白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
続く雪姫の口撃に、計佑はもう地面を見続けるばかりだった。
「ホントさ。キミは私のコト何だと思ってるのカナ?」
雪姫が一歩近づいて、計佑の目を見下ろしてくる。
「そんな……変なつもりじゃなくてっ。オレなりにその……どうにか──」
顔を上げて、また弁解を始めようとした瞬間。
──ピトッ……
計佑の鼻に、雪姫の人差し指が触れた。
「でも……」
計佑の弁解を遮った雪姫が、
「嬉しいよ」
計佑の目を見上げながら、赤い顔で微笑んでみせた。
────え!!??
──ドクンッ……
今までの、からかってくる時のものじゃない、初めて見る雪姫の優しい微笑が計佑の胸を強く突いた。
「人を特別扱いしないトコロっ。それはさっ」
雪姫が一歩下がりながら続けた。
「キミのいいところだと思うよっ!!」
くるりと身を翻し、とっとっと離れて──
「──……なんて『お姉ちゃん』は思うよ?『弟』くん?」
振り返り、またいつものようにニマっと笑いかけてきた。
──……けっ、結局またからかわれてただけかよ……
内心、かなりガックリきた。
本当にこの先輩には、知り合ってからというもの、いいようにされっぱなしだ。
数々の痴漢行為を見逃してもらっている事を考えたら、
これくらいで許してもらえるのなら安いものかもしれないけれど──
雪姫の振る舞いは計佑には目まぐるし過ぎて、『やっぱりこの先輩苦手かも……』などと、改めて思うのだった。
「ところでさ……その写真」
「あ」
雪姫が指したのは、計佑が病室から持ちだしてきた写真だった。
ずっと手でもて遊んでいた存在だったが、正直忘れてしまっていた。
「おじいちゃんの部屋で見てたやつだよね? 持ってきちゃったんだ……」
「あっあの、すいません……」
ようやく見つけた手がかりだと、思わず持ちだして来てしまったのだが……これでは泥棒じゃないか。
「ホントにすいません……ちゃんと返してきますから」
「……んーと、返すのだったら私がやっといてあげるよ。だけど……なんでその写真を? 部屋でも、随分熱心に見てたよね」
「あーっと……それはですね……」
どこから説明したものやら。そもそも、本当の事を全部話す訳にもいかない。
「その人がどうかしたの? 随分昔の写真みたいだけど」
「あーいえ、この人っていうか……どちらかというと裏のメモの『眠り病』というのをですね」
「『眠り病』? ……もしかして、誰かお身内の方とかが?」
「うーん……と」
──どう話したものかな……意外と長くなりそうだし。 ……いや、まくらの霊のことを隠して話す分には全然短くすむか?
「結構複雑な話なのかな? 長い話になるとか……って、あ!!」
雪姫が突然何かに気づいた様子で、大声を出した。
「えっ? どうかしました?」
「友達と約束してたの。時間は……よかった、まだ間に合いそう」
雪姫が計佑の手から写真を受け取る。
「この写真のコトは、私がおじいちゃんに聞いておいてあげる」
雪姫は写真をしまうと。
……その後、計佑の顔を見つめてしばし黙りこんで。
「……だからさっ、ちょっと貸してっ」
「えっ、なっ……何ですか!!?」
計佑のポケットを漁り、ケータイを取り出すと、何やら操作を始める雪姫。
「ちょっ、勝手に何をっ!?」
女性の手から乱暴に奪い返す訳にもいかず、計佑は抗議の声をあげるしかない。
「はい返す!」
──?? ……なんなんだ?
ケータイはすぐに返してもらう事は出来たが、一体何をしたのかとケータイを確認しようとすると──
雪姫のバッグから着メロが流れ始めた。
雪姫に視線を戻すと、少女はケータイを取り出して計佑に画面を見せた。
「それっ、私の番号とメアド」
ニコっと微笑んでくる。
「……え?」
計佑がケータイを確認すると「メールを送信しました」の表示があった。
「せっかく教えたんだからおやすみメールくらいしてね!!」
少女が、べっと舌をだしてみせると。
そのまま身を翻して、後は振り返ることなく走り去っていく。
「……へ?」
そんな雪姫の笑顔にまたドキドキしてしまった計佑は、しばらくの間、ぽけーっと棒立ちを続けてしまうのだった。
──ヤベー……
病院からの、一連の雪姫とのやり取り。
くるくると変わる彼女の振る舞いを思い出して、計佑は顔を赤くし続けた。
──なんか俺……調子悪ィな……ダメだ。何か頭まわんねーや。何でこんなにドキドキしてんだろ……わかんねー……
『苦手な相手』の筈の、そんな女の子のことで頭が一杯だった。
──本当に『苦手な "だけの" 人』なら、
その人の事を考えてドキドキしたり、心が一杯になったりする筈はないのだけれど──
少年は己のそんな矛盾にも気付かず、しばらくその場に佇んでいた。
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──あー、ドキドキした……
初めてだった。
自分から、男の子に連絡先を教えるなんて。
内心ドキドキで、かなり勇気を振り絞っての行動だったのだけれど、ちゃんと一昨日みたいに、隠してふるまえただろうか。
もう恥ずかしくて、最後は振り返る事も出来ずに、ダッシュで逃げてしまったけれど。
一昨日から、本当にあのコとの関係は初めてづくしだ。今日は、一瞬だったけれど本音まで晒してしまった。
──でもホントに……それが『嬉しい』んだよね……
一昨日もそうだったけれど、彼と話した後は、何故か気分が浮かれる。
親友のカリナにだってさらけ出せなかった本音まで、彼になら明かせてしまった。
──私が自然体でいられる、ただ一人の男の子、かぁ……
雪姫もまた、この時には自覚はしていないのだった。今の自分の気持ちが何なのかを──
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<第4話のあとがき>
3話に引き続き4話は雪姫の計佑への気持ちがある程度固まる大事な話!
特にこの4話は!!
という訳で、3話以上に雪姫の心理描写とか頑張ってみたつもりです。
(26話書き上げてみてからの追加コメント・うん……やっぱり、原作先輩の心情を妄想するという意味では、
この回が一番よく書けたかもしれないです。
『"ラブコメとしては" 結構よく書けたかな』って回はこの先何度かあるんですけど、
原作の心情を読み取ってみようって観点ではこの回が一番かもです)
前半の雪姫センパイはセリフがほぼないので、色んな妄想を膨らませられました(^^)
計佑が雪姫のこと芸能人芸能人言ってるけど……
CMに一度出ただけの人って厳密には芸能人と言っていいのか微妙かなーと思ったんですが、
CMに出てる人・・・CMに出た人・・・と呼びつづけるのも、うーん? と思ったので「芸能人」でいってみました。
痴漢男で捕まるんじゃって自分の心配してたウチには何も出来なかった計佑が、
実は雪姫のほうがマズい状況なんだと気づいた瞬間にきっちり行動を起こす。
ここはやはり、原作名シーンの一つだと思うんですよね。
……うん、やっぱり計佑って基本的にすごいヤツだと思うんですよねえ。
……なのに、何故ああなった……(^^ゞ
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON