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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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もしあるのなら、お前は天国に行ってしまい、人を取り殺すような悪霊は地獄に行く羽目になるのだろう。
それでは、お前を殺してしまう意味などない。
……そうは思っても、お前を置いて行く事にはどうしても抵抗があった……」

 一息ついて、

「転生の仕組みもよくわかってはいない。
同時期に逝ったのなら、やはり同時期に転生して来れるんじゃないか? ──そんな考えもあった。
……けれど、悪霊に堕ちた存在に、転生など許されないかもしれない。そんな迷いもあって……」

 話についていけず、相槌すらうてない少年。

「……結局、わからない事だらけだというのなら、己の正直な欲求に従おうかと、そんな風にも思ったんだが……」

 ホタルが苦笑して。

「だがまあ、転生がある事だけは、はっきりしている訳だからな。
素直に次を信じて、危険な橋は渡らず実直に逝く事にしたよ」

 そして、晴れやかに笑うホタルの姿に、どうやら殺されずには済むらしい……
くらいは辛うじて理解できた少年も、色んな意味での複雑な笑みを浮かべた。

「そ、そうか……なんかよくわかんないけど、まあお前がきちんと納得出来てるんなら、良かったよ」
「なんだ、その顔は。命拾いしたんだぞ、もっと満面の笑みをみせてくれよ」

 またホタルが膨れてみせて。
そんな風に、先程から時折見せる、ホタルの以前とは違う振る舞いに再び困惑する。

「そ、そうは言ってもだな……そりゃあ、めでたい事なのは確かなんだろうけど。
でもお前、成仏しちゃうってコトなんだろう?
……やっぱり複雑で、100パーの笑顔で見送れったって、ムリだよ……」

 いよいよホタルとの永遠の別れが来た事を感じ取ってしまえば、
複雑な想いに囚われ、ニコニコと脳天気に笑うなんて不可能に決まっていた。

「ふむ……まあ若いお前では、割り切るのが難しいのは当たり前か。とは言っても、こちらもちょっと引き下がれん」

 言うや否や、ホタルの右手が閃いて計佑の胸をトン、と突いてきた。

「は……? な、なんだ?」

 一瞬の早業に、全く反応出来なかった。
別に痛みはなかったが、何をされたのかと突かれた場所をまさぐっていると──

「……は? うふっ!? はっ、ははは! なっなんだこれ!? くっくすぐった──!」

 あっという間に、体中がくすぐったくなってきた。

「ははははは!! ぜっ、全身くすぐった……!? ホ、ホタルっ、何したんだよっ」

 中腰になって悶えながらも、元凶であろう存在を見やると、

「うーん……笑顔は笑顔だが、これは何か違うな……」

 腕組みをして首を傾げるイタズラ幽霊が、不満そうに見下ろしてきていた。

「はふふっ、ふざけんな! はっ早く止め──」

 立っているのも難しくなってきて、いよいよへたり込みそうになった瞬間、ポンと頭に手が置かれる感触がして。
むず痒さはすぐに消えていった。

「はっ……はあ……はあ……い、いい加減もう勘弁してくれよな……」

 さっきから、一体何度、息を荒くする事態に陥れられているのか。
流石に苛つきを覚えて、ジロリと睨みつけると、

「う……す、すまん。いや、しかしだな?
やはりその、最後に見る顔には、どうしても妥協はしたくなくてだな……」

 珍しくしどろもどろになりながら、パタパタと手まで動かしながら言い訳をする姿は、
やはり以前とは違っていて──なんだか可愛らしかった。
 そんな姿に、一瞬幼女状態の事を思い出して。

「ぷっ……はははっ、そっか。お前の本当の性格って、こういう感じだったんだな」

 幼女の頃の振る舞いや、写真で見た無邪気な笑顔。
 長い年月で随分落ち着いてしまったのだろうけれど、
元々はまくらやアリスのような、元気一杯の少女だったのだろうと想像できて。自然に笑みが零れていた。

「……っ……! そう、その顔だよ。最後は、絶対にその顔を見たかった……」

 ホタルの顔に、ふわりと笑みが広がった。
幸せそうなその笑顔は──そう、写真での、榮治の隣で写っていた時のような。

「────」

 その笑みを見た瞬間、計佑の思考は消えた。無心のままで、ホタルの笑顔を見つめ続ける。

「貴方の笑顔が好き。──ずっと、ずっと好きだった」
「……ホタル……」
「……芳夏だよ。最後には、ちゃんと名前でお別れして……」

 あだ名通りの儚い笑みを、芳夏が浮かべて。

「……芳夏……本当にもう逢えないのか……」
「……逢えるよ。きっとまた、捜し出してみせるから……」

 そう告げたホタルの身体が、すっと宙を滑って計佑との距離を詰める。

「……だから今は、とりあえずのお別れ。また、いつか──」

 その言葉を最後に、ホタルが消える。そして、顔に風を感じた。特に、唇の辺りに強く──
 次の瞬間、視界一杯に、小さくも無数の光がパァッと散った。
 その光は、かつて旅先でも見たことのあるもの。
あの時には、日光の下と言う事もあってあまり目立たなかったけれど、
夜空の下で見る、色とりどりの螢のような光は、幻想的な美しさで目に灼きついた。

「…………」

 無心で、右手を持ち上げた。
散りゆく光の中でも一際蒼い一つが、掌に舞い落ちて。
すぅっと皮膚をすり抜けるようにして──掌に吸い込まれた。
すると、その掌から少年の全身へと蒼い光が広がってゆく。

「…………」

 吸い込まれた一つの光以外は、直ぐに全て、宙に溶けてしまった。

 完全に静寂を取り戻した星空の下で、淡く光を放ったままの少年は、無心で右手を見下ろし続けていた。

─────────────────────────────────

「…………」

 やがて、計佑が纏っていた蒼い光がゆっくりと消えていき。
完全に消えたところで、無心だった計佑の意識が覚醒した。
 顔を上げて、ほぅ、と溜息が漏れて。そして、突然────胸に大穴が空いた。

「──なっ!!?」

 慌ててシャツの中を見下ろす。
……勿論、大穴が出来たなんて錯覚だった。
 けれど、自分の目で確認しても、まだ喪失の感覚は消えなかった。
両手で、胸や背中を何度もさすってみる。問題なし。
確かに視覚も触覚も、『何もおかしい所はない』と伝えてくる。

 なのに、頭──いや、心だろうか──が、相変わらず胸にぽっかりと穴が空いたような感触を感じ続けていた。

「なっ……なんだよ、これ……!?」

──ホタルが、最後に何かやっていったのだろうか?
一瞬、理性がそんな事を考えるが、本能の部分ですぐにそれを否定した。

 ホタルが最後に見せた、あの清廉な微笑みに──決して裏なんかないと確信出来た。
つまり今のこの状態は、自分自身の問題だと認識した瞬間、
『ドクン!!』と心臓が強く悲鳴を上げた。

「ぐっ……!」

 痛みはそれ程でもなかったけれど、あまりの衝撃の強さに、全身がビクリと跳ねた。

「一体……どうなって……」

 心臓に手を当てて、見下ろす。
と、その左手にポツポツッと温かい液体が垂れ落ちてきた。
──雨? と一瞬考えたが、そんな天気ではなかったし、温かい理由もわからなかった。