白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
そう、寂しそうに。諦めたように笑う幼なじみに──苛つきを覚えた。
──……何が『私なんか』だよ……
いつも元気で、ニコニコ笑顔を振りまいて、周りも元気にさせてみせる、最高に明るくて可愛い女の子。
──コイツより素敵な女子なんて、滅多にいる筈がない。
……そんな風に考えて、
──……って、何恥ずかしいコト考えてんだよオレは〜〜〜!!!
シスコンだと自覚した途端にこれなのか──!?
そんな恥ずかしさに、頭を動かして。まくらから顔を隠すように、今度は額をベッドの縁に乗せた。
「『私なんか』なんて言うなよ。
……これは茂武市から聞いたんだけど。お前、男には人気なんだってよ。
明るくて、周りまで元気にさせてくれる、笑顔が最高にカワイイ女のコで。滅多にいない美少女なんだそうだぞ?」
ついさっき自分が考えていた言葉を、茂武市のセリフだと誤魔化して、まくらに告げた。
……まくらの顔を見ながらで言える筈もなく、相変わらず顔を伏せたままだったけれど。
「……他の人にどう思われたって、肝心のその人にそう思われてなきゃ意味ないじゃん……」
それでも、まくらから返ってきたのは、寂しそうな声で。それに、思わずベッドから顔を上げた。
「あ〜も〜!! まくらのくせに何いじけてんだよ!!
10年以上一緒にいたオレから見てもそう思えるんだから、自信もてよ!!」
茂武市のセリフだと誤魔化そうとしていたのに、結局そんな風にぶちまける事になった。
そして、まさか計佑からそんな言葉が飛んでくるとは、夢にも思っていなかっただろう幼なじみが、
「……へ……? ……えぇえっ!! うっウソ……!!!??」
首まで赤くなっていく。
自分も負けず劣らず真っ赤になっている気がしたが、もう目は逸らさずに、じっとまくらを見つめ続けた。
──やがて、まくらのほうが目を逸らして。
「……ほ、……本当に、……計佑も、そう、思ってるの……?」
もじもじしながら、そう尋ねてくる。それに、ハッキリと答えた。
「ああ。お前は自慢の妹だよ。だからこそ、ダメな男なんて認められないって、さっきはキレちゃったんだよ」
……そう答えた途端。高揚していたまくらの表情から一気に熱が消えていった。
「……なんだ。結局それか……」
「え……?」
計佑の反応に、もはやまくらはまるで意識を向けなかった。そっぽを向いて、
「……そりゃそうだよね。わかりきってたコトなのに。……なんで私、いつまでも……」
そんな事を呟く。そして、はっと鼻で笑った。
といっても、それは計佑を嘲笑しているのではなく、自嘲してるようにしか見えなかった。
「……おい、一体何の話をしてるんだ?」
さっぱり分からないまくらの言動に首を傾げていてると、漸くまくらが視線を戻してきた。
けれど、そのまくらの目は──もう完全に冷えきっていた。
「……自慢の妹、ね……そんなコト言うけど、あんた最近、アリスちゃんやホタルちゃんばっかりじゃない……」
「……え……な、なに……?」
いきなりの豹変についていけず、戸惑う事しか出来なかった。
……そしてまくらが、ぐっと瞳に涙を盛り上げた。
「 "妹" としてすら、ほったらかすようになったクセに!!」
そう叫んで、まくらが部屋から飛び出していく。
「はぁっ!? おっおい、なんだよそれ……!!」
思わず腰を上げたが、……結局追わなかった。
──ほったらかし……? 何の話だよ。オレはいつも通りにしてただろ……?
そんな風にしか思えなかったし、
完全にヒステリーを起こしたまくらは、時間を置かないと話なんて聞いてくれないのが常だったから。
気にはなるが、少なくとも一晩は置かないと、まくらの場合もっと意固地になってしまう。
「くそっ……珍しく褒めたんだぞ? 何で、それでキレるんだよ……」
まるで訳が分からず、結局そんな悪態をつく事しか出来なかった。
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──まくらが、『昼間の続きだよ』と計佑の部屋を訪れる少し前。
「あ〜〜〜……すっきりした!」
まくらとの通話を終えた雪姫が、そう独り言を口にして。椅子に座ったまま大きく伸びをした。
まくらからの電話がかかってくるまでは、ずっともやもやした気持ちを抱えていたのだけれど。
まくらに話を聞いてもらった(……この少女には『惚気た』などという自覚は全くなかった……)
お陰で、随分とスッキリ出来たのだった。
ちなみに、そのもやもやの理由は──昼間の "大失敗" イタズラのせいだった。
計佑をいぢめてやろうと、助けの求めにあんな答えをしてみせたのだけれど。
楽しい気分でいられたのは、本当に最初だけだった。
確かに、口をパクパクさせながら、こちらを見つめてくる計佑の顔は愉快だった。
──けれど、やがて計佑が女子たちに群がられて、
悲鳴を上げ始めてからは……もう楽しい気持ちなんて、微塵も感じられなかった。
もはや焦りしかない雪姫が、「ぁっ、ぁっ……」と小さい声を上げ続けても、
そんなものは計佑の悲鳴、そして少女たちの怒声や楽しそうな声でかき消されてしまって。
やがて計佑がシャツを剥かれて、素肌までいじくり回されてるのに気付いた時、ようやく大声が出せて。
慌てて割り込んで、それでどうにか止める事が出来たのだけれど。
結局、その後の雰囲気では『アリスを可愛がった分、私も──』なんて言い出す事も出来ずに、すごすごと帰る事しか出来なかった。
──それで結局、ついさっきまで悶々としていたところに、まくらからの電話がかかってきた……という訳だった。
──さて……まくらちゃんが話を聞いてくれたおかげで、随分スッキリ出来たんだけど。
でも、話してたら……やっぱり、気になってきちゃったなぁ……
携帯を手にとって。多分、今はまだお風呂にいるだろう相手──アリスにメールを打った。
──あのコには……やっぱりちょっと、"お説教" が必要だもんね……
そう、自分に "言い訳" して。
送信するとすぐに、とっくにお風呂を済ませていたらしいアリスがやってきた。
「おねえちゃーん、話ってなーにー?」
ノックもせずに飛び込んできて、いつものように雪姫の胸へとタックルを仕掛けてくる。
──けれど、今日の雪姫はそれを優しく受け止める事はなく、アリスの肩を押さえて留めた。
「……おねえちゃん?」
不思議そうに見上げてくるアリスに、ちょっと厳しい顔を作って話しかける。
「……アリス。今日は、ちょっとお説教があります」
「え……? お説教……あっ! またノック忘れちゃったから?」
「違います。今日はそんな事どうでもいいの」
雪姫の言葉に、『へっ?』という顔をするアリス。
いつもは、躾に関しては結構口うるさい自分が『そんな事』などと口にしたのが不思議なのだろう。
……少し失敗してしまったけれど、今の自分にとっては本当に『そんな事』なのだから仕方がない。
「……ちょっとそこに座りなさい」
アリスをクッションの上に正座させて、自分も向かいに正座した。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON