こらぼでほすと 二人4
午後から外出しようと思ったら、鷹に止められた。昼寝の添い寝なんてものを所望されたからだ。
「マンションの往復だろ? 一人で行かせろ。それで、ママニャンは俺と昼寝しなさい。」
「もう昼寝してませんよ? 俺。」
「まあ、たまには、お兄さんに付き合え。白猫君、いってらっしゃい。クルマは貸してやる。夕方、ハイネが戻る時に、おまえ用のクルマも運んで来るから、ここにいる間は、それを使え。」
「あ、そうか。クルマ借りればよかったんだな。」
本宅から、スタッフに寺に送迎してもらったので、ロックオンは足がない。あそこでクルマを借りておけばよかったとは忘れていた。
「二時間くらいは好きにしていい。」
「オッケー、じゃあ借りていく。」
「ロックオン、下着とか靴下も持って来いよ? 各部屋のクローゼットに服は収めてあるから。」
「わかってるよっっ。俺は、それほどバカじゃねぇーしっっ。確か、マンションの近くにショッピングモールがあったよな? 新しいのも買ってこよう。」
「金は? 」
「あるよっっ。俺はガキじゃねぇーつーのっっ。いってきます。」
実兄が、初めてのお使いに出る子供のように心配するので、憤慨して出た。玄関を出てから、へらっと笑った。もう、あんなふうに心配してくれるのは実兄だけだ。実兄の頭の中で、ロックオンの年齢は、子供の頃のままなのだろう。ロックオンは、ニールが大人になっていることは理解している。子供の頃の実兄とは、かなりかけ離れているからだ。実際、子供の頃だって、ああいう性格だったのかもしれないな、と、思い出す。兄だから、と、自分や妹には見せていなかっただけなのだろう。ロックオンより、何事につけ先にいた兄だったが、年齢は同じなのだ。悩むことも苦しいことも同じように感じていたはずだ。それを見せずに虚勢を張っていたのだとすると、その頃の兄は、とても可愛いものだと思えてくる。
・・・・そんなに気張らなくていいんだよ、兄さん。俺ら、同い年なんだぜ? ・・・・
ロックオンは弟だから、と、ニールは、ある意味、虚勢を張っている部分が、まだあるのだろう。まあ、追々に、その部分は引っぺがすことにするか、と、駐車場からクルマで出た。
当座の服一式を運んできたら、兄は、まだ昼寝中だった。脇部屋に顔を出したら、二人ともクースカと寝ている。運んで来た衣類だけ置くと、もうやることがない。それなら、適当にロードワークでもするか、と、ジャージに着替えて寺から飛び出した。マイスターになって、ロードワークの大切さは身に染みた。カタロンに居た時は、ほぼ地上だったから重力の影響なんてものを考慮しなかったからだ。宇宙にいると無重力に身体が慣れて筋力が落ちる。いままで活動できていたものができなくなって愕然とした。そこいらは、ティエリアがコンコンと説明して、地上に戻った場合、宇宙に滞在している場合の筋力トレーニングの方法を伝授された。身体が資本のマイスターだから、そこいらは、ロックオンも、きちんとメニューはこなしている。
夕方に、キラたちが顔を出して、おやつを食べて出勤した。その後に、ハイネが戻って来た。本宅から、ロックオンのためにクルマもスタッフに運ばせて、本日業務は終了だ。データ取りをやっていたので、久しぶりに長時間、MSを動かしていたから疲れた。
「俺、風呂入ったら寝るわ、ママニャン。」
「お疲れさん。明日の予定は? 」
「もちろん、午後から出勤。弁当欲しい。夜用のヤツ。」
「また、泊まりか? 忙しいんだな。」
「夜勤だ。シフトの加減ってだけで忙しくはない。・・・なんだよ、俺がいないと寂しいのか? 」
「うーん、寂しいってわけじゃないけど。」
「そこに、いい遊び相手がいるだろ? 散歩に付き合ってもらえ。」
遊び相手というのは、ロックオンのことだ。携帯端末で組織から送られて来たデータの確認をしていたロックオンは、「おー付き合うぜー。」 と、返事している。
「おまえさんが寝るなら、ちょっと散歩でもしてこようかな。今日は、昼の分ができなかったんだ。」
「なんだ、鷹さんに押し倒されたのか? 」
「ないない。昼寝してただけだ。・・・今夜、鷹さんが夜勤だったのか。なるほど、それで昼寝してたんだな。」
「夜勤ってほどでもないけどな。たぶん、あの人は仮眠室で盛大にイビキかいてるぜ? そろそろ年だから徹夜は無理だってさ。その程度の夜勤だよ、ママニャン。」
表立って活動していない『吉祥富貴』も、今の所は連邦創生を大人しく見守っている状態だ。何かしらおかしな動きがあったら、そこにはチェックをいれているが、さすがに、三大大国の動きが鈍いので、それほどのことは発生していない。このまま恒久的平和を望む形の連邦なら、キラたちがちょっかいをかけなくても推移していくだろう。
「なあ、ハイネ。リジェネからの連絡はないのか? 」
「ないなあ。あいつの身体のメンテナンスって時間がかかるんじゃないか? かまぼこ焼いてくれ。それで辛子醤油で一杯。または、干物があれば、大根オロシ? みたいな? 」
ハイネが、酒のアテをリクエストすると、ニールは作ってくれる。小難しいものは無理だが、常時ストックされているものなら、すぐに出て来る。干物のほうがいいんだな、と、確認されて、よく焼いてカリカリにしてくれ、と、さらにリクエストする。そうすると、ニールは、しばらく台所だ。それを確認してから、ロックオンに、「取説は聞いたか? 」 と、尋ねた。鷹のことだから、どちらの用件もクリアーはしてくれているだろう。
「聞いた。」
「外出すんなら、連絡してくれ。誰か顔を出させる。」
「いや、こっちじゃ個人的な用事はないから、兄さんに付き合うさ。・・・てか、本来は俺が世話しなくちゃだろ? 」
「ママニャンは、『吉祥富貴』の人間だ。世話は俺らの担当だ。おまえさんは組織の人間だろ? 」
「そうだけど、俺の実兄だぜ? それも、いろいろとおかしなとこがある困った人間だ。手間かけてんだろ? 」
「手間ねぇー。それはそれで俺は楽しんでるけど? みんな、ママニャンに構われたくて顔を出してるが正解かな。唯一の日常担当だ。重宝させてもらってる。だいたい、俺なんか家事一切が面倒で、ここに居候してるようなもんだ。」
「そりゃそうだろうけどさ。そういや、鷹さんが、あんたが兄さんを誘ったらエッチできるって言ってたぜ? 」
「ああ、できるだろうな。何度か、イエスって答えてた。」
「はあ? 」
「残念ながら、俺はママニャンに欲情できないんで、そのまま寝かせちまってるけど。三蔵さんなんか、ママニャンから誘ってるけど、三蔵さんが拒否だ。はははは・・・ノンケばっかだと、そうなるよな。なに? ママニャンに俺らとエッチさせたいのか? 」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・・うちの兄さん、もしかしてビッチ? 」
居間に転がっていたハリセンで、ハイネがロックオンの頭を軽く叩く。ねぇーわーというツッコミ付きだ。
「それはおまえのほうだろ? セフレと手を切ってないくせに。」
「クラウスだけだって。他とは一切やってません。あれは、刹那が・・・」
作品名:こらぼでほすと 二人4 作家名:篠義