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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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結局、心のなかでしか言い返せなかったのだった。

「で? そのコとの進展具合はどうなんだい?
……まー、あんたのそのザマからすると、まだ正式にお付き合いとまではいってないんだろうけれど。
それでも、くーちゃ……んんっ、まあ、大方もう両思いで、ゴール直前ってトコなんだろう?」
「おっ、オフクロっ! いい加減にっ……!!」

 さっきまでとは立場が変わって、今度は由希子が身を乗り出してくる。
 けれど初心な少年の方は、先程までの母親のように落ち着いて質問をいなす事などできる筈もなくて。
赤い顔をして、母の追求から必死に逃れようと仰け反ってみせた。

 そんな風に、暫しの間息子の狼狽えっぷりを堪能していた母親だったけれど、
やがて満足したのかニヤニヤとした笑みを消すと、

「……まー、マジメな話。アタシの口から教えてあげる気はないんだよ、くーちゃんのコトなら」
「なっ……!?」

──「冗談だろ、まだからかう気かよ」……そんな言葉は続けられなかった。
真面目な母親の顔を見れば、本気で言っていることは察せられて。

「……なんでだよ……こんな大事な話なのに、なんでそんな意地悪なマネなんて……」
「……別に、意地悪で教えないとかじゃないんだよ。
アンタがこんな風にアタシに甘えてくれんのは珍しいし、教えてやりたいとも思うけれど。
……でも、くーちゃんの気持ちも考えるとね。
やっぱり、アンタが自分で気付かなきゃいけない話なんだよ」

 困ったように苦笑しながら、由希子がそんな風に諭してきて。

「それじゃあ、アタシは仕事に行ってくるからね」

 そんな風に去ろうとした由希子に、
それでも諦めきれずに縋ろうかと考えた瞬間、ケータイがメールの着信を知らせてきた。
 狙いすましたかのようなタイミングでの着信音に水をさされて、
舌打ちしたいような気分で相手をさっと確認したが、

──えっ、先輩……!?

 直前の軽い苛つきなど完全に吹き飛んで、ドキリと心臓を高鳴らせていた。
 雪姫からの連絡は久しぶりだった。
バイトを始めて、二日目辺りまでは連絡をくれたりしていたのだけれど、
計佑が本気で疲れている様子を察して遠慮したのか、それ以降はさっぱり連絡がなくなっていた。
 もちろん計佑のほうも、家族とすらろくに会話も出来ないような状態だったので、
こちらからメールを打つという事もなく──以前の濃密な時間からすると、随分久しぶりの連絡といえるものだった。
 そんな、久しぶりの雪姫との接触に、思わず母親に詰め寄ろうとしていた事も忘れて、慌ててメールを開いた。
そこにあった文面は──

──久しぶり、計佑くん。もう元気取り戻せたかな?
──アルバイト、一昨日で終わりだったんでしょう?
──良かったら、今度一緒に映画でも観に行かない?

 要約すると、そんな内容だった。
そして、そんな文面を読んだ少年の表情には──

──……そうだ……オレも、先輩に会いたい……!!

 久しぶりに、笑みが浮かんでいた。
 計佑がバイトを始めた1番の理由は、雪姫へのプレゼントの為だった。
ちょうどいい、映画を見て、そして雪姫へのプレゼントを一緒に選んで──
そんな風に雪姫の笑顔を思い浮かべると、今朝からずっと暗く淀んでいた気分が晴れる気がして。
すぐに、返信を打ち始めた。

─────────────────────────────────

 計佑が由希子と話をしていた頃。

「ああぁ〜〜……もう10日以上、計佑くんに会えてないよぉ〜〜……」

 自室のベッドにうつ伏せで寝転がった雪姫が、足をバタつかせながらぼやいていた。

「う〜〜っ……う〜〜っ……声すら聞けなくなって、それだってもう一週間以上……」

 ゴロゴロとベッドの上で転がる。

「もう……いいよね? 昨日までガマンすれば、もう十分だよね?」

 誰にともなく尋ねて、ケータイを手にとって。
──昨日は、まだバイトが終わった次の日で、きっとまだ疲れているだろうからと、どうにか自制した。
 けれど、もう一晩明けてみると、いよいよ我慢の限界だった。

 計佑が、危なっかしい様子で合宿から帰って行った日。
 心配で、何度かメールを打ったりしていたのだけれど、
計佑からの返信は「はい」か「いいえ」の一言しかないような簡素なものばかりで。
不安になって、まくらにも連絡をとったけれど、

「ごめんなさい、家には確かに送り届けたんですけど……今日は私も忙しくて、
もう計佑ん家には寄ってる時間なさそうなんです。でもさっき偶然おばちゃんと外で会ったんですけど、
計佑、部屋でじっと大人しくしてるだけだって言うから、そんなに心配しないで大丈夫だと思います」

 貰えた答えは、そんなもので。
 悶々として一日を過ごして、次の日の朝になって、ようやくまともな──いつも通りの──
計佑からのメールが届いて。ようやく安心出来たのだった。

……けれど、そこから雪姫にとってのつらい時間は始まった。
 計佑たち一年は、夏休みの後半には夏期講習がない。
それで、天文部の次回の活動は二学期に入ってからにしようという事になっていて。
 そうして出来た時間を利用して、計佑はバイトを始めてしまって。
最初の一日二日は連絡をとっていたのだけれど、計佑が疲れきっている事は電話越しでもはっきりと理解できた。
 そうなっては、流石に雪姫とてワガママは言えない。
まくらを通じて、ちょくちょく計佑の様子は伺っていたけれど、やっぱり、そんなものでは寂しさは埋めきれなくて。

──とうとう今、限界を迎えた少女が、少年へと連絡をとろうとしていたのだった。

「う〜……ん……計佑くんの声、聞きたいよぉ……でもまずはメールからがいいかなぁ……」

 連絡をとる事は決めたけれど、どういう風に切り出そうか──ケータイを弄びながら、悩み始める。

──何の用もなく、ただ会いたいっていうのはちょっとあれだよね……何か口実ないかな……

 しばらく考えて、

──あ、そうだ! あの女優さんの映画……!!

 結構好きな女優が主演している映画が、今公開中だった事を思い出した。
普段だったらDVDなどで済ませてしまうところだけれど、今回は映画館まで足を運ぶことにしよう。
……まあ、あまり男の子が見るようなタイプの映画ではないのだけれど、それはこの際無視だ。

『貰い物のチケットが余ってるんだけど、カリナはじっと映画を見るとか耐えられない性分なんだよね。
……計佑くん、付き合って!』

 そんな風に頼み込んだら、優しい計佑だったらきっと付き合ってくれる。……と思いたい。
……けれど、恋愛物の映画なんて知ったら、流石にイヤがられそうな気もする。

『他の友達とか、まくらとかと行ったほうが……』

……そんな風に、逃げられそうな気もする。

──……ええい、いつまでも悩んでたって仕方ない!!

 嫌がられるようだったら、計佑が好きそうな映画でも構わないのだ。肝心なのは、計佑と会う事なのだから。
そう意を決して、メールを打つ。

……結局、やはり電話ではなくメールを選んだ。

 理由は、