白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「いっいや、ちょっと待ってよ。さっきも言ったけど、オレあいつのコト褒めたんだよ?
それも珍しく。なのにいきなりキレてくるとか、そんな訳わかんないヒス起こしてる相手に、
髪グシャグシャにする嫌がらせとか、出来る訳ないでしょ?」
そんな風に訴えると、硝子も困った顔になって。
「う……ん。……目覚くんの言う事もわかるよ。
確かに目覚くんからしたら、理不尽な話かもしれない。
……でも、タイミングが悪すぎたの。
以前だったら、目覚くんにそんな風に認められたら、まくらもきっと喜んでたと思う。
……けど、今となっては……」
言葉の最後には、俯いてしまう硝子。
「……ごめん須々野さん、須々野さんの言うことはオレには難しいよ……
出来れば、もっとわかりやすいように教えてほしい、んだけど」
自分ではいくら考えてもわかる気がしないまくらの気持ち。なのに硝子には全部わかってる様子だった。
けれど、硝子の言う事は自分にはさっぱりわからなくて、これではモヤモヤが募るばかりだ。
すがる思いで尋ねたのだけれど、
「……教えたいのはやまやまだけど、そんな事をしたら……私がまくらに絶交されちゃうかもしれない……」
返ってきたのは、そんな返事だった。
申し訳無さそうな顔でそんな事を言われては、それ以上食い下がる事もできなくて。
「……そっか……うぅ〜ん……」
ひとしきり唸って。……そして、とりあえずの方針を決めた。
「……わかった、色々ありがとう須々野さん。随分ヒントは貰えたんだし、
自分でちゃんと考えてみて、また明日にでもまくらと話してみるよ」
苦笑を浮かべて、そんな風に硝子に伝えたが、
「明日!? それじゃ遅いよ! 今日中にでも、どうにか──」
「いやいやっ、待って待って」
慌てる硝子に、割り込んで。
「須々野さんの予想からすると、どうもオレが考えてたよりずっと根が深い話なんだよね?
でも、今は合宿中だし……二人きりで、落ち着いて深い話とかはしづらいよ。
……そもそも、今はオレ、何もわかってないしね」
また苦笑して、一回言葉を切った。
「それに完全にヒス起こしちゃったまくらは、一晩は時間置かないと、かえって意固地になっちゃうんだよね……
これは、長年の付き合いでの経験則だから間違いなく」
「……それは……そうかもしれないけど……」
説得を重ねると、一応は言い分を認めてくれたのか、詰め寄ってきていた硝子が少し下がってくれた。
「……でも! それじゃあ絶対に明日……必ずちゃんとまくらと話してね!? でないと、まくらはもう……」
けれど、最後にはまた必死に訴えてくる硝子に、
「うん、必ず」
そう、微笑を浮かべて約束した。
──けれど、その約束は果たされなかった。
決して、少年は硝子の訴えを、まくらの気持ちを軽んじた訳ではなかった。
しかし、この次の日の少年には、落ち着いて話をする余裕などなかったのだ。
この日の深夜に起きる出来事は、少年にそれ程の衝撃を与えるもので……無理もない事だった。
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この日の夜も昨夜同様、屋上での活動だった。
そして、一人増えただけの事だから班分けも昨夜同様、二手に別れる事になる。
まず、まくらと硝子は一緒になる事を希望して。
すると、今はまくらと気まずい計佑は必然的にもう一人の枠から外れる事になり、
茂武市がそこに入るとなると、結局昨夜と組み合わせがほぼ変わらない事になってしまう。
となれば、雪姫かアリスがそこに入るのが理想だったのだけれど、
アリスは「絶対にけーすけと一緒がいい!」と声を上げ、
そうなると雪姫も、はっきりと口にこそしなかったが明らかにそわそわし始めて。
「はいはい、じゃー先輩は、今日もそっちにどーぞ」
苦笑する茂武市がそう締めて、結局昨夜とほぼ同じ形になるのだった。
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また昨夜と同じ組み合わせになってしまった計佑たち三人。
そして、三人の位置関係も、またまた同じだった。
……そう、アリスが計佑の上にうつ伏せで寝転がっているところまで、全く。
「せ、先輩、あの……」
「ん? どうしたの計佑くんっ? そんな心配そうな顔しなくたって、今日は大丈夫だよっ?」
昨夜の惨劇(?)を忘れられる筈もない計佑が恐る恐る伺えば、雪姫はしっかりと笑顔で応えてくれた。
……不自然なほどの、満面の笑みで。
──ホ、ホントに大丈夫なのか、これ……?
鈍感王子とて、昨日と全く同じ流れを辿っていれば、流石に危険性は理解出来る。
ならば、さっさとアリスを下ろすなりしてしまえば済む話なのだけれど──
「な、なあアリス? お前もうずっとオレの上でうつ伏せのままだろ。いい加減降りて、ちゃんと星観ないか?」
「やっ、もうちょっとだけ……お願い、いいでしょ?」
切なそうな顔で懇願されてしまって、それ以上は言えなくなってしまう。
校門での一件の後、なんだか妙にしおらしくなってしまったアリスに
どうにも調子が狂ってしまって、いつものように強く出れないでいたのだった。
──う、うぅ〜ん……これが、また先輩を煽るとかいう目的だってんなら、そりゃきっぱり叱れるんだけど……
昨夜、そして今朝のドタバタで、
アリスが雪姫の嫉妬を煽って面白がっていた事は、流石にもう理解している少年。
もしまた、同様にイタズラ半分に仕掛けてきているというのなら、
デコピンでも見舞って跳ね返してやるところなのだけれど。
しかし今のアリスの様子は、先の二件の時とは明らかに違う。
前までは、しきりに雪姫の様子を伺っていた筈だけれど、
今のアリスは一心に自分の事を見つめ続けてきていて、それに戸惑わされて。そして──
──……なんか、ホタルみたいな甘えっぷりなんだよな……
ホタルを思いださせるような、べったりと甘えてくる子猫を可愛く思えてしまう気持ちもあって、
結局アリスの望むがままにさせていたのだった。
──……そういや、ホタルはどうしてるかな……もう元の姿に戻ったのかな……
少年は今ひとつ自覚していなかったけれど、
もうあの幼女ホタルに会えないだろうという事に、実は結構な寂寥感を覚えていた。
そして、爪をしまって完全に従順になってしまった子猫少女は、
子犬幼女が抜ける事で出来た、少年の心の穴を見事に埋めてしまう形になっていて。
──まあ、アリスのやつ、先輩を煽ろうとはもうしてないみたいだし……
これなら、以前の状態と同じって事で……それには先輩の許可もらってた訳だし。
……うん、だったら先輩が爆発するなんてコトにはならないハズだ!
少年は結局、
『寂しさをアリスに癒してもらう』という無自覚の欲望に後押しされて──そんな "甘すぎる" 結論を出した。
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一方の雪姫は、悶々としながらも今夜はきっちり自分を抑えるつもりでいた。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON