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【カイハク】ファム・ファタール

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「申し訳ありませんが、これも仕事でして。どうかお気を悪くなさらずに」
「構いませんよ。黒魔術について講義しましょうか?」

相手の言葉に、トレイルはぎょっとして顔を上げた。カイトは気を悪くした風もなく、

「噂になっているのでしょう。私が例の人形を操って、伯爵を襲わせたと」
「いや、はあ、あの・・・・・・この辺りは、まだ迷信が残っておりまして」

トレイルがあたふたしていると、カイトは品のいい笑みを浮かべる。

「ハクに聞いてみたら如何ですか?」
「はい?」
「あのオートマタ、ハクという名がついているのでしょう?」

その冗談に乗っていいのか分からず、トレイルは曖昧に笑って、「これは皆さんにお聞きしているのですが」と前置きしてから、事件当夜、カイトは何処にいたのかと聞いた。

「此処にいました。この部屋に」
「はあ。あの、失礼ですが、それを証明出来ますでしょうか・・・・・・?」
「友人の証言では?」
「ああ、はい。結構です」

トレイルが頭を下げると、カイトが手近にあるベルを鳴らした。直ぐに、不機嫌そうな顔の青年が現れる。

「普通に呼べ、普通に」
「ライ、こちらの紳士が、君に聞きたいことがあるそうだ」

胡散臭げな視線を向けてくるライに、トレイルは日付を述べて、この日の夜、カイトが何処にいたかと聞いた。

「ええ? 此処にいたけど。いつも、夜は此処で過ごすから」
「ご一緒に?」
「そう。うっとうしいことに」

ライの不機嫌な調子に、カイトはくすくすと笑う。

「遊びの邪魔をしてしまったので、怒っているのですよ」

ふんっと鼻を鳴らして、ライはそっぽを向いた。
トレイルは手帳にのたくった字を書き付け、常識的な結果に満足し、カイトとライに礼を言って屋敷を辞した。



トレイルを見送ったライが、部屋に戻ってくる。カイトの向かいに座ると、

「今の警察?」
「そう。シャンピニオン伯爵が襲われたそうだ」
「え? 強盗とか?」

カイトは、どうかな、と言って、ライに事件のあらましを説明した。話し終わると、ライはぼんやりと視線を宙に向けて、

「へえ。またやったのか、あの女」

と呟いた。