流れ星 3
「その中に森さんはもちろん入ってますよね?」
砲手が突然核心を突いて来た。
「え?ユキ?」
突然話が飛んだので進も驚いた。
「そうですよ、あんな絶世の美女、どうやって射止めたんですか?」
砲手はこれが聞きたくて仕方なかったんだろうと思うがそれは砲手だけでなくここにいる二人の航海士もそうだ。
「ユキねぇ…」
ユキの顔を思い浮かべると進の顔が変わった。勤務中とは思えない素の表情になる。
(艦長、顔変わってるの気付いてないな)×3
「今や地球防衛軍の長官の第一秘書としてキャリアウーマンっぽいけどまだ
19じゃないですか。うわさじゃ話す言葉は10か国以上で通訳なしで全ての
主要国のお偉らさん方と話ができる、って。ドクターを目指して上京した、
って聞いたんですが…。」(砲手)
「よく知ってるな。」(進)
「あれだけきれいな方ですからね。誰もが知ってる噂ですよ。」(砲手)
「競争率高かったんじゃないですか?」(航海士)
「…まぁ…。」
進は復路に何人かが玉砕しているのを聞いている。
「艦長、いいですよねぇ。婚約したんでしょう?これからはただいま、って
帰ったらあの美女が“おかえりなさい”って言ってくれるんですよねぇ?
俺だったら定時待ちきれなさそうですよ。」
進はここでハッとした。
「おかえり?」(進)
「おかえりだけじゃないですよ?行ってらっしゃいもあるだろうし…あ、仕事
辞めなきゃ一緒に出勤で一緒に帰る、って言うのもありですね。一緒に
キッチンに立って食事作ったり…いいなぁ~美女のエプロン姿…。」(航海士)
「俺がエプロン付けてたらどうするんだ?」(進)
「艦長のはどうでもいいんです。」
砲手がスパッと切り捨てる。
「美人は3日で見飽きる、って言いますけどあれだけ才女ですから飽きる事
ないでしょうね。話題も豊富じゃないと長官の秘書なんて勤まらないと
思いますし。いいなぁ一緒にテレビ観たり音楽聴いたり…」(砲手)
「あ!!!」
ここで急に進が思いついたように声を出した。
「どうしたんですか?」(砲手)
「新居…」
進がぽつりとつぶやく。
「新居?」(航海士)
「そう、新居…」(進)
「今住んでるのは?」(砲手)
「寮…」(進)
「森秘書官も?」(砲手)
「寮…」(進)
「男子禁制、女子禁制じゃないですか!早いトコ官舎申請した方がいいですよ!」
砲手が半ばあきれ顔だ。
「こないだイトコが申請してたけど今建築中の官舎は抽選らしいですよ。」(航海士)
「抽選、って事は…」(砲手)
「足りない、ってことですよ。早めに申請しておけば次の官舎にで対応して
くれるかもしれませんよ?」(航海士)
航海士の言葉に進の視線が相原を探す。でも相原はさっき休憩に入ったばかりだ
「艦長、そこで相原通信士を使おうと思わないでくださいよ。部下を私用で
使っちゃいけません!」(砲手)
「どこから調べればいいかわからないからちょっと教えてもらおうかと…」(進)
「ご自身でどうぞ!」(砲手)
「地球にいるから、って森秘書官にやらせようなんてそんな無粋なことしません
よね?」(サブ航海士)
「しない、って!」
進は式場とか結婚の準備を全てユキに任せてしまっている手前、そこまで押し付けられないと思った。
「多分申請ぐらいは軍の端末でできるはずですから…ちょちょっと調べてみたら
いかがですか?」(砲手)
進は肩を落としながら
「俺も休憩入っていいか?」
とつぶやいた。
「さぞかしお疲れでしょうからどうぞ休憩に入ってください。有事が起きたら
すぐに連絡しますから。」
砲手はそう言って敬礼すると航海士たちも敬礼をした。進も背筋を伸ばして敬礼すると疲れた様子の背中を見せて第一艦橋を出て行った。