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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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まだわかっていないのか、雪姫は座り込んだまま、こちらを見上げてくるだけだ。

──グズグズしてられないのに……!!

誤魔化せそうといっても未だ薄氷の上だ。──この真夏の気温では、あっさり溶けそうな。
「ほらじーちゃんの忘れ物!! 早く持って!!!」
言いながら、自分も先ほど落としてしまった写真を探す。
幸いすぐに見つかった。拾い上げる。
せっかく見つけた手がかりだ──これを忘れる訳にはいかない。
雪姫を見ると、まだ彼女は座り込んだままだった。

──ええい!!

思い切って雪姫の手をひっつかむ。引っ張りあげて立ち上がらせて。
「あっこれ!! じいちゃんから預かった部屋の鍵です!」
医師にカギを手渡すと──雪姫の手を引いて走りだした。
<b>「どーもッッ 失礼しましたーーーッッッ!!!」 </b>
「なによー、弟さんかぁー」
つまらなそうな声と、
「あれ? 男のお孫さんなんていたっけ……?」
そんな声に見送られながら、やはり駆け出して正解だったと、計佑は胸を撫で下ろしていた。

─────────────────────────────────

しばらく駆けた二人は、近くの公園へと来ていた。
炎天下での一気なダッシュで、二人とも息を荒くしてぐっしょりと汗に濡れている。
「あっ!?」
自分が未だ雪姫の手を握っていることに気づき、計佑は慌てて手を離した。
「すみませんっ!!!」
雪姫は何も言わなかった。
汗で、その肌に貼りついた服が透けていて──計佑はプイっと視線を逸らした。

────なんか……ますますドキドキしてきた……

──このドキドキはダッシュのせいだけなんだろうか……?
そんな疑念がふと浮かんだけれど、深くは考えずに、
「……日陰……行きます?」
雪姫を誘い、二人でベンチに腰掛けた。
ようやく息が落ち着いてきたが、雪姫は相変わらず口を開かない。
それどころか、半ば計佑から顔を背けてすらいた。

──お……怒ってる?? ……そりゃそうだよな。芸能人なんだ。変なウワサなんてついちゃったら……ホントに悪いことしたな……

持ちだしてきた写真をいじくり回しながら、思案に耽る。
とりあえずは逃げ出せた。
けれどあの医師のいう通りなら、自分が雪姫の兄妹じゃないとわかってしまうかもしれない。
いや、仮に実際に男孫がいたとしても──どこから齟齬が起きるかなんて。
やはりきちんと──
「さっ……さっきの誤解……俺、病院に戻ってちゃんと解いておきます」
「……別に」
ようやく雪姫が口をひらいた。──そっけなく一言だけ。
「いやっ……俺っ……実際。
よくわかってなかってってゆーか。その、何かフツーに接しちゃってたけど……結局、色々迷惑かけちゃって」
やはり怒ってるんだ──そう思うとまた焦ってしまって、しどろもどろで弁解を続ける。
「これで仕事のほうに影響が出たりしたら俺……何て謝ったらたらいいか……」
うつむいて続けた。
「先輩は有名人なのに」
──その言葉に目を見開く雪姫に、前を向いて俯いている少年は気づかない。
「ホント、今日はすいませんでした……」
立ち上がり、頭を下げて。
「……それじゃ」
そして病院に戻ろうとした時、

「まって」

きゅ……と、雪姫が計佑のシャツの裾をつかんできた。

─────────────────────────────────

走ってる間も、ベンチに座っている間も──雪姫はなかなか口を開けなかった。
胸がドキドキして一杯一杯だったからだ。

──なんだろうこれ……胸つかまれてた時より……なんだか苦しい……

ハプニングの接触にも、確かにドキドキさせられた。
一昨日の、ちょっとしたからかいの時にだって、ドキドキはしていた。
でも今、彼の方から、彼の意志で触れられた時──
これまでの動悸とは何か違う……なんだか『嬉しい』ドキドキを感じた。
そんな自分がよくわからなくて黙りこんでいたら、彼が弁解を始めてしまった。

──別に怒っているワケじゃないのに……

とは言え、こんな状況で黙りこんでいたら、そう思われるのは仕方のないことだろう。
それでも、感情を持て余している今はなんだか上手く話せる気がしなくて、黙って聞いていたら──

「先輩は有名人なのに」

──グサリときた。
そんな感じの言葉は、最近はよく言われる。
テレビに出る前から、自分を持ち上げるような言葉はよくかけられてきた。
聞き飽きて、寂しさを感じる事はあっても、もう痛みは感じなくなっていた筈なのに。
この少年から聞かされると、何だか耐えられなかった。
──去ろうとした少年の裾に、我慢出来ずに手を伸ばしていた。

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「……え?」
振り向くと、雪姫が自分の背中を見つめていた。
病室から連れ出す直前は暗い顔をしていたが、今はなんだか悲しそうにして──
そんな表情も、また初めて見るもので。
けれど計佑には、彼女が今、何故そんな顔をして自分を引き止めたのかわからない。
「先輩……どうしました?」
「……そんな風に言うの……やめて」
雪姫が漸く話し始めた。まだ小さい、弱々しい声音だったけれど。
「……皆そう言うけど……好きじゃないの。そういうの……」
雪姫が、ちょんとつまんでいた裾をギュッと握りなおしてきた。

──先輩……?

強くすがってくるかのような彼女を怪訝に思い、体ごと向き直った。
<i>「……そっ……それにっ!!」</i>
突然、雪姫の声が上ずった。
「どうせ謝るんだったら、もっと他に謝るべきことがあるでしょっ!!??」
え、と思う間もなく雪姫が畳み掛けてくる。

「胸さわったコト!! お尻を撫で回したコト!!!
押し倒して胸つかんだコト!!!! どんどんエスカレートしてるじゃない!!!!!」

──うっ……そっそれは……!!

計佑の胸にザクザクと刺さる雪姫の言葉。一瞬感じた、雪姫の儚さへの戸惑いは吹き飛んで。
「そ……そ、それは……」
赤い顔で、計佑が俯いて。
「スイマセンでした……」
震えながら謝罪する。
「でもホントにワザとじゃ──」
「これだけ重なって、信じられる訳ないでしょ」
最もな言葉で追い打ちをかけられてしまい、もう黙りこむしか出来なくなった。

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──良かった……なんとか調子が取り戻せてきたみたい。

去ろうとした少年に強い寂しさを覚えて、思わず引き止めてしまった。
つい本音まで零してしまっていたけれど、どうにか途中でいつもの調子を取り戻せた。
計佑のほうも、今はいつも通りオロオロしてくれている。

──うん……やっぱり今は、まだこんなやり取りのほうが落ち着くなぁ……

『今は』という意味──この先では違う関係を望んでいるという意味でもあったが、
少女はまだ、自分のそんな想いは自覚していなかった。

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「人をダンボール詰めにする。姉弟になりすました挙句炎天下をダッシュさせる──」