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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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──え……? なんでキレるんだよ、今のトコで。

 嫌がっていた子供扱いをやめると。
もう立派な、一人前の人間なんだよなと認め、褒めた筈の言葉なのに。
 訳が分からず、狼狽えるばかりで何も言えなくなってしまう。

 そんな少年を前にして、やがて少女はくっと俯いて。

「……妹扱いくらい、続けてよ……」

 呟いてきたけれど、計佑には後半しか聞き取れなかった。

「え? 何を続けろって……?」
「やってよ……前みたいに。ちゃんと、私の髪、かき回してみせてよ……」

 今度の言葉はちゃんと聞き取れた。そして、まくらが頭を突き出してもくる。けれど、

「……は……?」

 意味がわからなかった。話の脈絡も、まるでわからなかった。

「いや、いきなりそんなコト言われても……」

 別に難しい事ではない。
簡単で、以前だったら何も考えずにやれていた事だけれど、
明らかにヒステリーを起こしている所に、そんな事を仕掛けるなんて出来る筈もなくて。

 最近のまくらは随分と暴力性も上がってきていた。
言われたからといって本当にそんな事をしたら、それはそれで鉄拳が飛んでくるんじゃないか──
そんな疑念もあって動けずにいると、やがてまくらが怒らせていた肩をストンと落とした。

「……わかった……もういいよ……」

 力ない声で告げて、まくらが計佑の横を通り過ぎる。けれど、呼び止める事は出来なかった。
止めたとしても、何を言えばいいのか──全く見当がつかなかった。

─────────────────────────────────

 やがてまくらの姿が見えなくなって。
それでも計佑はその場に立ち尽くして、まくらのおかしな言動について頭を悩ませていた。

──本当に何なんだ……この間の事といい。

 つい先日も、珍しく褒めたというのに、まくらがいきなりキレてしまった事を思い出した。

──あいつの言うことがさっぱりわかんないなんて、以前はなかったんだけど……

 そんな風に考えていて、

──……いや、あるにはあった、か……

 まくらが霊になっている間──特に、旅先で──の事だ。
あの旅行中にも、まくらの言動に妙な時があった事を思い出した。
 あの時には、てっきり霊状態でいる事に参ってきているせいだとばかり考えていたけれど。

──何か他にも原因があったりした、とかなのか……?

 そんな風にひとしきり考えこんでいたのだけれど、

「……ダメだ。やっぱりいくら考えても、全然わかんね……」

 結局、『何もわからない』という結論にしかたどり着けなかった。
 いつまでも抜けだしている訳にもいかないと、考えるのを諦めて。
視聴覚室へと戻ることにして、玄関で履物を変えているとパタパタという小走りの足音が聞こえてきた。
 振り返ると、

「──目覚くん!」

 硝子が駆け寄ってくるところだった。

「あれ、須々野さん? どうしたの、なんか慌てて……?」
「どうしたのじゃないよっ、ねえ、ちゃんとまくらと話したのっ!?」

 何事かと首を傾げてみせると、硝子はぶつかりそうな勢いで詰め寄ってきた。

「えっ……う、うん、話はしたよ。ちゃんと、謝りもした、つもりなんだけど……」
「うそっ! だったら、まくらがあんなに落ち込んでるハズないでしょう!?
……表面上は普通だけど……でも、私にはわかる!」
「……そっか……やっぱり……」

 別れ際の様子からすれば、確かにまくらは消沈している筈だけれど、
周りに人がいる時には無理してでも明るく振舞っているのだろう。
その辺は流石だったけれど、やはり機微に敏い硝子には見抜かれると言う事か。
……それにしても、

「本当に、何なんだろうな……あいつが言ってた事、オレにはさっぱりだったんだよ……」

 頭をガリガリとかきながらぼやいてみせると、いくらかは落ち着いた様子の硝子が尋ねてきた。

「ねえ、どんな話をしたの?
昨日の目覚くんの気持ち、正直に話したんなら、まくらだったらきっと笑って許す筈なのに……」
「うん、オレもそれはそう思ったんだけど……」

 さっき自分が不審に感じた事と、全く同じ事を考えている硝子の、
相変わらずの鋭さに内心舌を巻きながら説明を始める。

「まくらが来る直前、アリスと話してたんだけど……
それをまくらのヤツは遠目に見てたっぽいんだよね。で、オレがアリスのウソを叱るっていうか……
ちょっと髪をグシャグシャにしたりしてたんだけど。それを見て何か怒ってたみたいで。
……子供に対してやり過ぎだって怒ったのかと思ったら、そうじゃないって余計キレてさ?」

 一旦言葉を切って、硝子の様子を伺う。

「……それで?」

 硝子は軽く俯いて、口元を右手で覆ったまま、計佑に視線を合わせないで何か考えこんでいる様子で、先を促してきた。

「それで……『私には、それをやらなくなったよね、どうして』って訊いてくるから、
『もうお前は一人前だし、オレが一方的に兄貴ヅラなんか出来ないだろ』
っていう風な事を言ったハズなんだけど……オレ、褒めたんだよ? 
なのに、すげーキレて……『私の頭を、今までみたいにやってみろ』
とか言い出すんだよ。そ──」
「『──そんなコト言われたって、訳わかんなくて、言うとおりになんか出来なかった──』でしょう?」

 先回りされ、驚いて言葉を飲み込んだ。
 軽く俯いていた筈の硝子が、いつの間にかこちらを見上げてきていて──
その視線に、責めるような光が含まれている気がしていたたまれなくなった。

「そ、そうだけど……いやっだって! それはそうだろ!?
本気で嫌ってはいなかったと思うけど、それでも基本的にはアイツがイヤがってた行為なんだよ?
それを、キレてる状態なのにやれって言われたって、そりゃあやれないよ。
……第一、オレは謝るつもりで話してたんだから、尚更そんなコト出来るわけないって」

 慌ててそんな風に弁解したけれど、硝子はまた俯いてしまっていて、計佑の言葉を聞いてはいない様子だった。

「……まくら……そんな風に考えてたのね……」

 悔しそうに眉を顰める硝子のその呟きに、また驚かされた。

「すっ、須々野さん……!? 今のオレの話だけで、もうまくらが考えてたコトがわかったの……?」

 恐る恐る尋ねると、硝子が計佑に視線を合わせてきて、軽く頷いた。

「……うん、多分わかったと思う」
「すっ、すごいねホント……須々野さんってマジでテレパシーかなんか備わってんの? 何でも分かんだね……」

 計佑の事だけではなく、まくらの心でも簡単に見通せるというのか。
 自分には10年以上の付き合いがあるのにわからない、今のまくらの考え。
それをあっさり見抜いてしまう硝子に、改めて溜息が出る思いだったが、

「……別に、何でもわかる訳じゃないよ。
本当に分かってたら、こんな事態になる前にどうにかしたかった……」

 そんな風に答えた硝子が、はぁっとため息をつくと、

「……とりあえず、目覚くんはまくらの望んだ通りにしてあげればよかったんだよ」

 複雑そうな顔で、そんな事を言ってきて。けれど、それには納得出来なかった。