流れ星 3
進がユキが長官の出張について火星に行く、と言ってた事を思い出した。そしてそれが南部の艦の処女航海だった、という事も。
「地球より少し近いね。会いたい。」
ユキはその一言をすぐに削除した。ひょっとしたら進はそこまで会いたい、って思ってないかもしれない、と思ってしまったから。
「間近で見た月もきれいでした。コスモタイガーのみんなは自由に飛んでるかな?」
そう最後に入力すると送信をした。
<ユキさん、後1時間で到着です。>
艦長室にいるユキの所へ南部から通信が入った。後悔は順調で何もトラブルなく火星に着く、との事。いろんなテストをしながら飛んでるのでいつもより航行時間は余裕を持っていた。
「了解しました。」
ユキはそう返事をすると巡回を終えて戻って来た時入れたコーヒーの容器などを片付け始めた。
「着陸の準備が始まるね。」
藤堂もソファーから立ち上がり目の前に見えている火星を見た。
「あそこに…サーシァさんが眠っているんですね…。」
ユキがカップなどを片付けて万一の時に飛び散らないようしっかり固定された容器に入れ藤堂の横に並んで火星を見つめた。
「なんでも…部屋から持ってきたシーツにくるんで埋葬したらしい。まさか
地球を救う使者とは思わなかったから…まぁ彼らにできるのはそこまでだった
だろうと思うがこのままにしておくのは忍びなくてな…。ただここにスターシァの
妹が眠っていると大々的に報じればそれはそれで大変な事になってしまう。
ひっそり、だが失礼のないよう、埋葬し直そうと思っているんだよ。」
表向きは火星の軍と資源の掘削状況の視察だがその秘密裏の指令が出ている事をユキは頭の中で確認していた。最初その話を聞いた時はなぜもっと早くに、と思ったが今は丁重にお迎えしてきちんと埋葬したいと思っている。
(火星の大地じゃ心細いでしょう?)
ユキはイスカンダルでサーシァのフォログラムを見せてもらった。まるで鏡を見ているようなそんな錯覚に陥ったのを覚えている。
<妹は勇気のある子でした。私と違い美しく聡明で活動的でした。私がどうやって
地球へ手を差し伸べようか考えている時、私が行く、と…。コスモクリーナーD
を持って行けばいい、というサーシァとそんな大きな艦をサーシァひとりに
任せられない、というのと随分口論になりました。大きな艦で行って他から
攻撃されても困るしましてガミラスの艦に遭遇したら元も子もない、という事
でメッセージを持って向かう事にしたんです。本当に戦闘に巻き込まれると
思わずに…サーシァと間違えてしまってごめんなさいね。女性で戦艦に乗るなんて
ユキは勇気のある女性だわ。>
ユキはスターシァを思い出す。あの時きっと自分に勇気があれば、って思っていたはず。
「私、イスカンダルでそのサーシァさんの映像をスターシァさんに見せてもらった
んです。スターシァさんが私とそのサーシァさんを間違えたので…古代くんと
島くんもよく似てた、っていうから余計に気になっちゃって・・。
まるで鏡を見ているようでした。でも…。」(ユキ)
「でも?」(藤堂)
「こう…威厳、と言うか…やっぱり王女なんだ、ってオーラがあったんですよね。
フォログラムみて圧倒されてしまった、と言うか…。」
ユキが火星を見ながら話を続ける
「そして時々思うんです。サーシァさんが生きて古代くんと島くんに会ってたら
私はどうなっていたんだろう?って。最初会った時病院でした。ふたりが
私の事をすごい眼で見てたからよく覚えてるんですが…失礼な人達ね、って
その時は思ったんですけど後から聞いたら余りにもイスカンダルの女性に似
過ぎていたから、と。だからもしサーシァさんが生きてたら私の事なんて
空気と同じ存在、ぐらいだったかもしれません。」(ユキ)
「そうかな?」
藤堂の言葉にユキは視線を火星から藤堂に変えた
「惹かれあう者同士と言うのは例えifがあったとしても変わらないと思う。
そしてユキにはユキの良さがある。大丈夫だよ、古代もそこはよくわかって
いるだろう。安心しなさい。」(藤堂)
ユキがはにかむような笑顔になった時艦内放送が入った。
《全乗組員に告ぐ、後10分程で火星に着陸する。本艦の初めての着艦となるので
万一に備え体をベルトで固定するように。》
今ユキのいる艦長室の下の第一艦橋には緊張が走っている事だろうと想像する。軍の規定で処女航海は出航も着陸も全て手動で行うからだ。
(サーシァさん、待っててね。私も行きますから。)
《着陸まであと5分!》
座席に座りベルトを付けユキは静かに眼を閉じた