりと床に伸びた。

「いきなり腹を刺された。何か叫んでたけど、今でも思い出せない。何度も刺されて、こっちも混乱してたし。俺が動けなくなったのを見て、気が済んだのか、クラーラは姿を消したよ。出来上がったばかりのオートマタと一緒に。刺されたことより、オートマタを盗まれたほうがショックだったな。また一人になってしまうと思った。やっと「家族」を手に入れたのにって」

ライは、割れた窓を振り返って、「後はカイトに任せるか」と呟く。夜気が容赦なく侵入し、室内を冷やしていった。

「窓の修理は、担当外だ」
「あの・・・・・・それで、カイトに心臓を?」

ハクの問いかけに、ライは首を傾げるが、直ぐに「ああ」と言って、

「死にかけてる俺の前に、カイトが現れた。何か聞いてきたから、一人は嫌だと言ったんだ。それで、承知したとか何とか言って、人の心臓を取りやがった。あいつの発想は斜め上で困る」

ぶつぶつ言いながら、客間に行こうと言うライ。促されるままに、ハクは居間を出た。ライは扉を閉め、

「シャンピニオン伯爵の件も、クラーラが犯人だろう。嫉妬深いところは変わらない。アリバイをでっち上げるだけの知恵を付けただけ、悪質になったかもな」