白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「……アリス。貴方は、もう14歳よね?」
「うん。それが?」
きょとんとした顔のアリス。
「……14歳にもなって、ああいうのはどうかな……と、お姉ちゃんは思うわけです」
「……ああいうの?」
「……つまり。もう、色々と気を遣わなければいけない歳でしょう?
今日の昼みたいな……ああいう、男の人に無邪気に絡みつくのは慎みがないとは思わない?」
そう説くと、アリスは口をぽかんと開いて「……はぁ……」と気のない返事をしてきた。
「なんですか、その気のない返事は。いい? 男の子というものはね──」
──アリスへのお説教……それは、男への接し方についてだった。
どんなに幼く見えても、アリスは中学二年の14歳なのだ。
昼間のような、はしたない真似は許されない。
そう、これはアリス自身の為にも、やめさせなければいけない事で。
「──いい? 男の子というものはね──」
「お姉ちゃんでもヤキモチなんか妬くんだねぇ」
「いつだって──んなっ!? ア、アリスっ!!??」
男の子について語ろうとした瞬間、割り込んできたアリスのセリフに、雪姫が泡を食った。
……あっさり真意を見抜かれてしまっては無理もなかった。
『そうよっ、これはアリスのためのお説教なんだから』
そんな風に、きっちり "自己弁護" した上で始めた "お説教"。
──確かに昨夜、計佑の方から構う分には仕方がないと "一応" 納得した。
けれど、アリスの方からベタベタくっついていくのは、またちょっと話が違う。
そう考えての、"お説教" ──という名目の焼きもちだったのだが。
──う、ウソっ!? なっなんでこんなにあっさりバレちゃうのぉ!?
「ちっ違います! こっこれはっ、そのっ、あのっ……!」
まさかアリスに、こんなにあっさり見抜かれるとは夢にも思わなかった。
……いや、自分が甘すぎたのか。
考えてみれば、一昨日だって自分の思惑──アリスに張り合おうと、計佑に髪を見せつけた──をきっちり見抜いてきた。
やはり、どんなに無邪気に見えても、アリスも立派な女のコだったのだ。
そんな、今さら気付いても遅い事実に後悔して。
雪姫が余裕をなくしていると、アリスがうんうんと頷いてみせた。
「そっかぁ……お姉ちゃん、なんだか今日の帰りからミョーに元気ないと思ったら……そういう事だったんだぁ」
「だっ!! だから違うといってるでしょお!?」
──実際には全然違わないのだが、雪姫が必死にバタついて否定していると、アリスがニマ〜っと笑ってみせた。
(その表情は、雪姫が計佑に見せるそれと良く似ていたりしたが、
そんな事は雪姫には分からない事だし、わかったとしても今の雪姫にはどうでもいい事だった)
「ふーん……ふぅう〜ん……お姉ちゃんが、まさか焼きもちなんかをねぇ……」
「アっ、アリス!! いい加減にしなさい!?」
ついに雪姫が手を振りあげるが、実際には振り下ろされる事などないと分かっているアリスが、
「キャー」とわざとらしい悲鳴を上げてみせてから、ニマニマ笑いを引っ込めた。
「あははっ、おねえちゃんカワイ〜! そんな恥ずかしそうに赤い顔して凄まれたって、全然コワくなんかないよ〜?」
ニマニマ笑いこそやめたが、本当に愉快そうにアリスが笑い始めて。
……もはや雪姫には、俯いて黙りこむ事しか出来なかった。
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やがて、笑いをおさめたアリスは、足を崩すと、そのまま雪姫の太ももへと倒れこんできて。
仰向けになると太ももを枕にして、雪姫の顔を見上げる体勢になった。
「おねえちゃーん。そんな警戒なんかしなくても、アイツは私の事なんかコドモとしか思ってないんだよ?」
「そ、そうかもしれないけど……でもやっぱり面白くないんだもん……」
ニコニコと笑みを浮かべながら窘めるアリスと、それに唇を尖らせる雪姫。
……もはや、どっちが年上かわからない。
「……アイツが私をコドモと思ってても、私の方はどうなのか心配……とか?」
「……っ!」
ズバリ核心をついてくるアリスに、息を呑んだ。
まくらの時にも、同じように抱いた不安。あの時と同じ事を、けれどまさかアリスから切り出されるなんて。
──……やっぱり、子供みたいに振舞ってても、ちゃんと "女のコ" なんだ……!
アリスに対する認識を、今一度はっきり改めた雪姫が顔を強張らせていると、
あの時のまくら同様、アリスがクスリと笑ってみせて。
「……まあ、おねえちゃんがいらないって言い出した時には、私がもらってやってもいいかな?」
「なっ!? いっ言いませんそんなコト!!」
アリスの両頬を挟んで、覗きこむようにして声を上げる雪姫。それにアリスが、またコロコロと笑った。
「あはははっ、も〜本当に心配しないでよ、おねえちゃん。
けーすけのことは……『おにいちゃん』って呼ぶことになってもギリオッケーかな、ぐらいにしか思ってないからさぁ」
「おにいちゃんって……え!? こっこらっ! いつまでお姉ちゃんをからかうつもりっ!」
ニマニマと笑いながら、これまたあの時のまくらと同じようにからかってくるアリスに、雪姫がもう一度手を振り上げてみせて。
すると、アリスの方も再度「キャー」とわざとらしい悲鳴をあげて、
ぐるっと身体をひっくり返して顔を太ももの間に埋めてきた。
それに対して雪姫は、勿論上げた手を振り下ろしたりなんてしない。
ただ、軽く溜息をついて、そっとアリスの後頭部を撫でた。
「……おねえちゃんにだって、子供っぽいところはあるんだよね……」
またからかってくる言葉のようだったが、実際は独り言のような声だった。
「……私、前は、ずっとおねえちゃんみたいなオトナになりたいって、そんな風にばっかり思ってた。
でも今は、……けーすけに言われたコトで、なんか楽になった気がする……」
うつ伏せのまま、半ば独り言のように呟くアリス。一体計佑に何を言われたのか、気にはなったが──
──……そっか、アリスも計佑くんに救われたんだ……
そう気づいたら、尋ねる事は出来なかった。
それはきっと、アリスだけの宝物で。
他人である自分が聞きだそうなんて、そんな無粋な真似は出来ないから。
そして、アリスもまた、自分同様計佑に救われた人間なのだと解ったら──
もうアリスの行動を制限しよう、などとも思えなくなってきた。
……そう、思えなくはなってきた、のだが──
「……ねぇアリス。ホントに計佑くんのこと、男の人として好き、とかじゃあないのよね……?」
──やっぱり、そんな風に尋ねてしまう。
「……おねえちゃ〜ん……いくらなんでも心配しすぎだってば〜……」
また仰向けになってきたアリスが、とうとう呆れたように苦笑を浮かべていて。
──小学生もどきに呆れられてしまった高三少女は、恥ずかしそうに身体を縮こまらせるのだった。
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「……ていうかさぁ……
おねえちゃんは、私のコトじゃなくてけーすけの方のタラシっぷりを気にするべきじゃないかなぁ?」
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON



