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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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 冷たい目で見つめられて、もう何も言えなくなった。それでも、ここで黙りこむ訳にはいかなかった。

「ちっ……違う!  別に、拒んだつもりなんてない!!
あの時は、お前がそんなコト考えてたなんて分からなかっただけだ。ちゃんと、そう話してくれれば──」
「──それに、雪姫先輩だっているしね」

 またもまくらに割り込まれてしまって。

──……え? せ、先輩? 先輩が、なんで今の話に……?

 また、言葉の意味がわからなくて黙りこんでしまう。

「……見たよ。あの日の晩……計佑、先輩にしがみついて、ワンワン泣いてた」
「あっ……な!?」

 雪姫にすがりついて、みっともなく泣きわめいていた姿を、妹分に見られていた──
その気恥ずかしさに、顔が熱くなった。

「いっ……いや! 違うんだよ、あれは、オレにもよくわかんないんだよ!!
気がついたらグラウンドにいて、なんか訳もなくすげー泣けてきちゃって。
そこにたまたま先輩が来てくれただけの話で!!」

 必死に弁解したが、まくらの表情に変化は起きなかった。

「雪姫先輩には、少しでもいいトコを見せよう──計佑の立場なら、普通はそう思うよね。
でも、計佑は先輩に、あんな風に泣いて縋りつくことも出来るんだね。
……私には、絶対あんなトコロ見せてくれないのに」

 まくらが、ふうっと一息ついて。

「素直に甘えてくれるカワイイ妹がいて、泣き顔だって晒せるくらい、甘える事が出来る恋人もいて。
……もう、他の女のコなんて。計佑、いらないでしょ?」

 そう問いかけてきながら、まくらが寂しそうな笑みを浮かべてみせた。

「……少なくとも……お父さんは私を必要としてくれるもの。
私に、お父さんについていかないなんて選択肢はないんだよ」

──ずっとお前をほったらかしにしていた父親じゃないか。
──なんでそれでお前を必要としてるなんて言えるんだよ。
──必要としてるっていうんなら、俺のがよっぽど……!

 そんな風に言ってしまいたかったが、やっぱりそれも出来なかった。
けれど今、他に言える事は見つからなくて。黙りこむしか出来ずにいたけれど、

「……まあ、ちょうどよかったのかなって。正直、もう今の暮らしには疲れちゃって、限界だったんだよね」

 そんな言葉をまくらが口にした瞬間、カッと心に炎が灯った。

「……おい。なんだよそれ。疲れたってどういう意味だ……?」
「……っ……」

 自分でも驚くくらい低い声が出て、それにまくらがビクリと息を呑んだ。

「オレの態度に、色々と気に入らないコトがあったのはわかったよ。
……けどな、俺達との暮らしが疲れたってどういう意味だよ。
お前、あんだけオフクロにだって懐いてたじゃないかよ。
オフクロだって、お前のコト実の娘みたいに可愛がってたじゃねーかよ……!
それをお前……っ。
それにっ、須々野さんや、部活のみんなまで切り捨てるのかよっ。
オレにムカつく事なんて、今までだっていくらでもあっただろ!?
なのに何でっ、何で今回はそこまでっ……
疲れたなんて言って、今までの生活、オレの全部、全部を否定すんだよっ……!!」

 こんな風にキレて、怒鳴り散らすような言い方じゃあ、
まくらも逆ギレして、話し合いなんて終わってしまうかも──そんな考えも掠めたけれど、止められなかった。

……いや、いっそそれでも構わなかった。

 話している最中、まくらはずっと穏やかな表情のままで。
こんな、暖簾に腕押し状態のままの会話じゃあ埒なんてあかない、それだったらいっそ、キレさせでもして。
 いつもだったら、キレたまくらはただ見送っていたけれど、
今回ばかりは絶対に逃さないで、徹底的にケンカしてでも──そんな風に考えていた。

……けれど、

「……そうだね。ごめん、今のはヒドイ言い草だったよ」

……やっぱり、まくらの静かな態度は変わらなかった。
殆どヤケになってぶつけた言葉すら、苦笑1つでやり過ごされて。愕然となった。
目を見開いて見つめるしか出来ない内に、

「今日は、ソフト部のみんなが送別会をしてくれる事になってるんだ。
私はもう出るから、鍵のほうはよろしくね、計佑」

 言い残して、まくらがあっさりと部屋を出ていく。

……その後ろ姿を、ただ呆然と見送る事しか出来なかった。

─────────────────────────────────

 やがて、静寂に包まれた部屋の中で、

「……ふざっけんな!! お前までいなくなろうってのかよっ……!!」

 吐き出すように、怒鳴ってしまっていた。──直後、

──……? ……お前『まで』って何だ……誰に続いてって……?

 自分の今の言葉がわからなくて、戸惑いが湧いた。
先にいなくなった──その事実に思い当たるのは、ホタルしかいない。
……けれど、ホタルとは完全に別れた訳ではない。
時々は、ちゃんと顔を見せに帰ってくるのだから。
瞬間移動みたいな真似までやってのけてみせていたのだ、意外とちょくちょく帰ってきてくれる筈なのだ。
だから、ホタルは違うに決まってる──

……そんな風に考えている少年には、自分がどれ程ホタルの事を必死に否定しようとしているのか、自覚はなかった。

 ただ、そうやって思考に耽っている最中、
ふと──自分とホタルがグラウンドにいて、
ホタルが幸せそうな笑顔を浮かべている姿が脳裏をよぎり──ゾワリと悪寒が走った。
慌てて頭を振って、考えるのをやめる。

──……っ! 今は、ホタルの事を考えていても仕方ない。まくらの話のほうが先だろ……

 そんな風に考えて、無理やりにでもまくらの事に考えを戻す。

──合宿から帰ってきた日の晩に、決めた話だって言ってたな……

 合宿から帰ってきた日──それはつまり、一日中、計佑が呆けていた日だ。

「くそっ……須々野さんにも約束してたのに! あの日の内に、ちゃんと話が出来てれば……!!」

 そうしていれば、まくらの誤解だってちゃんと解いて、もしかしたら引き止められていたかもしれない。
なのに、自分は一体何をしていたのか……そんな後悔に、拳を握りしめて。

「ちくしょう……!  あの時のオレは、何だってあんな状態に……」

 どんなに悔やんでも、時間を巻き戻せはしない。
……そして、この少年にはその真相を思い出す事も──決して出来ないのだった。

─────────────────────────────────

「全っ然っ! 納得いかねーよ、おふくろっ!!」

 怒鳴った計佑が、拳をドンっとテーブルに叩きつけて。

「あ〜……はいはい、黙ってたのは悪かったね。
でもくーちゃんは自分で話したいって言ってたし、まさかまだ話してないとはアタシも思ってなかったんだよ」

 計佑の正面に座っている由希子は、のんびりとお茶を飲んでみせていた。

 あの後、自宅へと戻った計佑だったが、当然の事ながら怒りはまるで収まっていなかった。
やり場のない怒りを持て余して、そこでキッチンにいた母を見つけて──ここぞとばかりに、母へとその憤りをぶつけていたのだった。

「そのコトもそうだけどっ……