白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
先のアリスのセリフと合わせて考えれば、流石の鈍感王でも、理解出来てしまった。
「せ、先輩、まさか……またアリスに焼きもち妬いてるんですか!?」
そう計佑が口にした途端、雪姫はガバっと顔を上げると、計佑の脇腹をつねってきた。
「──もぉおお!! だからなんでそういう事を指摘してくるのっ!?
島での時といい……デリカシー無さすぎだよっ!!」
「いたっ、いたた! せっ先輩、爪はやめて……」
ヒートアップした雪姫が、
意識しての事ではないのだろうけれど途中から爪まで立ててきてしまい、悲鳴をあげてしまう。
そんな計佑に、指を離してはくれたが、わがまま少女は決して落ち着いた訳ではなかった。
「私が今言って欲しいのは、そういうコトじゃないのっ!!!
……今聞きたいのは、そうっ、さっき言ってくれたようなコトだよ!! 『先輩だけが、オレを──』」
「わあああああああ!? なっ何言い出すんですかっ、やめてくださいよ!?」
シャワー棟の前で口にした『恥ずかしい言葉』を復唱されかけて、慌てて遮った。
この少年は、非常事態だったからこそ『恥ずかしいセリフ』を口に出来たのだ。
あるいは天然状態でしかそんな言葉を口に出来る筈もない奥手少年が、きっぱり拒否してみせる。
「だめっ! もうムリです!! 今日は、さっきのでもう打ち止めです!!」
『これだけは譲れない!』と、断固たる意思をもって、
顔を熱くしながらもキッと厳しい表情を作ってみせると、
またも「う〜〜〜〜……っ!!」と雪姫が唸って。
やがて、雪姫は頬を赤く染め始めて、ぎゅうっときつく目を閉じると、深く俯いてみせた。
そして次の瞬間、さらに計佑との距離を詰めてきて。
計佑の二の腕を手に取ると──自分の胸へと力一杯抱き込んでみせた。
──……え……えええええ!!?
一瞬、雪姫が何を始めたのか理解できなかった。
けれど、そんな思考空白の時間はすぐに終わり、動揺時間を迎える事になる。
全力で押し付けてこられるそれは、やはり圧巻の柔らかさとボリューム感で。
それが心地いいのは否めないけれど、奥手少年としては気恥ずかしい思いのほうが遙かに上回る。
慌てて引き離そうとするも、雪姫は両腕でがっちりとこちらの二の腕を巻き込んでいて、
ちょっとやそっとでは引き離せそうにない。
「ちょっ、な! 何やってんですか先輩っ」
「だって! 結局、私がアリスに勝てるトコなんてこれしかないんだものっ!!」
声を上げても、それ以上の声量で返してくる雪姫。
計佑の肩に額を押し付けてきていて、隠れた表情は良く見えないけれど、
耳が赤く染まっているところを見れば、雪姫とて相当無理をしていることが分かる。
──〜〜〜!! ほんとに、何なんだよこの人は〜〜!!?
硝子の時のような、本気で泣かれそうになるのは論外だけれど。
こんな風に全力で焼きもちを妬かれるというのも、初心な自分には手に余る。
正直、『なんて面倒な人なんだ……!!』 そんな思いが浮かんだ。
──けれど。
泣き出しそうなほど不安がったり、子供相手に必死になったりと、
全身全霊で自分を想ってくれるこの人が──堪らなく可愛くて、嬉しくて……愛しくもあって。
そんな気持ちのほうが、ずっと強かった。
そんな本音を抱いている少年だったから、結局雪姫を振りほどくことも出来ずに。じわじわと顔が緩んでいく。
……しかし、この場所にいるのは、決して計佑達二人だけではなかった。
「な、なにやってんすか、一体……」
いつの間にか、どうやらトイレへと向かおうとしていたらしい茂武市がすぐ傍に立っていた。
「えっ、や!? きゃっ」
「なっいやっ、別にこれは!」
茂武市の声で我に返った雪姫が、慌てて計佑から離れて、くるりと背を向ける。
計佑もまた、雪姫とは反対方向に90度身体を回転させて横向きになると、茂武市を見上げて。
そして茂武市は、珍しく白い目で雪姫たちを見下ろし続けてくる。
「先輩、今は合宿中っすよ……先生いないのは、
一応信頼されてのコトなんすから、最低限の節度は持ちましょうヨ……」
よりにもよって茂武市に正論で叱られて、もう身を小さくする事しか出来ない雪姫。
「班分け……やり直したほうがいいんじゃねーか、色ボケ部長さんよー……」
冷たい茂武市の声に反比例して、どんどん体温が上昇してしまう計佑。
──今は背中を向け合う二人だったけれど、身をすくめて、恥ずかしさに全身を熱くするのは共通していて。
そんな気の合う、つがいな二人を、何も言わずに見下ろしてくれるのは──満点の星空だけなのだった。
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<23話のあとがき>
ホタルが吹き飛ばしたあの雑誌には、深い意味はないです。
決して某パジャマ漫画を打ち切った事に対する……とかではないです、ホントですよ?
打ち切られたすぐは、まあアレでしたけど……今ではちゃんと感謝してます。
なんだかんだいってもジャンプの存在あってこそ、雪姫先輩が生まれた訳ですもんね……
まあ厳しいあの雑誌だからこそ、短い時間しか楽しめなくもあった訳ですが(T_T)
今回は、原作だとまくらへの気持ちを自覚してしまうソフト観戦を、
まくらが計佑を諦めてしまう? 為の展開に利用するという、鬼畜な原作レイプぶりでした(-_-;)
ソフトの試合後、硝子が暴露した計佑の情けない一面を雪姫が気にしないのは……
……つい最近、自分もアリスに弄られるようになったせいで、何となくツラさが解るから……かなぁ。
15話でもちょっと書いたけど、今回また先輩の問題がちょっと出ちゃいました。
計佑が本気で凹んでると、この世界では計佑に依存している先輩だと何も出来ない、みたいなとこです。
いや、15話に比べたら全然頑張った筈なんだけど……結局なぁなぁにしかなってない……?
これがまくらだと、ニコニコ笑顔で引張あげる。硝子なら今回みたいに叱り飛ばす(?)
といった形が想像出来るんですけど、雪姫先輩だと……んん?
──そんな風な考え方していくと、計佑のパートナーとして先輩ちょっとアレになっちゃうかなぁ(T_T)
……って、一時期考えてたんですけど。
一応、先輩なりの慰め方? というとちょっと違うかもだけど、
とにかくまあ自分なりに一つ思いつけたので、それを次回に盛り込んでみる予定です。
この世界の硝子は、まくらと雪姫それぞれに強いコンプレックスがあるイメージです。
まくらに対しては正の、自分とはまるで正反対な人柄に対するあこがれ。
雪姫に対しては負の。臆病な性格を仮面でごまかしてるようなとこは自分と同じなのに
あっちは人気者で、美人で……みたいな妬みとか。近親憎悪ってやつですかね。
勢いだけで書いてみたけど、硝子が計佑を怒らせる必要はあったのか……
わかってて怒らせた体だけど……うーん。いつもみたいに笑っていなされたくなかったから……
ちゃんと本音を引き出したかった?
原作では、計佑がヘタレまくっていいトコなかったソフトの所だけど、
こちらでは一応硝子に言われっぱなしにはしたくなかったのです。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON