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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「あっそうだよね!? なんかごめんね、ちょっと踏み込みすぎて──」
「──自己嫌悪って、一体何を考えていたの」

──けれど、その謝罪の言葉は、割り込んできた硝子に遮られた。

「何って……だから、それは……っ!?」

 計佑が、少し先で佇んでいた硝子へと顔を向けながら答えて。途中で息を呑んだ。
 雪姫もまた硝子へと視線を移して、計佑の反応の理由がわかった。
硝子の目はグッと釣り上がっていて、部活の時などに見せる半分おふざけのモノではない、
その本気で怒っている様子に、雪姫もまた息を呑んだ。
 二人が黙っている間に、また硝子が口を開く。

「まさか、『まくらがあんなにスゴイなんて知らなかった。
兄貴面して、上から目線で偉そうにしてた自分がカッコ悪すぎて恥ずかしい』
みたいな事を考えていたんじゃないでしょうね」
「……っ!!」

 硝子の言葉に、計佑が驚いた顔をして。それで雪姫にも、硝子の指摘が図星だと分かった。

「……はは。相変わらずスゴイね須々野さんは……
オレみたいなバカの考えるコトくらい、簡単にわかっちゃうんだね」

 自嘲するかのように計佑が苦笑して。けれど硝子は容赦しなかった。

「……ホントにそんな理由なんだ……その癖、そんな風にヘラヘラ笑ってみせたりして。
確かに、随分とみっともない話よね」

 その言い草に、流石に計佑がムッとした顔つきになった。

──しょ、硝子ちゃんどうしちゃったの……!?

 確かに計佑の思考は、褒められた物ではなかったかもしれない。
けれど、悩み、落ち込んでいる人間にこんな言い方をするなんて。
 それじゃあ相手は意固地になるか、腹を立てるかしてしまう。
そんな事に、硝子が気付いていない筈はないのに。

 試合終了直後の、一瞬の計佑たちのやり取りに気付いていない雪姫には、硝子の怒りがまるで理解できなかった。

「妹の活躍を僻むような器の小ささで、よく今まで兄貴気取りでいられたわよね」

 そして、雪姫が狼狽えている間にも、まだ硝子の攻撃は続いていた。

「そもそも、兄妹兄妹言うけれど、血もつながってない他人でしょう。
なのにいつもそう言いはって……本当は、そう思ってるのは目覚くんだけかもしれないのに──」
「──いい加減にしろよ」

 その言葉をぶつけられた硝子ではなく、雪姫の方がビクリと竦んでしまった。
今の計佑の声は、雪姫が聞いたこともないような、押し殺した低い声で……

「須々野さんからしたら、オレの考えるコトなんて単純でバカらしく思えるのかもしれないけどな……
だからって、好き勝手にオレ達の心の中まで踏み荒らしていいってコトにはならないだろッ!!」

 今や、はっきりと憤怒の表情を浮かべた少年の怒声に、思わず後ずさってしまう。
完全に気圧されてしまって、口を挟むどころか、ただ震えることしか出来なかった。

……けれど、硝子のほうは、まるで怯まなかった。硝子だって、自分と同じで、傷つきやすいコの筈なのに。

──……やっぱり硝子ちゃん、こんな風になるって分かってたのに、あんな言い方を……?

 あらかじめ覚悟がなかったら、硝子だってこんな計佑には耐えられなかった筈──
思考の片隅で、そんな事に思い至ったが、それじゃあ何故、硝子が分かっていてあんな態度をとっていたのか……?
そこまでは、震える思考では思い至れなかった。そして、置いてきぼりの雪姫を他所に、

「……くだらないプライドばかり大事にして、
自分の事しか考えてないような人の心中になんて、配慮する必要ないでしょう」

 硝子が嘲るような顔つきで、また計佑を煽るような言葉をぶつけた。
そのあまりの辛辣さに、いよいよ雪姫の心までギュウっと絞り上げられた。
そして、そんな言葉をぶつけられた計佑の方は──スッと目を細めると。

「……もういい」

 言い捨てたその表情は、落ち着いた──というより、無表情なものだった。
怒りが収まったというより、もはや硝子に関心をなくしたかのように。
 そして、足早に歩き出した──雪姫のことも顧みずに。
 けれど、そんな少年に、臆病な雪姫が声をかける事など出来るはずもなくて、ただオロオロと見送っていたら、

「話は終わってないでしょう、何逃げてるの」

 すれ違った少年の背中に、向き直った硝子が声をかけた。
けれど、計佑は全く歩みを止めることなく、振り返りもせずにどんどんと先を行こうとする。が──

「──まくらをあれだけ傷つけておいて、逆切れなんか出来る立場だと思ってるのっ!!!」

 そんな硝子の怒声で、雪姫がビクリと震え、計佑も流石に歩みを止めた。
 初めて聞く硝子の怒鳴り声にすっかり萎縮してしまっている雪姫の前で、硝子の背中が震えていた。
計佑がゆっくりと振り返ってくる。

「……傷つけたってなん、だよ……」

 怪訝そうな顔で振り返ってきた計佑の声が、途中で一瞬途切れて。戸惑った顔つきになった。
雪姫の位置からは硝子の後ろ姿しか見えなかったから、計佑が硝子の顔に何を見たのかは分からなかった。

「……まくらが、今日の試合の事どれだけ楽しみにしてたか……わかってるの?」
「それは……一応わかってるけど」

 硝子の言葉に、相変わらず戸惑った顔のまま計佑が答えた。

「最後にまくらが振り返ってきた時。目覚くんはまくらを完全に無視したでしょう」
「別に、無視したワケじゃ……」
「……まくらは、今日は特に絶好調だったと思う。でもそれは、目覚くんが観に来てくれていたから。
……何年かぶりに応援に来たんでしょう!? それであんなに頑張って!!
なのに、褒めてくれると思っていた相手にあんな風にそっぽを向かれて、傷つかない訳がないでしょう!!?」
「……あっ……!!」

 計佑が、ハッとした表情を浮かべて、

「……ごめんっ……須々野さん、オレ……!!」

 俯きながらも、謝罪の言葉を口にした。

「私に謝っても仕方ないじゃない!! 」

 硝子が両手の拳を握りこみながら叫ぶ。

「上から目線がどうのなんて!! あんなに頑張ったまくらに、
変なプライド気にして無視で答えるなんていうほうが、よっぽどカッコ悪いことじゃあないのっ!!??」
「…………」

 喚く硝子に、計佑が完全に項垂れてしまった。

「何黙りこんでるのよ!!
自分が正しいって思うんなら、さっきみたいにキレてみせて、何か言い訳してみなさいよっ!!!」

 けれど、硝子の怒りはまるで治まらないようだった。
 そして、雪姫も、もう黙っていられなかった。硝子の怒気に圧倒されていたけれど、
もう打ちのめされている計佑が、更にいたぶられるのを見過ごすなんて、雪姫には出来る筈もなくて。

「し、硝子ちゃんっ、ちょっと落ち着いて。計佑くんも、もうわかってるみたいだし──」

 慌てて、硝子を追い抜いて二人の間に割って入ったのだけれど、

「──っ!! ……貴女が!!! まくらの話に入って来ないでッッ!!!!」

 それまでより更に高い、金切り声で跳ね除けられて。
涙を零しながらも、つり上がった目で睨みつけてくる硝子の姿に、雪姫は身も心も完全に凍りつくのだった。