流れ星 3
進は思い出した。兄、守の事をダシにしてよくケンカを売られた事を。
「だいたい病院送りになる、って…な。」
サブ航海士もつぶやくように言う。
「そんな噂があったのか?」(進)
「はい。」
そこにクスクス笑う砲手がいた。
「古代艦長はよくケンカ売られてましたよ。確かにね。」
進はそうだったか?と考える。
「私、それ以上に古代艦長の前をさっそうと歩く島航海士が気になってまして。」
砲手は笑いを堪えている。
「数十分後、すっきりした顔で戻って来るの見た時“またケンカ売られてたのか。”
って思ったもんです。」
砲手の言葉に航海士の二人が顔を見合わせる。
「ケンカを売られる?」(航海士)
「…実は私の兄の事でよく呼び出しがあって…それで…で、一人で行こうとすると
どこからその噂を聞いたのか島や南部、太田もついて来て…だいたい相手も
複数で来てたから人数的にはちょうどよかったんだけどね。」(進)
「え?その頃から島航海士と知り合いだったんですか?」(航海士)
「島とは訓練学校からの腐れ縁。南部と太田は月基地で訓練をしてる時に
合流したからヤマトに乗る2年前ぐらいから交流があったんだ。相原も島と
一緒で訓練生からずっと一緒だ。」(進)
「だから艦長と相原通信士は同じ羅針盤付けているんですか?」(サブ航海士)
進はふと自分の左手首を見た
「…そう、これな…。これは相原が俺と島、同じ訓練学校だった加藤と山本に
送ってくれたプレゼントなんだ。」
進はその羅針盤をなでる。羅針盤の中央には小さく時計も付いているので地球にいる時も使っている。
「ヤマトの復路でこれに通信機能もつけたから近くにいればその5人と会話が
できるようにもなってるんだ。あ、で後から南部と太田、真田さんも便利
だから、って同じメーカーのニューバージョン買ってきて同じように通信機能
つけたんだよ。機械いじりはみんな得意だからね。」(進)
「そんないきさつがあったんですか。私はてっきり…」
通信士がここで止まった。
「てっきり?」(進)
「相原通信士ってちょっと中性チックなところあるじゃないですか。だから…。」
進は思わず真っ赤になってしまった。
「俺は男に興味ないって!」
その瞬間相原は自室でくしゃみがでたそうな…
「でもすごいですよね。一度イスカンダルへ行った時の事を聞いてみたい、って
思ったんです。」
護衛艦は輸送船が積み込みしてる時はヒマだから時間はたっぷりある。
「航海日誌読めるぞ?」
セキュリティはかかっているが軍に属していればだれでも閲覧する事は出来る。
「もちろん読みました。でもそこに記されていないこと、ってたくさんあるじゃ
ないですか?随分細かく書かれている日もありましたが…。」(航海士)
「森秘書官とのなれ初めも聞きたいですし!」
とてもフランクな進に珍しく砲手も乗り出してくる。
「…普通の航海だと思うんだが?敵が出てくりゃ戦って敵がいなけりゃワープを
重ねて進むだけだよ。」
そう、特別な事はしていない。ただ戦う事に必死だっただけだ。
「ただ一つ言えるのは自分たちがダメになったら地球もダメになってしまう、と
だから誰もが必死だった、って所だろうか?誰もが自分の持ち場をしっかり
守ってくれたから地球が救われた、って感じかな。」
進がさらっという言葉に彼らは返す言葉がなかった。
「俺は戦闘班だったし戦闘班長で戦闘機に乗って飛んでいく。本当なら戦闘班長は
第一艦橋で指示を出さないといけないけど俺は戦闘機に乗ってブラックタイガー
を指揮して戦っていた。それは南部に全面的な信頼を置いていたからできた
事で…もちろん最終的な判断は沖田艦長なんだけど。南部がいたから俺は俺の
戦い方ができたし…島は島でヤマト自身がまるで島の体の一部みたいに操縦
してた。島も太田を信頼して太田がつくる航海図を信じてヤマトを進めていた。
なにも特別な事はない。誰もがヤマトに命を預け仲間を信じて動いた結果が
イスカンダルへたどり着きコスモクリーナーDを積んで戻ってこれた事に繋がって
るんだと思う。俺は最初の航海で誰よりも信頼できる仲間を得る事ができた
けどそれは偶然でヤマトがなければ何年も先じゃないとそんな仲間は得られな
かったかもしれない。俺は運がよかったんだと思ってる。」