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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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──……う……嘘だ……

 信じられない。
ずっとお子様だと思っていた妹分が、初恋なんてとっくで。
そして今だってどこかの男を想っている──なんて、そんな事は。
 けれど、先の言葉と、今のまくらの顔色の前には、結局は否定なんて不可能で。

 やがて、もう信じざるをえなくなった少年の心を占めた感情は──強い喪失感だった。

「……誰だよ、それ……」

 空虚な気持ちのまま、完全に腑抜けた声で尋ねた。
それにまくらが、思いっきり焦った顔をして、ズサっと後退りすらしてみせた。

「ええぇっ!!!? そっ、そんなの言える訳ないでしょっ!!!?」

 そう言って、耳まで赤くする幼なじみ。その姿に、今度少年が抱いた感情は──怒りだった。

 耳まで真っ赤で、計佑の視線から必死に顔を逸らそうとして、恥ずかしそうに身を縮こまらせている姿。
今、まくらはその男の事を考えていて、
それでそんな様になっているのだと思ったら、
熱い──雪姫の時のような真っ赤に燃え盛る炎ではなく、
ガスバーナーのような、青く、静かだがより高熱な──怒りが湧いてきたのだった。

「……言えよ。誰だよ」

 さっきと同じ質問だったが、今度の声は、さっきとはまるで違って、固く、怒りに彩られていた。

「だっだから言えないって……!!  ……っ!?」

 必死に計佑の視線から顔を逃がそうとしていたまくらだったが、
再度の質問に答えた時に一瞬視線を合わせて──息を飲んで、怯えた。
 無理もなかった。今の計佑は、滅多に見せない本気の怒りの表情を浮かべていたのだから。

「なんで言えないんだよ。オレのほうの事情は全部知ってるクセに、卑怯だろそれ。
それとも何だ? 言えないような、ろくでもないヤツなのか」

 躙り寄る計佑に、まくらが下がろうとして──すぐにベッドにぶつかった。
計佑が右手を伸ばして、まくらの左肩を掴む。

「……認めねーぞ。そんなろくでもないヤツだって言うなら、絶対に認めねーからな」
 
 そう告げて、少年が右手に力を込めた。

「いっ痛……!! 離して、痛いよ……!!」

 怯えたまくらが悲鳴を上げて。それでも、少年は手を離さなかった。
ただ、少しだけ力を緩めたのが、今の計佑に出来る最大の譲歩だった。

「おい、どうなんだよ……!!」

 声を荒げながら、まくらの顔を至近距離から覗きこむ。
そんな計佑の剣幕に、ついに屈服したまくらが叫んだ。

「そ、そんなんじゃないってば!! 好きだったけど、もう失恋してるの!!
まだちょっと気持ちが残ってるから『今』とか言っちゃっただけっ!!!」
「……なに……?」

 まくらの答えに、右手から力が抜けて。
その隙に、まくらが慌ててベッドに這い上がって、壁際まで逃げた。

「……もう、失恋してる……」

 呟く計佑を、まくらが壁際から不安そうに見つめてきていた。

──……なんだ。もう付き合いそうとか、そういう訳じゃあないんだ……

 まくらが今すぐ誰かと付き合う訳じゃない。誰かのものになってしまう訳でもない。
そう思ったら、心中で噴き上がっていた炎が、一気に消えていった。
 ほぅ……っと、心底安心した溜息が出て。
そうして平常心に戻った少年だったが、そうすると、次はまくらへの申し訳ない気持ちが沸き上がってきた。

──って、な、何なんだよ俺……!? 人の失恋を『よかった』なんて思うとか……!!

「あっ……!? ごめんっ、まくら!! 俺……!!」

 慌てて謝ったが、計佑が言葉を発し始めた瞬間、まくらはビクッと震えて。
すぐに、もう計佑が落ち着いているとわかったのか、安心したように溜息をついた。

「……ううん、いいよ気にしてない。
ちょっと怖かったけど、今日の私の暴行に比べたら、肩ギュッくらい全然大したことないもんねっ」

 計佑の謝罪を勘違いしたまくらの言葉だったが、それを訂正して、説明する事は出来なかった。
今の自分の感情の流れが、自分自身でもさっぱり理解出来ていなかったから。
 まくらに恋人が出来たりしたら、きっと腹は立つだろう──昼にまくらに語った通り、それは予想していたつもりだった。
 けれど、想像ではなく現実になりそうだと思い知らされた瞬間の、
熱すぎる感情──予想とはまるで違う、あの激しさは一体なんだったのか。
 そして、それが杞憂だったと分かった瞬間の、安堵感。
──展望台でまくらが突然消えて、ホタルから無事を告げられた時に感じたそれに劣らないくらいの──安心感だった。

──嘘だろっ……まさか……俺って……オレって……!!!

 それらの事実から、少年は、認めがたい真実を……もう、認めるしかなかった。






















































──……オレって、こんなにシスコンだったのかよ……!!!



……少年が、その結論に頭を抱えた。

──マジかよ〜〜……まさかオレが、そんなイタイ兄貴だったなんて……!!

 そんなみっともない自覚に悶絶していると、まくらがそっと声をかけてきた。

「ね、ねえ……ホントに気にしないでってば。私なんて、今日は4発も殴っちゃったじゃん?
……まあ、あんたが先輩にした事を思えば当然の分だとは思うけど……
それでも、ちょっとやり過ぎ感はあったし……だから肩を掴むくらいの事なんてさぁ?」
「……いや、オレが今凹んでるのはその事だけじゃなくて……」

 まくらがもう一度フォローし直してくれるが、自分が苦悩しているのは全然違う事なのだ。とはいえ、
「実はオレ、すごいシスコンだったんだな」
……なんてセリフを、よりにもよって、当人であるまくらになんて言える筈もなくて。

「……ちょっと、詳しくは言えないけど。ホント、ごめん……」

 そんな風に、もう一度頭を下げた。

「……はぁ。しかしお前がまさかなぁ……夢にも思わなかった……」

 呟いて。ぐっと身体を前に倒し、あごをベッドに乗せた。まくらを見上げて、尋ねる。

「なぁ……失恋したって言うけど……詳しく聞いてもいいか?」
「ええええぇ!? いっいやっ、それはちょっとパスしたいんだけどぉ……!!」

 まくらが慌てるが、じっと見上げる。見上げ続ける。
──やがて、ついに根負けしたのかまくらが口を開いた。

「……はー。
……何でよりによって計佑に……えっと、一言で言うと。
私の好きな人には他に好きな人がいる。それだけの事」
「……そいつには、もう恋人がいるってことか?」
「ううん、恋人……ではまだないんだけど。見てれば分かるんだよね、どれだけその人のこと好きかなんて、さ……」

 そう答えて、まくらがフッと苦笑してみせた。

「なんで決め付けるんだよ……外から見てるだけで、人の心なんて完全に見透かせるワケないだろ?」

 鈍感で、恋心なんてさっぱりな少年が、それ故にそんな言葉を口にしたが、

「……まあ、計佑にはわかんないだろうね……色んな意味で、さ……」

 まくらが、複雑そうな顔つきでこちらを見つめて。

「その女の人、すごく素敵なんだよ。……私なんか、どう逆立ちしたって勝ち目ないんだ」