流れ星 3
「そうだったんですか。」(南部)
真田のよく行く飲み屋に二人を誘って奥の間仕切りのある個室で飲んでいた。
「諦めの悪いヤツ、ってどこにでもいるんですね。」
南部が運ばれてきたビールを飲み干す。すかさずユキがビールのお代わりの注文を入れた。
「ラボの前で遭遇したとなればユキさんがいつも真田さんと一緒、って分かった
はずだからラボに通いだしちゃうかもしれませんよ?」
大きなから揚げを南部が口に入れる。
「そうよね…。」
ユキが深くため息をつく。
「ま、ユキさんが仕事終わる時間、私にも教えてください。私も真田さんの
ラボにいるようにしますから。」(南部)
「南部くんにまで迷惑かけられないわ。」(ユキ)
「どうせ新しい辞令が出るまで訓練して終わりなんですから別にやる事ない
ですし。拘束時間さえ軍にいればいいんですから。それに真田さんの所に
いるといろんなの見れて楽しいですよね。」
南部は未完成の戦艦の立体設計図を見てヤマトで使いにくかった部分を真田と話したりして意外と有意義な時間を過ごしていたのだ。
「私も設計するのに南部の意見を取り入れて直そうと思ったぐらいだ。もっと
早くに話を聞けば古代と島が乗ってる艦ももっと操縦しやすくできたかも
しれん。」
真田が心底悔しそうに言う。
「人が乗って人が操縦する艦なんだから一人一人がしっくりくるいい艦を
造りたい、と常に思っている。」
自分の携わった艦でひとりでも戦死する人間を減らしたい、そんな気持ちがユキに伝わって来た。
「そう思うとヤマトって本当にいい艦でしたね。座るシートはあんなに硬いのに
いざ座るとしっくりくるんですから…。」(南部)
「そう言ってくれると嬉しいな。でもユキのシートしかいじってないんだぞ?」
真田の言葉に南部とユキが驚く
「私のシート?」(ユキ)
「あぁ、ユキのシートだけは女性が座る予定だったから一回り小さくしてベルトも
細く短くした。首とひざの裏が当たる部分もカーブを柔らかく作ってある。」
ユキは他のシートに座った事がなかったので全く気付かなかった。
「へぇ…真田さん、って細かい所気にするタイプだったんですね。」
南部が感心しながらつぶやくように言った。
「むさくるしい男連中の中に大事なユキを放り込むんだ、それぐらいひいきしたって
許されるだろう?」
真田がニヤっと笑いながらビールを空けたのでユキが日本酒を注文する。
「ユキさん、ひょっとしたら古代より愛されてるかもしれませんよ?」
南部が爆弾発言を落す。
「うふふ、だって真田さんは私のお父さんですもの。」
ユキが最上級の笑顔を南部に向ける
「うわ、真田さんがお父さんだって!古代、かわいそう~」(南部)
「ユキ、いい加減そこは“兄”にしてくれ、って言ってるじゃないか。」(真田)
「だってやっぱり真田さんはお兄さん、って言うよりお父さん、ってイメージ
なんですよね?」
賑やかに楽しい夜は更けていった。
{真田さんと南部くんと飲んできちゃった!
やっぱり真田さん、ってお父さんみたい、って思った。真田さんったら
私が座るから、ってヤマトのシート特別仕様にしてくれてたの。すっごい
嬉しかった!ますますヤマトが愛おしくなっちゃた。}
ユキからのメールがいつもより遅い時間に入っていた。進は少し心配したが真田さんと南部が一緒なら安心だ、と思った。
<いいな、俺も参加したいよ。
でもヤマトのシートの話は初耳だな。まぁ真田さんにとってユキは特別
だからいいんじゃないか?俺はそれ以上に特別だけど。でもだからって
ヤマトをいじる事は出来ないからな~それって真田さんの特権だよな。>
見た目は変わらいないヤマトのシート。どこが違うのか今度見てみようと思った進だった。
ユキにメールを送った後少し遅れて南部からメールが入っていた。
{クルーの技術班の上村、って知ってるか?ユキさんのまわりをうろついてる
らしいから俺と真田さんで作戦展開する予定。}
南部からのメールをみて苦々しい気持ちになる進。自分が護ってやれないジレンマもあり婚約発表したのにまだそんなヤツがいるのかと思う気持ちもあり…
<悪いな、南部。飛んでちゃぁ何もしてやれない。頼むな。>
短くそうメールを入れるとすぐに真田にもメールを打つ。
<真田さん、すみません。南部から連絡もらいました。ユキの事、よろしく
お願いします。>
短くそう打つとメールを送信した。
<ユキ、聞いたよ。上村の事。ごめん、離れてるからユキを護ってやれない。
できるだけ一人にならないように気を付けてくれな。>