こらぼでほすと 二人1
ウォーキングぐらいから始めなさい、と、ドクターから許可が降りた。ということで、ニールは午前中と午後にもウォーキングをしている。とはいっても、行方不明になられても困るから周囲二キロ辺りで、ぶらぶらしていろ、と、ハイネに命じられて、近所をブラブラしている。季節柄、暑くもなく寒くもないから、歩くにはちょうどいい。午後の昼寝をやめて、その時間を歩いている。今日は、大通りの本屋まで遠征して公園をブラブラしていた。すっかり新緑だった広葉樹も、深い緑になりつつある。公園のベンチに座って、ふぅーと息を吐いた。一時間歩くのが手一杯なので、適当に休憩もしている。午前中の散歩は近所のスーパーまで特売の買出しで、以前から出かけていたので体力作りになっているのは午後の部のほうだ。
・・・・あー外を歩くのが気持ち良い季節だなあ・・・・
木陰のベンチに座って見上げると、真っ青な空がある。五月は天気が良くて、ほとんど雨らしい雨は降らなかった。問題は、六月後半だ。当人にも、さっぱり体調の回復具合が解らないので、どの程度のダウンで済むのか見当がつかない。去年と同じように、冷凍庫にストックしておくつもりで考えてはいる。連休明けの雨でダウンしたところをみると、完全に動けるわけではないらしいからだ。
・・・ということは、六月に入ったら準備始めたほうがいいな。いつも通り、カレーとか冷凍しとくとして・・・あとは、三蔵さんの昼もチンしたらいいようなの作っておくか・・・・
そんなことを考えて、ふわふわとした気分で少し目を閉じた。次に、近くで声がして目を開けたら、ベンチの前には亭主が立っていた。
「どうしたんです? 」
「寝るなら、家で寝ろ。誘拐されるぞ。」
「はあ? ・・・誘拐すんなら、小振りなとこを選ぶでしょ? 180越えは運ぶのが大変だ。」
「どこにでも、おかしなヤツはいる。おまえみたいなのを好き放題したいとかいう変態もいる。」
「まあ、いることはいるでしょうが・・・運ばれたら起きますよ。そこまで熟睡しちゃあいない。・・・・てか、お茶ですか? それともおやつ? 」
「そうだな。そろそろ、麦茶を炊いてくれ。」
確かに、日中は冷たいものが欲しくなる季節だ。じゃあ、麦茶を買って来ないと、と、立ち上がったら、亭主もついてくる。どうやら時間を過ぎても帰らないから探しに出て来たらしい。
「今、何時?」
「三時過ぎだ。どっかでくたばってたら、俺が暗黒妖怪と舅に殺される。」
「あーすいません。気持ちよくて、うとうとしちゃって。」
「歩くのはいいが、途中で寝るな。」
「はいはい、すいません。」
「まだ、昼寝したほうがいいんじゃねぇーか? 」
「うーん、でも、あんたが出勤したら、ちょっと横になっているからなあ。それに歩く時間って、そこぐらいしかないし。」
「別に無理して時間を作らなくてもいいだろう。」
ぶらぶらと二人して、スーパーまで足を延ばして麦茶を買って戻ったら、寺には実弟が居た。というか、居間に転がって昼寝している。
「あれ? あんた、聞いてました?」
「いや。」
いつもなら、マイスター組が降下するという連絡が先に入るのだが、なぜだが、ロックオンの降下情報はニールも連絡されていなかった。連絡ナシで降りて来るのは珍しい。連絡ミスではなくて、ラボでデータ収集の予定だったから、こちらに戻ることになるのは予定では二日ほど後だったからだ。
「サルが、ぼちぼち戻るぞ。」
「うわぁー、メシはあるからチャーハンでもするか。」
いつもなら軽食の準備もするのだが、一時間も居眠りこいてたら、準備が間に合わない。軽いところで、チャーハンなら時間もかからないから、そこいらの準備をする。
「とりあえず、ペットボトルの冷茶で。」
「おう。」
「お腹は? 」
「俺もチャーハンしてくれ。紅ショウガ多め。」
「了解。」
寝ている実弟は放置して、寺の夫夫は台所に移動する。亭主は食卓の椅子に座り、夕刊を広げるし、女房は出勤前の軽食作りだ。
「忙しいんですかね? あんなところで寝てるってーのは。」
「さあなあ。・・・おい、レモンサワー。」
「はいはい。」
薄めに作ったレモンサワーと、適当なアテを亭主の前に置くと、すぐに亭主のチャーハンも出来上がる。亭主のは卵とネギの簡単チャーハンだ。悟空は、これでは物足りないから、焼き豚を大量に叩き込む。さらに、冷凍している汁気たっぷりの八宝菜も解凍してあんかけにすれば、ボリュームもバッチリだ。
そうこうしていたら、悟空が帰って来た。たっでぇーまーと居間に入り、転がっているロックオンにギョッとした。
「おかえり、悟空。俺は、こっちだ。」
驚いているので、ニールが声をかけると、振り向いて、ほっとした顔で台所にやってくる。
「ビビッたぁー。ママがぶっ倒れてるのかと思った。」
「あんかけチャーハンでいいか? 」
「うん、オッケー。てか、なんで、ロックオンは寝てるんだ? 」
「俺たちが散歩から帰ったら、すでに寝てたんだ。疲れてるみたいだから、そっとしておいてくれ。」
「そういや、五月の終わりに降りるとか刹那が言ってたっけ。」
「俺も、それは聞いてたんだけどさ。降下の連絡もなかったから、いきなりだ。・・・忙しいのかなあ。」
しゃっしゃっとフライパンを煽ると、あっという間に、焼き豚入りチャーハンは完成する。これに、解凍した八宝菜をかけると、あんかけチャーハンも完成だ。
「いただきまーすっっ。・・・ママは食わねぇーの? 」
「俺は、あいつが起きたら、一緒に食うよ。アスランにメールしといたほうがいいかな。」
今日は出勤日だったが、実弟が帰って来たので、休むことにする。ニールは、店表のほうは、ほとんど手伝っていないから、指名されることもないので時間の融通はつく。携帯端末で、フロアマネージャーに休みのメールを入れると、すぐに了解の文字が戻って来た。
「あ、アスランは知ってるみたいだな。」
いつもなら店を突然に休む、なんてメールをすると、体調不良かと心配して電話をかけてくるが、アスランがメールで返したということは、そういうことだろう。
「なら、いいんじゃね? 」
はごはごとチャーハンを飲み物のように食べつつ、悟空は頷いている。アスランなら降下の連絡も入っているのだろう。
「悟空、米は噛め。」
「もう食った。・・・あと、白メシ。」
ドンブリ鉢一杯のあんかけチャーハンぐらいでは足りない。坊主の酒のアテをおかずにして白メシも掻きこむ。
「おい、レモンサワーお代わり。」
「これで終わりですよ。」
亭主のほうもチャーハンをアテにしてチューハイを飲んでいる。あまり量を飲ませると、店に着いたら即口説き魔モードになるので、そこいらはニールも考えて調整する。
作品名:こらぼでほすと 二人1 作家名:篠義