こらぼでほすと 二人3
ぐいっと一気に飲んで、ニールは、バタンと背後に倒れる。これぐらいのアルコール濃度になると、一気に酔いが回る。倒れた女房の顔を拝んで、亭主はタバコの火をつける。どうにもならないことをクヨクヨと考えるぐらいなら、前を向いて茫洋とした世界を目にして歩けばいい。明確なものがなくても前には進める。足を前に出せばいい。それだけのことが、女房はできなくなった。たまに、グダグダするのも、亭主に論破されて落ち着くのも、いつものことになりつつある。
亭主のほうは、それでイラッとすることもない。グダグダと愚痴を言うのは亭主と舅ぐらいだから、それはそれで可愛いと思っている。
翌朝、ロックオンは衝撃で目を覚ました。目を開ければ和風の天井だ。ずいっと寺のおサルさんが、眼の前に現れる。
「ロックオン、今日から休みなんだろ? ママの散歩に付き合ってくれ。散歩は一回につき一時間だかんなっっ。」
悟空は、それを叫ぶと、てってこと部屋を出て行った。寝起きのぼけた頭では言われたことが理解できない。それに眠い。もう一度、寝返りを打ってまどろみに戻った。悟空のことは記憶からリセットされたのは言うまでもない。
ハイネは、朝からデュナメスリペアを起動させて、ラボの演習場で射撃とシールドによる防御を試みていた。とりあえず、データを揃えればいいので、ハイネの担当分をやっておけば、ラボに詰めている必要はない。昨晩、悟浄からのメールを読んだので、今日は寺に戻るつもりだ。
「あーかったりぃー。」
あっちこっちからレーザービームを撃たせて、デュナメスリペアのシールドで防御するのだが、うっかり、先に機体を動かしてしまうのだ。シールドなんて普段、使ったこともないから、勝手が違ってやりにくいことこの上もない。
「避けるな。シールドで防御しろ。」
マードックも気付いて、通信してくる。わかっちゃいるが、どうも動いてしまう。ついでに、搭載武器もライフルだから、照準合わせをしなければならないとくる。もちろん火力はあるからヒットさえすれば、一発で相手は撃沈だが、防御しつつ照準を合わせるのが面倒だ。
「なあ、マードック、俺、この機体に向いてないわ。」
ハイネの機体は接近戦型で、ビームサーベルで、スッパスッパと敵を斬るのが基本だ。後方で援護するのは慣れていない。後方支援に特化しているので、使い方がまるで違う。ザフトでは、後方支援は戦艦の担当になるからだ。
「うちじゃあ、これを使いこなせるのはキラぐらいじゃないか。」
「そうかもしれない。あいつは、どんなのでも、どうにかすんだろうからな。」
キラは機体特性によってMSを使い分けられるし、自分の動かしやすいようにシステムを変更させてしまえるから、この手の特殊なMSでも乗れるはずだ。最初は味方の戦艦がAAだけだったから、組織と似たような陣容で戦っていたからだろう。
「とにかく、規定回数はこなせ。」
「アイアイ。」
とにかく、デュナメスリペアの機体特性を数値にしなければならないから、規定回数の防御をしてパターンを作る。その地道な作業のひとつだ。まあ、まったく違う機体を乗りこなすのも訓練の一つにはなるから、ハイネも文句を吐きつつ仕事はする。
朝のうちに、いつもの家事を片付けて、とりあえず近所のスーパーの特売に出向く。特売モノはゲットしておかないとエンゲル係数が怖いことになる。
坊主は卓袱台で書類仕事をしていたので、声だけかけて外出した。スーパーの往復ぐらいなら、亭主も心配はしない。買い物メモを片手に、今夜のメニューを考える。本日の特売は塩鯖だから、これは確定。あとは、野菜の特売関係で、副食メニューも考えるが、それだけでは足りない。おやつは、何にしようかな、と、考えていたら、クラクションが鳴って、前からやってきたクルマが停止した。
「買い物か? 」
クルマの窓が開いて声をかけてきたのは、鷹だった。最近、店で会う以外に遭遇していなかった。
「どっか行くんですか? こんな朝から珍しい。」
「昼飯食わせてもらおうと思っただけだ。今夜から、ラボの泊まりなんだ。」
「じゃあ、寺で待っててください。」
「いや、荷物持ちぐらいはやりますよ。乗ってくれるか、白猫ちゃん。」
「ついでにホームセンターもいいですか? 」
「そっちが先のほうがいいんだな? 」
「はい、お願いします。」
じじいーずの鷹あたりだと、頼みやすいので、ニールも遠慮なくお願いする。ホームセンターは少し離れた場所にある。歩いていけない距離ではないが、荷物が大きいから帰りが大変になるので、アッシーのいる時に利用する。
「ちょうどよかった。タマゴお一人様一パックなんですよ。あと、きゅうりの詰め放題も。鷹さんも参加してください。」
「すっかり、おかんだな? 」
「それが、俺の仕事ですからね。その代わり、お昼はリクエストを受付ますよ? 」
「タマゴがあるなら親子丼だな。それと味噌汁とたくあんのセット。」
「きゅうりのたたきもつけますよ。」
「お、いいね。ちょっと昼寝していけばいいな。ビールもつけてくれ。」
「はいはい。・・・あ、そこを左に曲がって道なりに行くと十分くらいで到着です。」
「おまえ、この距離、歩いてないだろうな? 」
「歩いてますよ。でも、トイペのパック一つが限度なんで量が運べません。」
寺のトイペはお徳用十二ロールパックなので、ひとつでも容量はでかい。他にも洗濯洗剤だとか土の肥料とかいうブツが多いので、せっかく行っても買えないのだ。
「なんのために、ハイネが居候してんだよ。アッシーを使え。」
「はいはい。」
陽気なツッコミに、ニールも相槌をうつ。横目に運転中の鷹を観察するが、どうということはない。だが、わざわざ、鷹が昼に遠征してくるなんていうのは珍しい。何かやらかしたか? と、ニールは、最近の自分の動向を思い返すが、これといってはない。実弟が降下してきたことぐらいだ。
「俺、なんか心配されるようなことしてますか? 」
聞いてみるほうが手っ取り早いので尋ねたら、鷹は笑い声を上げている。
「思い当たることでもあるのか? ママニャン。」
「これといっては・・・ロックオンのことぐらいですが・・・」
「そうなのか。逢いたくないなら、早めに移動させるか? なんなら本宅へ泊めてもいいんだし。」
「そんなことありません。・・・・逢うのは嬉しいですよ。」
「逢うのはいいけど、うっとおーしいか? 」
「違います。」
「じゃあ、何? 」
「・・・怒らせたくないなあとか・・・」
「え? DVか? ・・・おまえ、そういうことは亭主に言いつけて、凹にしてもらえ。」
「DVって・・・うちの弟は、優しいですよ。昨日も心配してくれたし・・・そういうんじゃなくて・・・軽蔑されたくないっていうか・・・ほら、いろいろとね。俺、言えない事が多いんで・・・」
作品名:こらぼでほすと 二人3 作家名:篠義